2023/05/10

コンポストがつなぐ「畑と食卓」。鴨志田農園がデザインする未来のサーキュラーエコノミー

weeeat!編集部
コンポストがつなぐ「畑と食卓」。鴨志田農園がデザインする未来のサーキュラーエコノミー

東京・三鷹市で野菜を栽培する「鴨志田農園」。6代目として農園を営む鴨志田純さんのこだわりは、なんと言っても良質な堆肥(土)づくり。「畑に何を与えるかで土壌の性質が決まる」という考えのもと、落ち葉やもみ殻といった原料を使用した完熟堆肥を用いて、40種類以上の野菜を育てています。コンポストアドバイザーとして、国内外で生ごみ堆肥化や有機農業の仕組みの普及活動にも取り組む鴨志田さんに、先代から農園を継がれた経緯や、コンポストアドバイザーとしての活動内容について伺いました。

数学教師から農家へ。生ごみの堆肥化で雇用創出・ゴミ問題の解決に挑む

―weeeat!編集部
鴨志田さんはもともと中高一貫校で数学教師をされていたと聞きました。どのような経緯で農園を引き継ぐことになったんですか?

―鴨志田さん
農業に携わるきっかけは、2014年に先代だった父親が突然亡くなったこと。子どもの頃に畑仕事を手伝った記憶はありますが、ほぼ未経験状態からのスタートで、農作物の育て方を一から学びました。兼業農家として、数学教師との二足の草鞋を履きながら農園を引き継ぎました。

―weeeat!編集部
農業について教えてくれる人がいない中で、異業種からの就農となると大変そうですね。学生時代から行動派だったのでしょうか?

―鴨志田さん
そうですね。中学生の時は青少年赤十字海外派遣事業でラオスを訪れ、現地の学校にも足を運びました。雨漏りで朽ちている机に子どもたちがところ狭しと並び、1冊の使い古された教科書を見ているという光景は子どもながらに衝撃でしたね。発展途上国の現状に直面し、日本の当たり前が、世界では当たり前でないことに気づかされました。それから海外や国内の社会問題に関心を持つようになり、大学卒業後は地球一周、自転車で日本縦断、ヒッチハイク、バックパッカーの旅を続け、2年間程で47都道府県・世界30カ国を回りました。これらの旅を通して、自分の体で感じた社会問題を日常生活でどのように解決していくかを考えました。そして、教育と農業をかけ合わせることでこそ、「伝えられる」ことがあると気付きました。

―weeeat!編集部
自分の身をもって地球一周、日本縦断の旅を続け、そこから見えてきた課題を自分の生活に落とし込む……その経験が、コンポストアドバイザーとしての活動に結びついている、ということですね。 

―鴨志田さん
はい。農園を引き継いで1年が経ったころ、とあるネパール人女性から1通のメールが届きました。そこには「どうやったら無農薬でこんなにきれいな野菜をつくれるのか?」という内容が記されていました。突然の問い合わせに驚きながらも、メールを通じて野菜のつくり方を教えていたところ、そのお礼にとコーヒー豆を送ってくれたんです。ネパールから日本までコーヒー豆を送るには、現地の給料で5〜10日分ほどの費用がかかります。日本でも感謝の気持ちを伝える機会が減っている中で、ここまでしてくれたことに興味が湧き、2016年の3月にネパールまで会いにいきました。

現地では、働く場所が少なくゴミを拾って生計を立てている人が多いこと、そして大量に廃棄された生ごみの自然発火や悪臭が社会問題になっていることを目の当たりにしました。そこで提案したのが「生ごみの堆肥化」です。生ごみを堆肥化し有機農業を推進できれば、雇用の場を創出しながらゴミの自然発火も解決できると考えました。

