2022/11/22

規格外の野菜から始まるストーリー  「FARM CANNING」代表 西村千恵さんの「食」に対する想い

weeeat!編集部
規格外の野菜から始まるストーリー  「FARM CANNING」代表 西村千恵さんの「食」に対する想い

「もっと畑を日常に」をコンセプトに、規格外野菜を使った瓶詰めの販売や、農園体験のスクール事業を行っているプロジェクト「FARM CANNING(ファームキャニング)」。
「FARM CANNING」を立ち上げ、代表を務める西村千恵さんに、瓶詰めを始めたきっかけや、「食」に向き合う想いをweeeat!編集部が伺いました。

野菜だけでなく畑での時間や思いも詰め込む「規格外野菜の瓶詰め」の始まり

weeeat!編集部
西村さんが代表をされている「FARM CANNING(※1)」について教えてください。

―西村千恵さん
葉山の無農薬で栽培する農園でお手伝いをしている時に、規格外野菜に出会いました。食べられるにもかかわらず、形や大きさが規格から外れているために出荷できない。環境や社会的に配慮している農業に従事している方をもっと知ってもらいたい、そして規格外の野菜も価値をつけて還元したい、そんなお節介な思いが「FARM CANNING」の始まりです。農園での畑仕事と瓶詰めを楽しむスクールや瓶詰めの製造販売をはじめ、その後規格外野菜を使ったケータリングなど事業を拡大しました。現在は、企業の方に向けて、サスティナブルな取り組みをアドバイスする、サスティナブルコンサルティング事業も行っています。

(※1) FARM CANNING(ファームキャニング):http://www.farmcanning.com/

―weeeat!編集部
規格外野菜の瓶詰めが「FARM CANNING」の始まりなのですね! 以前から畑仕事はされていたのですか?

―西村千恵さん
もともとは東京でオーガニックカフェの運営をしていました。子どもが産まれてから、自然との触れ合いを求めて、葉山に移住したんです。自分のライフスタイルも、人のつながりを大切にするものや、環境に配慮したものを選びたいと思っていました。そんな折に、友人に地元の農園を紹介してもらいました。生態系を崩さないように配慮しながら、少しずつ荒野を切り開き作物を作っていたその農園にすっかり魅了され、ボランティアでお手伝いをさせてもらうことになったのです。

―weeeat!編集部
なるほど! 規格外野菜の瓶詰めの販売を始めたきっかけを教えてください。

―西村千恵さん
アリス・ウォータースさん(Alice Louise Waters)をご存じですか?カリフォルニアのバークレーで、レストランを創業されていて、オーガニック料理の先駆者でもあります。彼女に魅了されて実際にバークレーのお店や近隣の農家さんのところを巡りました。そんな旅の中で、アメリカの瓶詰めのレシピ本に出会ったのです。旬のたくさん取れる野菜を長期的に楽しめるよう瓶詰めにする昔ながらの知恵。これは、日本でも昔から行われていたことだったと気づいたんです。

weeeat! 編集部
日本でも伝統的な手法だったのですね。商品化までの過程で苦労したことを教えてください。

―西村千恵さん
最初に考えていたのは、季節ごとに規格外になってしまった野菜をそのまま買い取り、瓶詰めにすることでした。しかし誰が作っても美味しく、安定したレシピや製法を毎回違う野菜で作るのはとても難しいことだったんです。また出来上がった瓶詰めも、使い勝手の良いものでなければ、購入した方も使い方が分からず結局無駄になってしまいます。まずはそのまま楽しめるスープ、ピクルスなどからスタートしました。レシピや製法を安定させるのに4年ほどを費やし、「VEGGIE BAGNA(ベジバーニャ)」をはじめとする商品が完成しました。

「FARM CANNING」瓶詰めラインナップのご紹介

【VEGGIE BAGNA】シリーズ

アンチョビの代わりに塩麹を使って作ったバーニャカウダソース。
季節ごとに旬のお野菜で作るFARM CANNING定番の商品です。ニンジン、ビーツや季節の野菜のシリーズで、サラダからメイン料理まで、用途に合わせて幅広く使うことができます。

【KOUMI OIL】

香味野菜をごま油とお醤油で煮詰めた万能ダレ。和風のお食事はもちろん、中華などにも活躍してくれます。

同じ思いを持つ仲間と共に、「スローフード」との出会い

―weeeat! 編集部
Slow Food Nippon(※2)の会員としても活動されているとお伺いしました。スローフードとはどのような活動なのでしょうか。

―西村千恵さん
スローフード(※3)は、おいしく健康的で、環境に負荷を与えず、生産者が正当に評価される食文化を目指す社会運動です。各地方の伝統的な食材を守るための支援もスローフードの活動の一つです。

