2023/08/09

野菜は「湿度で育てる」時代へ ~ポモナファームが切り拓く農業の未来~

weeeat!編集部
野菜は「湿度で育てる」時代へ ~ポモナファームが切り拓く農業の未来~

気候変動による海面上昇で、農地の多くが水不足や塩害の危機に瀕しています。世界的な農業の危機を食い止める新技術として期待されているのが、豊永翔平さんが代表を務めるCultivera(カルティベラ)が開発した「Moisculture(モイスカルチャー)」。野菜を「湿度で育てる」特許栽培技術で、場所を選ばずに美味しい農作物を栽培できるそうです。その技術を使い農作物を生産する農業生産法人ポモナファームの代表取締役CEOも務めている豊永さんに、ファーム設立のきっかけや栽培技術の特徴を伺いながら、豊永さんが見据える農業の未来についてお話いただきました。

考古学からアグリテックベンチャーへ転身!?

―weeeat!編集部
豊永さんは大学で考古学を専攻されていたそうですね。農業の世界へと方向転換したきっかけのようなものはあったのでしょうか?

―豊永さん
子どもの頃から考古学者になることを夢見て、大学時代は考古学を専攻しました。遺跡の発掘や文化財保護のためにカンボジアに渡って研究していましたが、その中で遺跡を守ることの難しさを痛感しました。カンボジアにはアンコール遺跡という文化遺産があります。もともとは真っ白な遺跡だったのですが、観光客の増加に伴って二酸化炭素や排ガスが増え、局所的な温暖化現象によって遺跡の表面が真っ黒になってしまいました。

加えて、遺跡周辺の農地開発が乱立したことも問題でした。農業は大量の地下水源を必要とします。それが原因で地下水が枯渇し、地盤沈下が起こる懸念もありました。このままでは守ろうとしていた文化が失われ、最終的に街からの人口流出につながりかねない。現代農業がもたらす環境負荷の大きさを実感するとともに、文化や地域を守るには「農業」という観点からアプローチしなければと考えるようになりました。

―weeeat!編集部
カンボジアでの実体験が、その後のアグリテックベンチャー企業Cultiveraの設立につながるわけですね。

主要メンバー
豊永CEO(左から3番目)

日本の繊維技術が実現した「未来の土」

―豊永さん
そうですね。私たちが着目したのは「繊維技術」。日本の繊維技術は世界でもトップクラスで、革新的な技術と品質で世界をリードしています。この繊維技術を農業に活用できないかと考えました。
そこで開発したのが「Moisculture」です。「Moisculture」とは、3種類の特殊なファイバー層を組み込んだ人工培養シートの湿度をコントールし、気化させた水分で野菜を育てる栽培方法のこと。特殊な繊維が5mmほどの人工培地となって、作物の生育に必要な土の高さ10〜15cmを再現しているのが特徴です。

―weeeat!編集部
この人工培地が、土壌の代わりになるということでしょうか?

―豊永さん
そうですね。農業に関する土の課題は深刻で、気候変動の影響で毎年多くの土壌が失われています。塩害などで農作物を育てられる土が不足する中で、「Moisculture」を活用することで従来型の農業に必要な「土地の所有」という概念から解放され、例えば海上や宇宙空間でも作物を育てることができます。

―weeeat!編集部
海上や宇宙空間でも!? 土不足を解決する技術なんですね。

―豊永さん
土不足だけではなく、生産者を悩ます肥料やエネルギー価格の高騰、農業用水の不足という課題の解決へ導くカギになると考えています。従来型の農業のように栽培空間全体を温度管理する必要がなく、例えばトマトを育てる場合、根域空間の湿度管理を行うことで、真夏でも低エネルギーで栽培することができます。

また湿気中根と呼ばれる綿毛状の根を大量に培養し、湿度に触れる根の表面積を増やすことで、通常の栽培法の10分の1程度の水量で栽培することが可能です。農業排水もゼロなので、環境汚染もありません。「Moisculture」は低エネルギー・超節水・廃液ゼロの環境にやさしい栽培技術といえます。

湿気中根

水分量を調整し、野菜の「生きる力」を引き出す

―weeeat!編集部
ポモナファームでは、どのような野菜を栽培しているのでしょうか?

―豊永さん
トマトをはじめ、唐辛子・マイクロリーフ・ハーブ・レタス・メロン・なす・わさびなどさまざまな野菜の栽培に成功しています。また、国内でも生産者が少ない貴重な唐辛子「ペッパーシリーズ」として、セラーノ・ポブラノ・ハラペーニョの3種類を販売しています。こちらは国内の有名メキシコ料理店で好評いただいています。水分量や栄養分を調整することで、気候条件が異なるさまざまな品種の野菜を栽培できるのも「Moisculture」の魅力です。ポモナファームのマイクロリーフはベビーリーフより小ぶりですが、栄養価が高く、味や香りもしっかりしているのが魅力です。こちらも三重県内の高級ホテルやミシュランレストランのシェフにご好評いただいています。