―weeeat!編集部
そこから堆肥づくりを学ぶわけですね。

―鴨志田さん
はい。日本に帰国後、堆肥づくりについて勉強する中で、完熟堆肥を提唱する三重県の農家さんと出会い、休みのたびに通いながら堆肥づくりの技術を身につけました。最終的にネパールでの堆肥づくりは国家プロジェクトして位置付けられ、私自身はコンポストアドバイザーとして、生ごみの堆肥化と有機農業のシステムづくりに取り組みました。

鴨志田さんとネパールの女性たち

フードマイレージならぬ「コンポストマイレージ」

―weeeat!編集部
「鴨志田農園」では、無農薬・無化学肥料の野菜を栽培されていますが、無農薬・無化学肥料で栽培することの難しさについて教えてください。

―鴨志田さん
農薬や化学肥料を使わないため、病害虫が発生すると被害の拡大を防ぐことができないという難しさはあると思います。しかしながら、堆肥づくりの段階で未熟な有機物が入らないようにすれば、ある程度病害虫のリスクを抑えることができます。

―weeeat!編集部
確かにそうですね。

―鴨志田さん
よく「人間は食べるものでできている」と言われますが、畑においても同様で、どんな堆肥を使うかによって土壌の性質が決まります。例えば、同じ野菜を育てるにしても、腐りやすい、分解が進んでいない堆肥を使うのと、しっかりと発酵分解が進んだ堆肥を使うのでは味が異なります。発酵が十分でない堆肥を畑に入れると、病害を招くばかりか土中で腐敗することも多く、最終的にその性質が野菜に出てしまいます。完熟した堆肥を入れるだけで病気が出にくくなりますし、野菜の味もすっきりとした甘さに仕上がりますよ。

―weeeat!編集部
堆肥ひとつで、そんなに違うんですね!

―鴨志田さん
はい。当農園では、堆肥を「主に有機物を微生物の働きによって、高温で発酵・分解・熟成させた肥料」と定義しています。「高温」というのがポイントで、堆肥の原料となる落ち葉を最低1ヶ月間60度以上の高温で発酵させて、堆肥中の病原菌や雑草の種子を死滅させた堆肥を使用することで、堆肥投入後の腐敗を防いでいます。

温度計

―weeeat!編集部
美味しい野菜は良質な堆肥から。忘れがちですが、大切な視点ですよね。

―鴨志田さん
そうですね。対症療法的に、病害虫が発生したら農薬で対処していくということも大切ですが、東洋医学的な視点で、問題の根本から整えていくことも大切です。昔から、農家には「苗半作」という言葉が伝わっています。これは苗の良し悪しによって作柄の半分が決まると言われるほど、苗づくりが重要なポイントであることを意味しています。良い苗を育てるには、やはり良質な堆肥が欠かせません。

―weeeat!編集部
「堆肥」というと、食べ物や家畜の糞を使ったものをイメージしていましたが、「鴨志田農園」では落ち葉などを使っているんですね。

―鴨志田さん
はい。当農園では落ち葉やもみ殻、建設残土といった未利用資源を用いた堆肥づくりにこだわっています。また、フードマイレージならぬ「コンポストマイレージ」の観点から、堆肥は地域の20キロメートル圏内から集めた資材だけを使用。落ち葉は近所の公園から、もみ殻はライスセンター、建設残土は建設業者からというように、地域から出るゴミを資源として堆肥に転換し、その堆肥で作った農作物を流通させるという取り組みを行なっています。

―weeeat!編集部
「コンポレストマイレージ」というのはおもしろい考え方ですね!

―鴨志田さん
国内農林水産業の生産力強化や持続可能性の向上を目指して、農林水産省は「みどりの食料システム戦略」を打ち出しています。2050年までに、日本の耕地面積に占める有機農業の割合を25%に拡大することを目標としていますが、農作物を作るための肥料の大半を輸入に頼っているのが現状です。食料の自給と同様に、肥料の自給や流通の問題は早急に解決しなければなりません。

地域において、自律分散的にコンポストの仕組みを構築するために、当農園では人材育成を行なっています。北は北海道、南は福岡県から43名ほどの生徒に通っていただきましたが、5,000人の1人くらいの割合でこういった技術者がいると、日本の資源循環はよりいっそう進むと思います。彼らが中心となって、地域循環の仕組みをデザインしていってほしいと考えています。

野菜を手に笑顔の鴨志田さんら

「サーキュラーエコノミー型CSA」目指す未来

―weeeat!編集部
「鴨志田農園」さんでは野菜のサブスクを行なっていると聞きました。これも新しい農業の形ですよね!

