2023/07/19

パリで広がる「Bento」文化 ~日本食はブームから“本物志向”へ~

weeeat!編集部
パリで広がる「Bento」文化 ~日本食はブームから“本物志向”へ~

日本人になじみの深いお昼ごはんといえば「お弁当」。ランチ代を節約できて、栄養バランスの良い美味しい食事を楽しめることから、職場にお弁当を持っていく方も多いと思います。私たちの暮らしに欠かせないお弁当は、日本のみならず、フランスでもそのまま「Bento」と呼ばれ、注目を集めています。今回は、“美食の都”パリで日本のお弁当を提供するAuthentic Bentoの伊藤恵梨子さんに現地の反応を伺いながら、フランスと日本の食文化の違いや、フランスのオーガニック事情について教えていただきました。

パリで人気!「100%手作り」にこだわるお弁当屋さん

―weeeat!編集部
伊藤さんは2016年からパリでお弁当屋さんを経営されているとのことですが、海外で出店を決めたきっかけについて教えてください。

―伊藤さん
パリに来た頃はフランス語も話せない、飲食店を経営した経験もない状態でした。語学を習得し、航空会社で働いていましたが、この先、この国で生きていく上で何を武器にできるかと模索し、やはり「日本人であること」が私の強みだという考えにたどり着きました。そこから日本のお弁当屋さんというアイデアが生まれました。

―weeeat!編集部
飲食業経営の経験もない中で、海外で起業というのはすごいですね!

―伊藤さん
もちろん母親として料理をすることはあっても、それを職業にすることまでは考えていませんでしたね。

―weeeat!編集部
お仕事で「日本食」に関わることはあったんですか?

―伊藤さん
航空会社で働いていた時に、機内サービスをメインに担当したことがありました。現地での機内食の製造過程や構成の様子は間近に見ることはできましたが、自分でお弁当屋さんを立ち上げるのとでは全く別物。それでも、日本食=栄養バランスの良い健康的な食事といったイメージが現地の人の間に根づいており、そういったベースがある中でスタートできたのは幸運でした。

―weeeat!編集部
お弁当屋さんを立ち上げるにあたって、苦労したことがあれば教えてください。

―伊藤さん
やはり、立地・店舗選びでしょうか。2014年から準備を始めて、店舗を決めるまで約2年かかりましからね。特にフランス語での開業申請のための手続きも本当に大変でした。

今のお店は2店舗目なのですが、オープンするタイミングでロックダウンになってしまって……。1店舗目もそうでしたが、軌道に乗るまでが大変ですね。一度口にしてくれたら美味しさは伝わり、2回目・3回目とリピートに繋がるのですが、まずは何よりも一度お店に足を運んでいただく、行きたい・食べたいと思わせる魅力あるお店作りが難しいことだと思います。うちのお店は「100%手作り」にこだわっているので毎日忙しいですが、やはりお客様からいただく「美味しい」という言葉は何よりもうれしいです。

店舗外観

蓋を開ける瞬間のワクワク感を届けたい

―weeeat!編集部
2016年にお店をオープン当初は、パリに「お弁当」というものはあったのでしょうか?

―伊藤さん
ちょうどその頃から「Bento」という言葉を耳にする機会が多くなりました。ただ、「Bento」がどんなものなのか知らない人がほとんどだったので、日本のお弁当を知ってもらえるいい機会だと捉えました。

大切にしたのは、お弁当の蓋を開ける瞬間のワクワク感。フランスにもランチボックスはありますが、どちらかというと食事を持ち運ぶためのもので、日本のお弁当のように見た目で楽しめるものではありません。他店との差別化を図るためにも、日本製の「重箱」を使い、一段目には前菜6種の詰め合わせ、2段目にはご飯とおかずが入っています。

―weeeat!編集部
蓋を開けた時の喜びだけでなく、重なった箱を動かした時の喜びも大きそうですね。販売しているお弁当の中身について教えてください。

―伊藤さん
はい。オープン当初から、メインのおかず・ご飯・6種類の前菜のメニュー構成です。メインのおかずは肉・魚・ベジタリアンから選べます。おかずのラインアップには、これまで試行錯誤した中で見えてきた人気商品をセレクトしています。少人数でお店を回しているため、提供しやすさも重要ですが、毎日のように来てくださるお客様も多く、できる限り選択肢を多く用意しています。また、お米は冷えても美味しい日本の「コシヒカリ」を使っています。

お弁当

「ご飯にタレ」「おかずは一品ずつ」日仏の食文化の違い

―weeeat!編集部
フランスの方もよくお米を食べるんですか?
    
