パンや麺をクラフトビールへアップサイクル! 横浜発のベンチャー「Beer the First」

廃棄予定のパンや麺、災害時備蓄品などを、クラフトビールへアップサイクルする事業を展開するベンチャー企業「Beer the First」。クラフトビールの原料である「麦芽」をでんぷんや糖を含む食材に置き換えることで、地球にやさしいクラフトビールを展開しています。今回は同社の代表取締役、坂本 錦一さんに2021年の起業までの経緯や話題性抜群の商品開発の裏話などを伺いました。
食品ロス問題をクラフトビールで美味しく解決
―weeeat!編集部
坂本さんが食品ロスに興味をもったのはどんなきっかけですか?
―坂本さん
もともとは食品卸の商社で働いていたのですが、フルーツ農家さんを訪ねた際に、食品ロスの現状を目の当たりにしました。果物にちょっと傷があるだけで商品として出せなくなったり、多く収穫しすぎても土に返すことしかできなかったり……。まだ食べられるのにすごくもったいないと思いました。当時は会社に勤めていたこともあって、直接その課題にアプローチできなかったのですが、「自分に何かできることはないか?」という想いはその頃から強くなっていきました。
―weeeat!編集部
どのようにして、クラフトビールで食品ロスを削減するというアイデアが浮かんだのですか?
―坂本さん
起業のアイデアが浮かんだのは、コロナ禍になったタイミングです。もともとクラフトビールが好きで、自分でも作って楽しみたいと思っていたのですが、日本の酒税法では個人でお酒を作ることはできません。「だったら仕事として作れないか」と友達に起業の相談をしたところ、「どうせ起業するなら廃棄予定の食材をクラフトビールの原料に使って、食品ロスの削減につなげられたらすごくいいんじゃないか」という話になったんです。
―weeeat!編集部
大好きなクラフトビールを作ることと食品ロスを解消するということ。その両方を実現できるアイデアを思いついたわけですね! 国内のビールの販売量は減少傾向にあるものの、クラフトビールの市場は伸び続けていますよね?
―坂本さん
はい、クラフトビールはここ十数年ぐらい右肩上がりに伸びてきています。特にコロナ禍の「巣ごもり需要」で、「少し贅沢なものを家で楽しみたい」というプチ贅沢ニーズが高まる中で、クラフトビールの認知もじわじわと広がってきました。コンビニやスーパーでも、いろんなクラフトビールを見かける機会が増えてきましたよね。
―weeeat!編集部
確かによく見かけますね。クラフトビールの魅力はどういったところにあるとお考えですか?
―坂本さん
実は私も、はじめは「苦い液体だな」としか思えなかったのですが(笑)暑い日のバーベキューなど、ビールがとっても美味しく感じる瞬間が何度かあってビールが好きになりました。また私は神奈川出身なので、横浜の赤レンガで行われる「オクトーバーフェスト」(ドイツビール祭)などのイベントに足を運ぶうちに、ビールが「世界の乾杯ドリンク」であることを知り、少しずつビールの持つ世界観や歴史に惹かれていきました。世界には本当にたくさんの種類の味わい豊かなクラフトビールがあることを知って、ますます魅力にハマっていった感じですね。
―weeeat!編集部
ありがとうございます! 私もビールが大好きなので、クラフトビールの世界をもっと知りたいです!
炭水化物に着目!災害備蓄品のロスから生まれたビールも
―weeeat!編集部
あらゆる食材でビールを製造できるということですが、炭水化物系の食品をビールの原料に選んだのはなぜですか?
―坂本さん
当初は、前職の経験から廃棄予定のフルーツを使ったクラフトビールを製造しようと考えていましたが、フルーツビールはすでに多くの企業で作られており、「埋もれてしまう」と思いました。せっかくアップサイクルしてクラフトビールを作っても、ビール自体が廃棄物になっては元も子もありません。そこで、食材ではなく原料からアプローチできないかと探したところ、炭水化物にたどり着きました。日本の食品ロスの現状を見ると、事業系の食品カテゴリーではパン・菓子、弁当・麺類などの炭水化物が占める食品ロスの割合が一番多いんですよ。
―weeeat!編集部
そうなんですね! それにしても、炭水化物からビールを作るという発想はすごいですね。どのように作っているんですか?
―坂本さん
ビールの製造工程に、原料である麦芽のでんぷんを酵素で分解して甘い麦汁をつくる「糖化(とうか)」という工程があるんです。この工程で、麦芽の一部を「でんぷんや糖を含む食材」、つまり炭水化物に置き換えてもちゃんと甘くておいしい麦汁ができるんですよ。
Beer the Firstではこのしくみを生かして、本来使われる麦芽の10%、20%、30%を炭水化物に置き換えてクラフトビールへアップサイクルしています(麦芽比率の都合上、品目は発泡酒に分類)。
―weeeat!編集部
麦芽の一部を炭水化物に置き換えてもビールが作れるというのは面白いですね。
他にも災害備蓄品をアップサイクルしたクラフトビールを開発されていると伺いました。
―坂本さん
東日本大震災以降、地震や台風などの災害に備えて、災害備蓄品を設置する企業・自治体が増えました。その一方で、災害備蓄品は一定の期間が過ぎると入れ替えが必要になり、そのまま廃棄されるケースも少なくありません。職員や社員に配布するところもありますが、余ってしまうのが現状です。そこで、廃棄間近のカンパンやアルファ米などの活用を検討しました。
ラーメンの切れ端で作るラーメンに合うビール
―weeeat!編集部
日本全国の自治体や企業から、需要がありそうですね!