―鴨志田さん
ありがとうございます。地産地消だけにとどまらない地域循環を推し進めていくには、やはり新しい循環モデルが必要です。そこで始めたのがサーキュラーエコノミー型CSA。CSAとはCommunity Supported Agricultureの略で、生産者と消費者が連携し、前払いによる農作物の契約を通じて相互に支え合う「地域支援型農業」のことです。あらかじめ落ち葉やもみ殻などを予備発酵させた基材をコンポストケースにいれて各家庭にお渡しして、そこに生ごみを入れてもらい、いっぱいになったら当農園に持ってきてもらって堆肥化します。そして、その堆肥を使って育てた野菜を家庭に届けるという流れです。

サーキュラーエコノミー型CSA

―weeeat!編集部

ご家庭にとっては生ごみが減るだけでなく、美味しい野菜も食べられて一石二鳥ですね。

―鴨志田さん

その「美味しい」というのが大事なポイント。人それぞれ置かれている状況が違えば、生活も違いますし、環境に対する意識も違います。「環境のために」と訴えるよりも、普段から口にする野菜が美味しいことに気づき、調べてみると、実は環境負荷の軽減につながっていることに気づくというのが自然な流れだと思います。人に何かを伝える時には、つい言葉で多くを語りがちですが、仕組みやデザインを通じて、多くの方に気づきを提供できたらと考えています。

―weeeat!編集部

確かに、「鴨志田農園」のSNSでは無農薬・無化学肥料という言葉が使われていませんね。コンポストアドバイザーとして、また「鴨志田農園」として今後の展望を教えてください。

―鴨志田さん

そうですね。先述したサーキュラーエコノミー型CSAでは、これまでに多くのご家庭にご参加いただき、結果として助燃剤の削減につながっています。しかしながら、回収した生ごみを堆肥化して畑に撒く際に、養分全般について、地域から流亡した分と野菜として収穫する分の収支がきちんと合っているのか、また自分の所属する流域(※1)で各家庭が農家さんと協力して堆肥化を進めることによって、どれだけ地域の環境負担軽減に貢献できるのか、どれだけ循環形成できているのかということを、データとして提示していかなければなりません。これは今後の課題ですね。

(※1)鴨志田農園の場合、多摩川流域

コンポストは、さまざまな社会課題を解決する可能性を秘めています。例えば、災害時には排泄物を分解処理できる防災トイレになりますし、コンポストの熱を利用して床暖房として使用することで環境負荷を軽減することもできます。また刑務所の中のコンポストで作った堆肥を地域の農家さんに使ってもらい、育った野菜を地域の飲食店に販売する……コンポストを中心に地域が連携することで、これまでになかった社会との結びつきや雇用の場を生み出すことも可能でしょう。コンポストを軸に異なる分野の専門家が会話することでイノベーションも生まれます。今後もさまざまな取り組みを通じてコンポストが持つポテンシャルを引き出しながら、公共インフラとして発展させていきたいです。

店舗情報・商品入手先

鴨志田農園

店舗名 鴨志田農園
住所 〒181-0012 東京都三鷹市上連雀6-31-16 カナール・コーポ
鴨志田農園の商品は「食べチョク」などの通販サイトで購入することができます。開催されるイベントなどの最新情報はInstagramをご覧ください。

通販サイト:https://www.tabechoku.com/producers/20240
Instagram:https://www.instagram.com/kamoshida_farm/

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