2023/09/27

だしのプロが提案する新しい「うまみ」の文化 ~家庭用だしブランド「ON THE UMAMI」の挑戦~

weeeat!編集部
だしのプロが提案する新しい「うまみ」の文化 ~家庭用だしブランド「ON THE UMAMI」の挑戦~

新潟県三条市で、創業70年の業務用だしメーカー・株式会社フタバを営む江口晃さん。「日本ならではのうまみを世界へと発信したい」という想いから「ON THE UMAMI」という一般消費者向けブランドを立ち上げ、従来の固定観念に捉われない、野菜やトマトなどのだしパックを販売しています。今回は、同ブランドの世界観を体験できるファクトリーショップ&ラボ「ON THE UMAMI ~TSUBAME SANJO PORT~」を訪れ、うまみやだしの可能性について教えていただきました。

29歳から会社を継ぎ、家庭用商品へ挑戦

―weeeat!編集部
「ON THE UMAMI」を立ち上げた経緯から教えていただきたいのですが、フタバという会社は江口さんのお祖父様が始められた会社なのですね。

―江口さん
はい。1953年に私の祖父がだしの製造・販売会社として創業したのがはじまりです。1962年に日本初の業務用だしパックを開発して以来、旅館・ホテル・割烹などで働く職人さんたちのオーダーに応えるだし商品を販売しています。2代目に就任した父、3代目に就任した叔父の跡を継ぐ4代目として、29歳で社長に就任しました。

―weeeat!編集部
29歳という若さで会社を背負う立場になるとは、大きな決断ですね。

―江口さん
家業を継ぐ決意をしたのは、父を亡くした中学3年生の時。当時は何を扱っている会社なのかもわからなかったのですが、祖父の代から続く会社を守りたいという想いは強く持っていました。父の跡は叔父が会社を支え、私は大学卒業後、求人広告会社での勤務を経て26歳でフタバに取締役として入社しました。さまざまな部署で勤務した後に、29歳で会社を引き継ぐことになりました。

―weeeat!編集部
社長に就任後、どのようなことに取り組んだのでしょうか?

―江口さん
70年続く業務用だしメーカーとして、外食産業における「フタバ」の認知度は高かったものの、ここ三条市での認知度は決して高くありませんでした。地域に密着した企業として、もっと多くの方に当社の商品を知ってほしい、地域の方に応援してもらえる企業になりたいという想いから一般消費者向け商品の拡大を図りました。

―weeeat!編集部
老舗のだしメーカーとして、新規事業に取り組むことに対する不安のようなものはなかったのでしょうか?

―江口さん
先代の叔父から「新しいことに挑戦しなさい」という言葉をいただいていたので、心置きなく挑戦することができました。ただし、だし業界には江戸時代から続く老舗企業がたくさんあります。そんな企業と「歴史」で勝負してもかないません。長年だしパックに携わってきた当社の技術を生かし、業務用のだしパックを少量にした家庭用だしパックの販売を始めました。

―weeeat!編集部
お客様の反応はいかがでしたか?

―江口さん
新潟県内でCMを打ったり、地元スーパーで店頭販売や試飲販売を行ったりしましたが、思うように売上は伸びませんでした。やはり、ブランドコンセプトやターゲット層を明確にしないまま、半ば思いつきのように始めたので、商品の良さが伝わらなかったのだと思います。その経験を生かし、「うまみ」を軸に広がるライフスタイルブランド「ON THE UMAMI」を立ち上げました。「人生を豊かに美味しくする」をコンセプトに掲げ、30〜40代の女性をターゲットに設定しています。

ON THE UMAMI商品

「たべる・つくる・つながる」を体験できる、地元の人気スポット

―weeeat!編集部
ブランド名に「だし」という言葉が含まれていないのは、何か理由があるのでしょうか?

―江口さん
はい。先ほどもお話したように、鰹節や昆布を軸にしてしまうと老舗企業にはかないません。そこで、世界共通語の「うまみ」という軸でブランド展開していくことを決めました。和食がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、日本の味は世界中から注目を集めています。その「うまみ」を軸にすることで、従来の鰹節や昆布に捉われない商品の幅も出せますし、日本国内だけでなく、広く世界に視野を向けて商品を提供できると考えました。

―weeeat!編集部
確かに、オンラインショップには魚介類のだしだけでなく、野菜・トマトのだし、炊き込みご飯の素、だし茶漬け、パスタソースといったいろんな商品が並んでいますね。

ON THE UMAMI商品

―江口さん
ありがとうございます。たくさんの人にだしの魅力を伝えたいという想いから、初めての方でも楽しめるようラインアップを充実させています。

―weeeat!編集部
「ON THE UMAMI」ブランドでは、新潟県三条市にカフェやミュージアムを併設した「ON THE UMAMI TSUBAME SANJO PORT」という旗艦店を持っていますよね。オーダーを受けてお客様の前で淹れる、日本初のハンドドリップだしも提供されていますが、これも多くの人に味わってもらいたいという想いから始められたのでしょうか?

