2023/05/24

麹料理クリエイター小紺有花さんに聞く「人生を変える発酵食のチカラ」

weeeat!編集部
麹料理クリエイター小紺有花さんに聞く「人生を変える発酵食のチカラ」

長い歴史の中で、時代の流れや生活習慣に応じて、進化し続けてきた発酵食。先人たちの知恵の詰まった発酵食文化を次世代へつないでいくために、麹をはじめとした発酵食品の活用法やレシピを提案するのが麹料理クリエイター・小紺有花さんです。元祖麹料理研究家としてさまざまなメディアで活躍中の小紺さんに、発酵食の魅力や気軽に始められる麹料理について伺いました。

時代の潮流や現代のニーズに合った「麹食文化」を提案

―weeeat!編集部

小紺さんは元祖麹料理研究家として活動されているとのことですが、どのような活動をされているのでしょうか?

―小紺さん

主な活動内容は、麹をはじめとする発酵食を手軽に家庭で実践できる方法や、レシピの発信・提案です。SNSを活用して朝ごはんを作る様子をほぼ毎朝リアルタイムで発信しながら、寄せられたコメントや質問にお答えする「朝ライブ」も好評です。また、独自に「醸し(かもし)塾」という講座を開講し、基本的な発酵食の作り方を指導する基礎科から、麹食文化の担い手を育てる本格的な伝道師養成講座まで、今の時代にフィットした、気軽に楽しく実践できる発酵食の活用法をお伝えしています。

―weeeat!編集部

昨今の健康ブームの流れから、発酵食に注目が集まっています。こうした現状について、どのようにご覧になっていますか? 

―小紺さん

たくさんの方に麹や発酵食文化の素晴らしさを知ってもらえるようになってとても嬉しいです。特にコロナ以降、食や家庭料理への関心が高まる中で食生活が見直され、ここ2、3年で発酵食を始めた方も多くいらっしゃいます。その一方で、家庭料理の伝承が途絶えつつあるという現状は切実な問題です。本来、家庭料理は祖母から母へ、母から娘へと家庭の中で伝承されていくもの。この失われつつある家庭料理の伝承を、コミュニティや料理教室を通じて、みんなで知恵を寄せ合いながら再構築していく。その手助けをしたいという想いで活動しています。

―weeeat!編集部

確かに、親が作らなかった料理は子どもも作らないという話は聞いたことがあります。このままでは、世代を重ねるごとに料理の幅もどんどん狭まってしまいそうです。 

―小紺さん

「朝ライブ」に参加してくださっているのは、麹や発酵食、家庭料理に対して関心が高い方達ですが、世の中にはそうではない方もたくさんいます。煮干しの扱い方がわからない方、お出汁の取り方がわからない方、中にはうま味調味料を使わないと味付けできない方もいます。発酵食や自然食は難しいと思っていて実践できない人が多いのです。ただし、そういう方も「やり方を知らない」だけですから、もっと簡単に発酵食や自然食が実践できるという情報を拡散していくことも私自身の役割だと考えています。

―weeeat!編集部

「家庭料理の伝承が途絶えている」というお話でしたが、原因としては女性の社会進出や、外食も利用しやすくなったということが関係しているのでしょうか?

―小紺さん

女性の社会進出も原因のひとつです。仕事や子育てで忙しい中で、朝からご飯を炊いていられない、味噌汁を作っていられないという方も多いと思います。家庭でご飯を炊かなければ醤油、味噌、漬物といった発酵食が食卓に上がる機会も少なくなっているということ。食生活の変化に拍車をかけるように食のグローバル化が進み、今や日本にいながら世界各国の料理を食べることも不可能ではなくなりました。

