和ごはん研究家 麻生怜菜さんに聞く、「ゆる精進料理」のススメ
家庭で作る、簡単でヘルシーな精進料理「ゆる精進料理®」を提案する和ごはん研究家 麻生怜菜さん。身体に負担をかけない精進料理の調理法やシンプルな味付けはそのままに、冷蔵庫にある身近な食材を使って、毎日手軽に作れる精進料理レシピを発信しています。今回はさまざまなメディアで活躍中の麻生怜菜さんに、精進料理の考え方や、旬の食材を使ったおすすめの精進料理について伺いました。
地域によって違う「精進料理」
―weeeat!編集部
「精進料理」と聞くと、なんだか難しそうなイメージがあります。そもそも精進料理とはどういう料理なのでしょうか?
―麻生さん
精進料理は日本の伝統的な料理形式のひとつで、精進物(野菜類・穀類・海藻類・豆類・木の実・果実など)で作る料理のことです。動物性食品を摂らないという点ではヴィーガンと似ていますが、精進料理は殺生を禁じる仏教の考え方に由来します。そのため、精進料理では肉や魚をはじめとした殺生を伴う動物性の食品を使いません。
―weeeat!編集部
なるほど。どんな食材を使うのですか?
―麻生さん
お寺や地域によって異なりますが、基本的には地元で採れた旬の食材を使ったり、檀家さんからいただいたお供物を使って調理したりするので、地域性豊かな食材や、その土地に伝わる伝統的な料理が食卓に並びます。
―weeeat!編集部
精進料理にも地域性があるんですね! 麻生さんは、以前加賀の精進料理を手がけていましたが、どのような特徴があるのでしょうか?
―麻生さん
加賀料理は、京風の食文化に影響を受けて、精進料理も出汁(主に昆布)をきかせた上品なものが多いです。加賀れんこん・五郎島金時・源助だいこんなどの加賀野菜が使われます。蓮根をすりおろして蒸した「蓮蒸し」も加賀の食文化ですね。蓮根のでんぷん質が固まってくれるので、丸めて肉団子風にしたりなど、食べ応えのあるメイン料理になります。
また、お隣の福井(越前)の方では、「ざぶとん揚げ」と言われる油揚げがあって、ほぼ厚揚げというくらい大きくて分厚いのが特徴です。本物のお肉のようなジューシーさがあります。
精進料理には肉や魚、香辛料を一切使わないという制限があることから、野菜(豆類)などの植物性の食材を動物性の食材のように見せる「もどき料理」が生まれました。精進料理は、さまざまな工夫のもとに地域ごとに発展してきた料理と言えるでしょう。
―weeeat!編集部
旅行をしながら地域ごとの精進料理を味わうというのも楽しそうですね。
精進料理を取り入れるようになって、体調や肌質も改善
―weeeat!編集部
麻生さんは料理教室やテレビ番組への出演など、多方面で活躍されていますが、精進料理を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
―麻生さん
結婚した際に夫の実家がお寺だったので、そこで精進料理を知りました。檀家さんと一緒に行事食を作ったのですが、旬の野菜を使った煮物、豆腐の中に野菜がふんだんに入った「がんもどき」などを食べた時に「食物繊維がたっぷり摂れてカロリーも少なそう。まさに究極のヘルシー料理だ」と思いました。
―weeeat!編集部
それまでも、食生活には気を遣われていたのですか?
―麻生さん
結婚する前は「コンビニ食」が中心で、どちらかというと料理を作る機会も多くありませんでした。また、便秘がちで肌の状態もよくなく、体質のせいだとあきらめていましたが、野菜・乾物・海藻中心の食生活にしていくと、体調や肌質も改善し、お通じも良くなったのです。
―weeeat!編集部
ご自身の体験がベースにあったんですね!