―weeeat!編集部
ポモナファームのホームページを拝見しましたが、トマトは「エコスイート」と「プチぷよ」の2種類があるんですね。

―豊永さん
ポモナファームのトマトといえば、「エコスイート」と言われるほど人気があります。果皮が薄くて食べやすく、名前の通り、口いっぱいに広がる甘味が特長です。
「プチぷよ」は、皮が非常に柔らかく、さくらんぼのように“ぷにっ”と弾ける食感が人気の希少トマト。糖度は12度と甘いため、「プチぷよ」を100%使用したトマトジュースも人気です。他にも幻のトマト「ファーストトマト」を100%使用した無添加のケチャップは、甘みと酸味と旨味のバランスがよく、そのままでも美味しくいただけることから「食べるケチャップ」とも言われています。

―weeeat!編集部
「Moisculture」で育てられた野菜は、栄養価も高いのでしょうか?

―豊永さん
はい。気化する水分量を調整することで、野菜が持つ栄養を蓄える力を引き出すことができます。例えば、水分量を少なくして育てたトマトは、一般的なトマトの倍以上のリコピン・ビタミンC・ポリフェノールを含んでいます。また、根の生命力を最大限に引き出すことで、野菜自体の温度耐性も広がります。湿気中根を生やしたトマトは、真夏の炎天下にも耐えられます。

先日、「エコスイート」は、GABA65㎎ある機能性表示食品として初めて3つのヘルスクレームを受理された生鮮トマト「POMONATOMATOmini」として各店舗で随時販売開始しました。こちらは、100g摂取していただくと「睡眠の質」「記憶力や空間認知力」「肌の弾力の維持」の向上が期待できる機能があるため、日々の暮らしの中で人々の健康の一助となれます。

トマト・とうがらし

新しい農業の形「海水農業」

―weeeat!編集部
ポモナファームでは「Moisculture」を使って数々の実証実験を行ってきましたが、現在どんなことに取り組んでいるのでしょうか。

―豊永さん
最も力を入れて取り組んでいるのが「海水農業」です。干ばつが進む地域では、淡水化装置を使って塩分を除去し、農業用水として使用するという取り組みが行われてきました。しかしながら、現在使われている海水淡水化システムは、高額な設備費用と大量のエネルギーを必要とし、運転に必要なコストも莫大です。これに対し、私たちは海水を直接水で希釈して利用する作物栽培に成功しています。

海水で栽培したトマトは海水の自然な塩味が感じられて、そのままでも美味しくいただけます。シェフの方にも試食いただきましたが、調理がいらない、味付けがいらないトマトとして好評です。世界で最も生産量が多いトマトは栽培に大量の水を必要としますが、海水で栽培できれば海上で育てることもできます。葉物野菜の海水栽培にも成功し、今後も栽培する品種を増やしていく予定です。

―weeeat!編集部
ありがとうございます。最後に豊永さんの未来の農業に対する想いをお聞かせください。

―豊永さん
世界の人口が拡大を続ける一方で、エネルギー価格の高騰、気候変動、担い手の減少など、農業を取り巻く環境は厳しさを増しています。特に路地栽培は気候変動の影響を受けやすく、苗が育たずに不作となったり、大雨や台風により畑が冠水したりする事例も見受けられます。中には塩害で甚大な被害を受け、大切にしてきた土地を手離してしまう生産者も少なくありません。

ファーム内の様子

「美味しさ」が農業の未来を変える

―豊永さん
農業は、人の「生きる」を支える産業です。「Moisculture」が世界中に広がることで、生産者の暮らしを支えることにつながり、ひいては皆さんの健康や、地球環境を守ることにつながります。これからも生産者やパートナー企業と協力し、新たな視点や技術を取り入れながら、未来を見据えた農業に挑戦していけたらと思っています。

ここまで「Moisculture」やポモナファームの取り組みについてお話しましたが、農業のあり方を変えていく原動力は「美味しさ」にあると考えています。どんなに優れた技術で作られていても、世界中の人が喜んで選択し、幸福を感じられるものでなければ農業の未来を変えることはできません。美味しさを追求した私たちの野菜をぜひ味わっていただきたいです。

―weeeat!編集部
人にやさしく、地球にもやさしい栽培技術で育った美味しい野菜を選択することは、農業の未来や地球環境を守ることにつながるはず。ポモナファームのこれからに期待しています。ありがとうございました!

ジュース

店舗情報・商品入手先

店舗名 株式会社ポモナファーム
住所 〒519-2211 三重県多気郡多気町丹生6096

機能性表示食品として初めて3つのヘルスクレームを受理された生鮮トマト「POMONATOMATOmini」のプレスリリースはこちら

ポモナファームの商品は下記サイトから購入することができます。
サイト:https://lit.link/pomonafarm

weeeat!編集部
weeeat!編集部は、私たちの大切な「食」を中心に、人と地球にやさしい情報を発信していきます。 “地球にやさしい取り組み”を共感・実践する仲間とともに、サステナブルな社会と文化を目指します。

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