海外の食文化の影響を受けるということ自体は、悪いことではありません。実際、伝統的な日本の食文化には海外の食文化を柔軟に取り入れて発展したものが多くあります。ただし、日本の類稀なる伝統食文化の根底を支える「麹」を失ってはいけません。現代人が好きなパスタ、カレー、餃子、フライドチキン、ハンバーガーなどにも麹を活用して調理する方法を提案することで、麹食文化が次世代へ伝承されていくと確信しています。大切なのは、「古いものをコピー&ペーストすることが伝統を守ること」ではないということ。先人たちが築いた知恵を礎に、時代の潮流やニーズ、現代人の嗜好に合った「新しい麹食文化」を創造していくことこそが伝統の継承になるという想いで活動を続けています。

小紺有花さん

甘酒から麹の世界へ。甘酒が醸し出す美味しさに魅せられて

―weeeat!編集部

小紺さんが発酵食に興味を持つようになった経緯を教えてください。

―小紺さん

子どもたちのアレルギーがきっかけで、自然食や穀物菜食に興味を持つようになり、独学で研究を始めました。そんな時に出合ったのが、米麹を発酵させて作る甘酒でした。私が住んでいる石川県では米麹の発酵食文化が今も根強く残っており、冬になるとかぶら寿しや大根寿しなどの麹漬け用の生の米麹(生糀)がスーパーの棚に並びます。なので、甘酒作りにとても気軽にチャレンジすることが出来ました。早速自宅で甘酒を作ってみたところ、思いのほか美味しくできたのです。

―weeeat!編集部

その後、甘酒から料理に展開していくのでしょうか?

―小紺さん

はい。私が実践した自然食や穀物菜食では白砂糖を使いません。料理に甘味を加えたい時にはメイプルシロップ、本みりん、甘酒などを使います。当時は甘酒を使った料理レシピも少なく、手探りではありましたが、肉じゃが、トマトソース、カレー……とにかく自分が作るすべての料理に甘酒を加えたところ、どれもすごく美味しくなって一人で感動していました(笑)。麹が醸し出す美味しさに魅せられたのはこの頃からですね。

―weeeat!編集部

甘酒を料理に使うという発想がなかったので、驚きました!

―小紺さん

そうなのです。この感動を独り占めしているのはもったいない、一人でも多くの人にシェアしたいという想いから、HPやメーリングリストなどで甘酒の使い方やレシピを気の向くままに発信していたところ、たくさんの方の目に留まり、麹料理の記事の連載やレシピ開発などの依頼をいただくようになりました。

―weeeat!編集部

そこから麹の世界に進むわけですね! 料理に使う甘酒は市販のものでも大丈夫でしょうか?

―小紺さん

はい、大丈夫です!自分で甘酒を作るとなるとハードルがちょっと高くなりますよね。まずは市販の甘酒からチャレンジしてみて下さい。飲み口がさらっとしたドリンクタイプよりも、どろっとしたおかゆ状の甘酒(濃縮タイプ)の方が料理には使いやすいです。近頃はスーパーでも豊富に取り揃えてあるので、ぜひ一度試していただきたいです。

今日食べるひと口が明日の自分を作る

―weeeat!編集部

私たちweeeat!編集部も麹をはじめとした発酵食に注目しているのですが、気軽に始められる糀料理があれば教えてください。

―小紺さん

ありがとうございます。麹を使った料理はたくさんありますが、あえて味噌汁に立ち返っていただきたいです。味噌は麹の発酵調味料の中でも体を元気づける力が最もパワフルですし、どのスーパーにも売っているし、大体どのご家庭にもあると思うので、身近で取り入れやすいと思います。活動当初は、味噌汁をあまり飲まなくなった人達に味噌汁をオススメしてもあまり意味がないかと思って、味噌を使ってパスタやカレー、ハンバーグなど、味噌汁以外のレシピをメインに提案していましたが、やはり一周回って味噌汁だなと(笑)。

―weeeat!編集部

味噌汁とは意外でした!