長く続けてほしいから「ゆる精進料理」
―麻生さん
はい。昔から日本で作られてきた、身体に負担をかけない精進料理の調理法やシンプルな味付け、工夫すれば野菜だけでもバリエーションを出せること……いろんなことに気づかされましたね。それから平日会社員をしながら、週末はいろんなお寺を回って精進料理を味わったり、精進料理の料理教室に通ったりと見聞を広げました。
―weeeat!編集部
料理教室にも通ったんですね。精進料理は旬の食材を使っていて、かつヘルシーというのは理解できるのですが、それを実際に作ろうとするとハードルが高い気がしていて……。
―麻生さん
そうですよね。初めに通った精進料理教室はお出汁からとるし、すごく手が込んでいて、全部作ろうと思ったら何時間もかかるものばかり。当時は料理レシピのコミュニティサイトを運営する会社で働いていたこともあって、いかに簡単に美味しい料理を作るかというニーズに向き合うことも大切だと考えていました。その後自分なりに試作を繰り返して、なるべく簡単で美味しい精進料理の作り方を突き詰めていきました。
―weeeat!編集部
そこから、麻生さんの「ゆる精進料理」につながっていくんですね!
―麻生さん
はい。精進料理は仏教の修行に取り組む人に出す料理とはいえ、平日はなかなか調理時間が確保できないという人も多いですし、厳密にやろうとすると長続きもしません。例えば、ごま豆腐をちゃんと作ろうとすると、ごまをすり鉢ですってすりごまにして、にじんできた油をきれいにかき集めてガーゼでこして、それからごまのタレを作って、そのタレをおだしと葛粉と合わせて練っていく……。そうすると2~3時間はかかってしまいますよね。
でも、今はねりごまという商品があるので、それに葛粉や片栗粉、おだしを入れて作ると10分程度で作ることができます。身体に負担をかけない精進料理の調理法やシンプルな味付けを取り入れながら、現代の忙しい方向けに、身近にある食材で簡単に作るのが「ゆる精進料理」です。
―weeeat!編集部
ちゃんとしたごはんを作りたいと思いながらも、小さい子どもがいると料理する時間も限られます。でも、「ゆる精進料理」だったら家庭でも作れそうですね。
―麻生さん
精進料理には「簡単」という概念がありませんが、実践しないことには精進料理の魅力もわかりません。まずは、精進料理のファーストステップだと捉えて、「ゆる精進料理」を始めていただきたいです。
春を味わう! ゆる精進料理「グリンピースごはん」の作り方
―weeeat!編集部
今日から始められる「ゆる精進料理」があれば教えてください。
―麻生さん
まずは、おだしを変えるところから始めてみましょう。私自身、結婚する前は顆粒だしを使っていましたが、精進料理を学ぶようになってからは、昆布と干し椎茸からおだしをとるようになりました。精進料理ではだしも植物性のものを使います。
―weeeat!編集部
おだしからとった方が美味しいというのはわかっていますが、手間が掛かりそう……。
―麻生さん
そんな時は、麦茶パックに昆布1枚、干し椎茸2個を入れて、水を入れた鍋にポトンと落とすだけ。夜寝る前に作っておけば、翌日には美味しいだし汁ができています。味噌汁に使えば、おだしの風味が際立って美味しいんです。美味しいおだしを作る習慣を取り入れるところから、精進料理を始めてみましょう。
―weeeat!編集部
昆布と干し椎茸だけで、そんなに味が変わるんですね!
―麻生さん
そうなんです。煮物でも味噌汁でも、昆布を1枚入れるだけで多少塩や醤油を減らしても味が整いますからね。おだしを作ってないときは、その場で昆布を入れるだけでもいいです。
―weeeat!編集部
麦茶パックで美味しいおだしが作れるなんて、目からウロコです。
―麻生さん
余っただし汁は製氷皿に入れて凍らせておけば、時間がない時に重宝します。残った昆布と干し椎茸は刻んで味噌汁に入れてもいいですし、食料保存袋に入れて冷凍保存するのもおすすめです。1~2週間分ためていくと結構な量になるので、ざっくり刻んで佃煮に。お弁当やおにぎりの具材に加えていただきたいです。
―weeeat!編集部
ムダなく使えるのもうれしいですね! 他に「ゆる精進料理」におすすめの食材はありますか?
―麻生さん
そうですね。旬の食材で言えば、グリンピースはいかがでしょうか。冷凍のグリーンピースは1年中販売されていますが、さやつきのグリンピースを買えるのは春だけです。
―weeeat!編集部
どのように料理すればよいでしょうか?