―江口さん
はい。やはりブランドを立ち上げただけではダメで、だしを味わう機会を提供しなければなりません。まず、工場に併設したスペースを使って、だしの試飲購入を始めました。その後、だしのうまみを生かした体にやさしい味わいの料理を提供するカフェ、だしパックづくり体験やスイーツ・パン作り体験ができる料理教室をオープンし、「たべる・つくる・つながる」を通じて、うまみの魅力に気づける場を提供しています。

―weeeat!編集部
私たちもだしパック作りを体験しました。ここまでだしと向き合ったことがなかったので、仕事を忘れて楽しんでしまいました(笑)。野菜と魚を同時に育てるアクアポニックスの農園も見学させていただきましたが、ここで収穫した野菜をだしに使っているのでしょうか。

―江口さん
ここでは、カフェで使うレタス、ハーブ、ラディッシュ、エディブルフラワーなどを栽培しています。新潟県内ではカツオや昆布が獲れないため、これまで静岡・鹿児島・北海道から素材を調達して加工していましたが、やはり地元の原材料を使うことが大切です。ブランドを立ち上げ、ショップをオープンしたことで地域からの認知度も高まり、新潟県内で収穫したニンジン・トマト・紅ズワイガニなどを使った商品も展開しています。

野菜と魚を同時に育てるアクアポニックス

―weeeat!編集部
自社農園の野菜はカフェで使用され、地域の食材からだし商品が作られているなんて究極の地産地消ですね! 「ON THE UMAMI」ブランドの人気商品についても教えてください。

―江口さん
はい。4種類の国産野菜を使用した「野菜だし」が人気です。淡路島産の甘くみずみずしい玉ねぎと、北海道産の香りの良い玉ねぎを使用することで、うまみとコクたっぷりのバランスの良いだしに仕上げています。お客様からも評判で、ポトフ・パスタ・カレー・揚げ物の下味など、和食だけではなく洋食だしとしてもお使いいただけます。野菜だしと牛乳でスープとして飲むのも美味しいですよ。

―weeeat!編集部
野菜だしは、化学調味料や動物性原料も不使用なので、体にやさしいものを選びたい方やヴィーガンの方にもおすすめできますね。今回「トマトだし」を購入させていただきましたが、おすすめの活用方法があれば教えていただきたいです。

―江口さん
そうですね。「トマトだし」は卵と相性が良いので、オムレツがおすすめです。わが家では、焼いた鶏肉の上に「トマトだし」をまぶして食べていますが、うまみが強調されて美味しいですよ。

―weeeat!編集部
聞いているだけで美味しそう! だしをとるだけではなく、パックを開けて味付けにも使えるのが便利ですね。試してみたいと思います。

トマトとチキン

多様なだしで販路を拡大。日本一の総合だしメーカーを目指して

―weeeat!編集部
改めて、だしの持つ可能性について教えてください。

―江口さん
「ON THE UMAMI」を立ち上げてから、業務用のだし事業でもアサリ・ホタテ・カニ・エビを使った商品の販売を始めています。これまでは鰹節や昆布を使っただし商品が中心で、取引先が和食店に限られていましたが、いろんな食材を使った商品を展開することで、これまで手薄だった洋食店や中華店にもアプローチできるようになりました。例えば、アサリのだしを使ったパスタ、カニやエビを使ったスープ……和食だけでなく、洋食や中華のレシピも提案できるようになったことで、販路も拡大しています。

―weeeat!編集部
「うまみ」という軸で考えると、まだまだいろんな食材がありそうですね。

―江口さん
そうですね。商品を開発する上では、まず「素材を知る」ことが重要ですが、私たちが出会えていない、扱えていない食材はたくさんあります。例えば、カキやハマグリで作っただし。あまり見かけませんが、長年だしに携わり、加工技術に磨きをかけてきた当社の強みを生かして、いろんな素材の商品化に挑戦していきたいです。

―weeeat!編集部
日本食レストランは世界中にありますが、海外での販売も行われているのでしょうか?

―江口さん
現在、業務用ではアジアを中心に商品を輸出しており、一部「ON THE UMAMI」の商品も台湾で販売しています。確かに日本食レストランは世界中で増えていますが、日本で製造しただしを使っていないお店も多く、日本食の味やだしを世界に広めていくには解決しなければならない問題があります。国によっては法律基準が異なり、だしの輸出が規制されている国もあります。だからこそ、だしに対する理解を深め、本物のだしの魅力を世界に広げていくことは社会的意義のあることだと考えています。

―weeeat!編集部
ありがとうございます。最後に、「ON THE UMAMI」の今後の展望について教えてください。

―江口さん
地域の方から少しずつ認知していただけるようになりましたが、全国的な知名度は決して高くありません。店舗展開や商品開発を通じて、だしという商品だけでなく、その先のライフスタイルや、だしの魅力を発信していきたいです。目指すは「日本一の総合だしメーカー」。日本文化の礎のひとつとも言える「うまみ」と向き合い続け、人生を豊かに美味しくする提案を続けていきます。

江口さん


<番外編> ON THE UMAMI ~TSUBAME SANJO PORT~に行ってきました!