クラフトビール事業を展開する上で、坂本さんが一番苦労されたことはなんですか?
―坂本さん
私自身は食品業界出身ですが、ビールの商品化は全く初めての経験でした。クラフトビールの醸造所や廃棄予定の原材料の調達先もゼロから開拓することが大変でした。例えば町のパン屋さんに企画書を送ってそのお店に食品ロスがあるのかヒアリングしたり、お会いして僕らの想いを伝えて協力をお願いしたり……。今振り返ると苦労の連続でした。
―weeeat!編集部
今さまざまな食品ロスがクラフトビールに生まれ変わっているのは、坂本さんたちが情熱を地道に伝えてきた賜物なのですね!
おすすめの商品があれば紹介してください。
―坂本さん
1つ選ぶとしたら「華麺舞踏会 醤油との出会い」ですかね。この商品は、ラーメンの麺から生まれた、ラーメン好きのためのクラフトビールです。ラーメンの製麺過程で出る廃棄予定の切れ端部分に着目し、「ラーメン戦士」でお馴染み山川大介さんや東京浅草の有名製麺所「浅草開化楼」さんの協力を得て開発を行いました。日本人が1番好きな「醤油ラーメンに合うビール」をコンセプトに、海苔を香りづけに加えて、日本初のラーメンクラフトビールが完成しました。今までになかった組み合わせが話題を呼んで、ラーメン口コミサイトやビール系のメディアでも取り上げていただきました。
―weeeat!編集部
醤油ラーメンに合うビールって、これまでにない斬新なコンセプトですよね。しかも、ビールなのに海苔の風味がするというのも面白いですね。
―坂本さん
醤油ラーメンには「海苔(のり)」が合うので、老舗海苔メーカーの山本海苔さんにご協力いただいて、廃棄される海苔の切れ端や粉などを香りづけに使用しています。少しクセはありますが、そこがまたおいしくて、とてもユニークな商品ができたかなと思っております。
―weeeat!編集部
私たちも飲んでみたいです。ちなみにこのビールは以前クラウドファンディングで見事209%達成されていましたが、一般販売もされているのでしょうか?
――坂本さん
ありがとうございます。「華麺舞踏会 醤油との出会い」は8月から自社のECサイトで販売しています。ご興味のある方は、ECサイトをご覧ください。
コラボで広がるアップサイクルの可能性
―weeeat!編集部
最後に、今後の展望について教えてください。
―坂本さん
今、自社で醸造所を持つ準備を始めております。自分たちの醸造所でもっといろいろな配合のビールを試作して、食品ロスの削減を加速できたらいいなと考えています。さらに、国内・海外でも有名なラーメンチェーンさんや老舗とんかつ弁当屋さん、老舗のシュウマイ屋さんなどとのコラボも予定しています。今後も意外な素材の組み合わせで新しいクラフトビールを開発し、食品ロスを楽しく、美味しく解消していきたいと思います。醤油味以外のラーメンの横展開もいずれしたいですね。
―weeeat!編集部
今後の展開がますます楽しみですね。weeeat!編集部も期待しています。ありがとうございました!
<番外編> weeeat!編集部による試飲レポート
今回weeeat!編集部では6月に発売された「Loop Marunouchi」を試飲させていただきました。
このビールは三菱地所株式会社と協業で開発が行われ、三菱地所保有ビルの災害備蓄食品をアップサイクルして作られているんです! しっかりとした苦味とフルーティーな香りが特徴のアンバーエールを堪能します。
パッケージには丸の内パークビルディングと丸の内仲通りが描かれています。なんてスタイリッシュ! 丸の内OLへの憧れが隠し切れません。
香りはアンバーエールらしいカラメルのような香り! どこか味噌や醤油といった日本らしいコクのある香ばしさも感じられました。
口に含むとホップ由来のビターな風味が広がります。飲めば飲むほど心地よい苦みと香りが強く感じられました。まるでワインを飲んでいるかのよう。
編集部では日本食と相性抜群にちがいない! と話していました。モツの味噌煮込みや厚揚げとマリアージュしそう。うーん、お腹が空いてきたのでそろそろ失礼します!
店舗情報・商品入手先
店舗名 株式会社Beer the First
住所 〒221-0801 神奈川県 横浜市神奈川区神大寺2-5-4-403
Beer the Firstの商品は公式通販サイトより購入できます。
通販サイト:https://utagebrewing.com
Instagram:https://instagram.com/utage_brewing?igshid=MzRlODBiNWFlZA==