―麻生さん
グリンピースごはんを作りましょう。作り方は簡単です。
①まずさやからグリーンピースを取り出してお湯で茹でます。
②グリンピースの香りを生かすために、残ったさやは捨てずに炊飯器に入れて米と一緒に炊きます。
③グリンピースを米と一緒に炊き上げるとグリンピースが茶色になるので、ごはんが炊けてから混ぜましょう。色は鮮やか、豆の香りが引き立つグリンピースごはんのできあがりです。
―weeeat!編集部
さやと一緒に炊き上げるという発想がなかったので驚きました。一品あるだけで春を感じられそうですね!
―麻生さん
夏になったらとうもろこしもおすすめです。
①とうもろこしは皮をむいた後に、ひげを取り除いて茹でます(蒸してもO K)。
②茹で上がったとうもろこしから実をほぐしておき、先ほどの皮、実をほぐした芯と塩ひとつまみを加えて米と一緒に炊き上げます。
③炊き上がったら芯を取り除き、茹でておいたとうもろこしの実を加えて、さっくりと混ぜたら完成です。物足りないようであれば、炊飯器に水を入れるのではなく、先ほど紹介した昆布と干し椎茸のだし汁を入れてもいいでしょう。
―weeeat!編集部
確かに、「ゆる精進料理」なら続けられそうです。家でも作ってみたいと思います。
―麻生さん
厳密にやろうとはせずに、旬の食材をひとつ選んでチャレンジしてみてくださいね。
精進料理は地産地消
―weeeat!編集部
昨今の健康食ブームから精進料理に注目が集まっています。精進料理の今後の可能性について教えてください。
―麻生さん
先進国の中でも日本の食料自給率は低く、その大半を輸入に頼っています。原因はいくつかあると思いますが、私たちが日本、ひいては地域の食材を選ばないことにも原因があると考えています。例えば、スーパーで並んでいるタケノコやウドを見て、調理が難しそうだから、手間だからといった理由で買わない人は多いもの。育てても売れなければ、作り手の方も減っていく一方です。
精進料理は地元で採れた食材を使って作るものです。精進料理がより身近になれば、地元の食材に興味を持つようになり、最終的に食糧問題の解決に貢献できると考えています。また、精進料理には食材を使い切るという概念があります。その精神が広まれば食品ロスの削減にも貢献できるでしょう。
―weeeat!編集部
確かにスーパーには手軽に調理できる食材ばかりが並んでいますね。
―麻生さん
はい。こごみやふきのとうなどを取り扱っているスーパーも少なくなりましたね。やはり、売れるものを優先して仕入れますよね。消費者側の私自身が、残したい食文化を取捨選択しなければと思って、旬の野菜たちが出てきたら、季節仕事だと思って手にとることを心がけるようになりました。
―weeeat!編集部
「ゆる精進料理」で旬の食材を使っていれば、自然と食材に対する興味や関心も高まりますね。
―麻生さん
その通りです。特に若い世代に興味を持ってほしいですね。私自身もそうでしたが、小さい頃に一度も口にしなかった食材は、大人になってからも選びません。親世代が選ばなければ子どもが口にする機会は減り、ますます作り手の数は減っていくでしょう。そうならないためにも、食育として、地域の食材を使って料理することが大切なのだと思います。
―weeeat!編集部
最近、お子様と一緒にシェア畑を始められたと伺いましたが、それも食育の一環として始められたのでしょうか?
―麻生さん
はい。わが家には8歳と4歳の子どもがいるのですが、コロナ禍でじゃがいも掘りや小松菜採りといった学校行事がなくなってしまったんです。このままでは収穫体験を知らずに育ってしまうと考えて、シェア畑を始めました。週末だけですが、農家さんの大変さや食材を作る難しさを知ってほしいと考えています。
20年後、30年後に旬の食材が残っているかどうかは、私たちの子どもの世代がその食材を使えるかどうかにかかっています。「ゆる精進料理」を通して、精進料理の普及はもちろん、子どもたちやその親御さんの食材に対する興味や関心を高めていきたいです。
関連リンク
和ごはん研究家 麻生怜菜
和ごはん研究家 麻生怜菜
書籍情報
寺嫁ごはん 心と体がホッとする“ゆる精進料理” (幻冬舎)