―伊藤さん
フランスで食べられているお米は少しパサパサしていて、主食というよりは、野菜と混ぜてサラダとして食べる家庭が多いかもしれません。

―weeeat!編集部
日本のお米を使用する上で、何か気をつけていることはありますか?

―伊藤さん
フランスでは白米をそのまま食べるという習慣がなく、酢飯でも醤油をかけて召し上がる方を見かけます。日本人としては少し心苦しいのですが、ご飯用にタレを用意しています。

―weeeat!編集部
フランスと日本の食文化の違いですね。

―伊藤さん
そうですね。日本では塩鮭や味噌汁など、塩気のある朝食が好まれますが、フランスではスライスしたパンにヘーゼルナッツのペーストを塗った甘い食事が好まれるなど、食文化の違いはあると思います。私自身フランスの食文化に対して保守的なイメージを持っていましたが、最近はファーストフード店や日本の居酒屋のようなスタイルを取り入れるお店も増えています。

―weeeat!編集部
食事の取り方、食べ方にも違いがあったりしますか?

―伊藤さん
前菜としてサラダ・スープ、その後にメイン、最後はデザ-トと一品ずつ提供するお店は多いです。当店はテイクアウトだけでなく、イートインも行っていますが、食事が冷めないように一品ずつ提供してほしいというお客様もいます。

―weeeat!編集部
そんな違いがあるんですね。伊藤さんのお店では野菜・果物・卵・胡麻・抹茶はオーガニックの食材を仕入れていると伺いました。日本と比べて、フランスではオーガニック食材を使うことが当たり前になっているのでしょうか?

―伊藤さん
最近はオーガニック食材を取り扱うお店も増えていますね。オーガニック専門店はもちろん、普通のスーパーでもオーガニックコーナーを設けているお店がたくさんあります。値段自体も通常の野菜と大きく変わらず、日常使いしやすくなっています。

―weeeat!編集部
日本でもオーガニック食材を見かける機会は多くなりましたが、購入できる場所は限られます。

―伊藤さん
そうですね。フランスは農業が盛んな国ということもありますし、最近はスペインやイタリアのオーガニック野菜を見かけることも多くなりました。オーガニック食材を選ぶことは一つの選択肢になっていると思います。

焼しゃけとお米 どんぶり

徐々に広がる「本物の日本食」ブーム。“本物のお弁当”を届けたい

―weeeat!編集部
最近、ベジタリアンやヴィーガンメニューとして、プラントベースの餃子を販売したと伺いました。現地の反応はいかがでしたか?

―伊藤さん
現地における日本の餃子の認知度は高く、試食を勧めると必ずと言っていいほど口にしてくれました。トライアルとして販売したのですが、味も好評で「もう餃子販売しないの?」と聞かれることも多く、想像した以上の反応がありました。

「100%手作り」にこだわっているため、餃子を包む時間が取れないというのが正直なところです。出来合いのものを買って箱に詰めるのは簡単ですが、やはり焼き立ての餃子を食べてほしいという想いもあるので、現状ではラインアップに入れるのは難しいですね。またいつかトライしてみたいです。

プラントベースの餃子

―weeeat!編集部
最後に、フランスにおける「日本食」「お弁当文化」の今後の可能性について教えてください。

―伊藤さん
日本食に対する興味・関心の高まりを実感しています。特に漫画やアニメの影響は大きく、そこから日本に興味を持ち、日本を訪れて本物の日本食を食べるというフランス人も珍しくありません。日本食を謳っていながら、実際に料理を作っているのは日本人でないというお店もありますが、本物の日本食を知っているお客様であればすぐに見抜いてしまうほど。日本食ブームは今に始まったことではありませんが、その認知度は年々高まっていると思います。

お弁当についても、お客様から「レシピを教えてほしい」「何の食材が入っている?」と言われることがあります。パリで気軽にランチといえばパンにハムとチ-ズが入ったサンドイッチ、サラダBOXのようなものばかりです。いつでもどこでも美味しい食事が楽しめるという日本のお弁当のようなものを見かけることは多くありません。これからも「100%手作り」にこだわり、ヘルシーで美味しい日本のお弁当を作り続けていきたいです。

店内の様子

店舗情報・商品入手先

店舗名 Authentic BENTO
住所 9 Boulevard Diderot 75012 Paris
公式サイト:https://authenticbento.com

weeeat!編集部
weeeat!編集部は、私たちの大切な「食」を中心に、人と地球にやさしい情報を発信していきます。 “地球にやさしい取り組み”を共感・実践する仲間とともに、サステナブルな社会と文化を目指します。

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