<番外編> ON THE UMAMI ~TSUBAME SANJO PORT~に行ってきました!

2022年10月、新潟県三条市に新たに誕生したUMAMIのテーマパーク「ON THE UMAMI ~TSUBAME SANJO PORT」。ここでは、おだしを使った料理やワークショップを通じて、ON THE UMAMIブランドの世界観を五感で体験できるんです! 今回weeeat!編集部では自社農園U-FARMの見学、だしパック作りワークショップ、umamitocafeを体験させていただきました。

●次世代の循環型農場「U-FARM」を見学

次世代の循環型農場「U-FARM」を見学

まず初めに訪れたのは、本棟に併設されている農園「U-FARM」。
ここはただの農園ではなく、アクアポニックスという技術が取り入れられた循環型農場なんだとか。アクアポニックス……聞き慣れない言葉ですよね。
アクアポニックスとは水耕栽培と水産養殖を掛け合わせた循環型農場のことで、次世代の農業技術として注目されています。
農園の半分ではキャビアで有名なチョウザメを飼育しています。水中に住む微生物がチョウザメの排泄物を分解します。その水が水耕栽培エリアに行き渡り、野菜が育ちます。植物がろ過してきれいになった水がまたお魚の水槽に戻るという循環なのだそうです。

アクアポニックス

通常の養殖の場合、定期的な水交換が必須ですが、アクアポニックスは植物によりろ過されてきれいな水が戻ってくるので不要です。
現在U-FARMではメインで10種類ほどのお野菜が栽培されており、自社製品へ活用しているほか、併設のumamitocafeでも提供されています。

自社栽培野菜

●自分でおだしを調合!オリジナルのだしパック作り

続いて世界にひとつだけのだしパックが作れるワークショップを体験しました! お魚やお野菜など全部で10種類のおだしを組み合わせて、オリジナル配合のだしパックを作ることができます。

オリジナルのだしパック作り

まずはそれぞれのおだしを単体で試飲させてもらいました。中でもニンジンだしの甘さには仰天。独特の青臭さもなく、優しい甘さが口いっぱいに広がります。これならニンジンが苦手なお子さんでも美味しく食べられそう!

だし調合

いよいよ自分でだしを調合していきます。果たして良い配合が作れるのか……私のような自分のセンスに自信がない方向けには、料理別配合目安表も用意されているのでご安心を。洋風なら野菜系を、和風ならお魚系を、など丁寧なアドバイスをもらいながら、ついに世界にひとつだけのだしパックが完成!

パッケージデザイン

パッケージも自分でデザインすることができるので、お子さんも楽しめること間違いなし!

●地元の野菜やおだしのうまみを楽しめるカフェへ

カフェ店内

最新のアグリテックを目の当たりにし、だしパック作りで素材本来の味に触れたweeeat!編集部。そろそろお腹が空いてきたので、おだしたっぷりの料理を味わえる「umamitocafe」へ。こちらでは、U-FARMで栽培されたお野菜や地元の旬の食材が使用され、おだしと素材本来のうまみが楽しめるメニューが展開されています。
今回weeeat!編集部では「umamito御膳」と「だし屋のごはんセット」をいただきました。

umamito御膳 1,650円(税込)
umamito御膳 1,650円(税込)

「umamito御膳」のメインとなるのが唐揚げと野菜のおだし餡かけ。このおだし餡がとにかく最高に美味しいんです。優しいコクのある餡は、あくまでも脇役として唐揚げと野菜のうまみを引き立てます。ゴクゴク飲めてしまいそう!

だし屋のごはんセット 1,200円(税込)

そしてこちらはたっぷりのかつお節が目を引く「だし屋のごはんセット」。削りたてのかつお節を主役に卵かけごはんが楽しめるというシンプルで贅沢な一品です。かつお節は削りたてならではの香ばしい風味が楽しめます。

●ON THE UMAMIのおだしをお家でも

心も体もうまみで満たされた後には、ショップに立ち寄りお土産探し。こちらではON THE UMAMIの人気商品がずらりと並んでいます。メインのだしパックのほかに、離乳食用だし、飲むおだし、炊き込みご飯の素やドレッシングまで多様なライフスタイルに合わせた商品を取り揃えています。私もトマトだしとドレッシングをお土産に購入しました。社長の江口さんにトマトだし活用法を伺ったので、自宅で試してみたいと思います!

店舗内

普段何気なく味わっているおだしの力を真正面から体感することができる本施設。見て、体験して、味わって……みなさんもぜひON THE UMAMI ~TSUBAME SANJO PORT~にて五感でうまみを感じてみてはいかがでしょうか。

店舗情報・商品入手先

店舗名 ON THE UMAMI TSUBAME SANJO PORT
住所 〒955-0845 新潟県三条市西本成寺2-24-23
電話番号 0256-33-1300
営業時間 10:00〜17:00(水曜定休日 祝日の場合は翌営業日が休日)

ON THE UMAMIの商品は公式通販サイトより購入できます。だしを使ったレシピなども紹介しています。

通販サイト:https://www.on-the-umami.com
Instagram:https://www.instagram.com/on_the_umami/

weeeat!編集部
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