先ほどお話した、アリスさんの活動に感銘を受け色々と学んでいたところ、彼女がスローフードインターナショナルの副理事であることを知りました。それが私とスローフードとの出会いです。ちょうどFARM CANNINGの立ち上げからサスティナブルな社会に向けて学べば学ぶほど、自分の無力さを痛感していたんです。1人で動くことに限界を感じていたんですね。

スローフードの活動を行う方が2年に1度集まる”世界最大の食の祭典”「テッラマードレ」を知り、2016年にイタリアのミラノで開催されたそのお祭りに、私も日本代表団として参加しました。世界中の人たちが熱い想いを持って活動している姿を目の当たりにして、これを私のライフワークにしようと決めたんです。スローフードに共感して活動をしている方の職業も様々で、料理人・流通業者・生産者・教育関係者など多岐にわたります。例えば生産者と言っても、有機栽培農園からスローミート(牧草地で飼育された家畜の肉)やミツバチの活動に携わる生産者など、多種多様な方が集まります。

Slow Food Nipponの代表の渡邉 めぐみさんは、無農薬米農家のお嫁さんでもあるんです。同じ想いを持つ仲間と出会えたのはスローフードのおかげですね。

(※2) Slow Food Nipponhttps://slowfood-nippon.jp

(※3) スローフードとは :https://slowfood-nippon.jp/aboutus/

「問題解決の仕組みを作りたい」社会問題解決への貢献

weeeat! 編集部
コロナ禍では、地元の方へ向けて、総菜の販売もされていたそうですね。

―西村千恵さん
あの時期は人が集まることができなくなってしまったため、ケータリングの仕事がすっかりなくなってしまったんです。外に出られず家にいる時間が多くなったため、お母さんが家族全員の食事を毎日3食作るのは大変だという声を聞くようになりました。

私たちは店舗がないので、地元の造園会社の小屋を借りて月に2回ほど「レスキュー惣菜」と名付けたお惣菜を作って販売することにしました。大きな移動が出来ないご時世だったので、人が集中しないよう受け取りの時間を決めて、ご近所の方々と支え合って出来た活動でしたね。現在、惣菜は販売していませんが、ケータリングを通してもったいない野菜のことや生産者さんの想いを届けたいと思っています。

↑農家さんから届く旬の野菜やもったいない野菜を使ったサステナブルなケータリングの写真

weeeat! 編集部
畑作りからコンサルティングまで幅広い活動をされている西村さんですが、その情熱はどこから来るのでしょうか?

―西村千恵さん
困っている人を放っておけないという気持ちが常にあります。様々な社会問題を寄付や善意でどうにか動かすのではなく、ビジネスで解決したいと思っているんです。私の大きな目標として「問題解決の仕組みを作りたい」という想いがありますね。

3人の子育て真最中なので、思うように動けないこともありますが、アイディアは沢山湧いてきます。例えば今考えているのは、ある地域だけで作られていて、風土や気候に合わせて適応している固定種や在来種などを瓶詰めにすることですね。てやすく品質が揃っている野菜ばかりが選ばれ続けることで、日本のどこへ行っても同じ野菜しか手に入らなくなってしまうのは勿体ないと思います。その地域にしかない野菜で作る地域独自の食文化を、瓶詰めで日本全国に伝えていけたら良いですね。数少ない固定種や在来種を作っている農家さんを応援する意味でも実現していきたいです。

植物の命をいただくということ

weeeat! 編集部
最後に読者の方にメッセージをお願いします。

―西村千恵さん
自分が日々食べているものの背景を知る上でも「種を植える」ことをおすすめしています。種から育てていくと、植物が育つのにはとても手間暇かかることが分かると思います。そうやって毎日育っていく様子を見ていると「自分達は植物の命を口にしている」と気付かされます。

1つの植物を育ててみると、毎日手をかけてやっと大きくなっても、実はちょっとしか採れなかったり、虫に食べられてしまったり。そうなるとスーパーでトマトを見る目が変わってきます。こんな大きくて甘いトマトが4つも入って、1パック290円で買える。その安さに驚きます。農業が工業化されて、いつでもキレイで形の揃った野菜がスーパーに並んでいることで、それを作ってくれている人がいることを忘れてしまっています。お金を出して手に入れる「物」ではなく、その先にいる「人」へ想いを馳せて欲しいですね。

FARM CANNINGで主催している「畑クラブ」に参加された方は、人生の転機を迎え、大きく変化されることが多いんです。土に触れることで自分が動物だったこと、人として本来の姿を見出すのかもしれません。

weeeat!編集部
weeeat!編集部は、私たちの大切な「食」を中心に、人と地球にやさしい情報を発信していきます。 “地球にやさしい取り組み”を共感・実践する仲間とともに、サステナブルな社会と文化を目指します。

Share

あわせて読みたい記事

    Topへ