―小紺さん

はい。味噌汁も立派な麹料理なのですよ。味噌汁にはお出汁が欠かせませんが、お出汁も日本を代表する食文化。うま味調味料を使う味噌汁ではなく、昆布とかつお・煮干しなどで取った本物のお出汁で調える味噌汁をぜひ味わっていただきたいです。

先人達が築き上げてきた味噌の醸造技術の素晴らしさはもちろんのこと、味噌やお出汁の健康食としての機能性も特筆すべきものがあります。味噌汁一杯でビタミン・ミネラル・タンパク質などの栄養素をバランスよく吸収できますから、味噌汁とご飯、そこに漬物や海苔を添えるだけ十分栄養価の整った食卓になります。温かい味噌汁の滋味滋養が身体中に染み渡ると幸福感に満たされます。まさに日本が世界に誇る伝統食です。

―weeeat!編集部

小紺さんは利酒師・ソムリエとしての活動も行っていると伺いました。ホームページでは「酒道(しゅどう)」と紹介されていましたが、日本酒やワインの魅力について教えてください。

―小紺さん

酒道に興味を持っていただけるのは、とてもうれしいです。お酒は最も古い発酵食のひとつです。日本酒にしても、ワインにしても穀物や果実が醸されて美しい液体へ変貌していく様はとてもダイナミックであり、神秘的です。さらに、そのお酒の一滴一滴は職人たちが築き上げてきた醸造の技と情熱の結晶であると考えると、お酒はまさに発酵の芸術品とも言えるでしょう。

お酒は国や時代を問わず、常にコミュニティの中心にあり、食文化の発展において大きな役割を担ってきました。その一方で、お酒には「中毒性のある合法的な薬物」という側面も持ち合わせています。だからこそ、お酒をきちんとたしなむ教養が大切です。発酵食のプロとしての目線を活かして、清く・正しく・楽しく・美味しくお酒をたしなむ教養を「酒道」と捉えて発信しています。

―weeeat!編集部

お酒を発酵食と考えたことがありませんでした! 何気ない日常も大切にしたくなりますね。

小紺さんは今後どのような情報を発信していきたいですか?

―小紺さん

そうですね。自らの影響力を高めていくことでしょうか。食には人生を大きく変えるチカラがあり、今日食べるひと口が明日の自分を作るのです。でも、それを教えてくれる人が周りにいないと、どうしても「他人ごと」に聞こえてしまいます。中には「何を食べても生きていけるでしょう」と考える方がいます。確かに何を食べてもそれなりに生きていくことができますが、心身の健やかさや食べることの喜びや感謝が得られるかは疑問ですよね。例えば「何を着ても生きていけるのでしょうか?」「どんな家でも生活できるのでしょうか?」と聞きたいです。おそらく「自分が素敵に見える、着心地の良い服を着たい」「リラックスできる空間で過ごしたい」と多くの方が答えると思います。

それと同じことが食べる物にも言えるはずです。

以前、SGDsの取り組みを積極的にしている方とお話する機会があったのですが、多忙のあまり体調を崩しがちだという話を聞きました。その時「SDGsは“持続可能”を掲げているのに、取り組んでいる方の健康が持続可能ではない」という矛盾に違和感を覚えました。

他人事よりもまずは自分事。自分の幸せを最優先して5年後、10年後の理想の自分をイメージしながら、自分の心身が健やかになる質の良い食べ物を選択してほしいです。常々皆さんにお伝えしているのは、「食卓は世界平和の入り口」という言葉です。日々美味しいものが食べられて、家庭の食卓が幸せであるほど、前向きで明るく人生を切り開ける人が増えるはずですし、ひいては社会そのものが豊かになっていくはずです。自分の健康が最も身近な社会貢献であることを、より多くの方に発信していきながら毎日の食卓を発酵食で満たし、これからも持続可能なムーブメントとして発展させていきたいです。

関連リンク

「醸し塾」

講座は公式サイトで申し込むことができます。開催されるイベントやレシピなどの情報はInstagramをご覧ください。

公式サイト:https://kamoshikokon.com

Instagram :https://www.instagram.com/yuka.kokon.koji/

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weeeat!編集部は、私たちの大切な「食」を中心に、人と地球にやさしい情報を発信していきます。 “地球にやさしい取り組み”を共感・実践する仲間とともに、サステナブルな社会と文化を目指します。

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