2023/11/01

目指すのは「食べられる家」。東大発のベンチャーfabulaが技術で創る食品廃棄物の価値

weeeat!編集部
目指すのは「食べられる家」。東大発のベンチャーfabulaが技術で創る食品廃棄物の価値

「ゴミから感動をつくる」をステートメントに掲げる、東京大学発のベンチャー企業・fabula(ファーブラ)。「物語」という意味のラテン語に由来した社名には、「要らないものとして処理されるゴミを生まれ変わらせることで、ストーリーの続きを紡ぎたい」という代表取締役CEO・町田紘太氏の想いが込められています。同社は規格外の野菜や加工時に出る端材などの食品廃棄物から新素材を作る特許技術を保有しており、食品ロスや環境負荷軽減など、社会課題解決の一翼を担う存在として期待されています。今回は、町田氏に廃棄物由来の新素材を開発した経緯や製品の特徴を伺いました。

「食べられるコンクリート」の発想から研究をスタート

―weeeat!編集部
fabulaでは廃棄物由来の新素材の開発に取り組んでいますね。もともと環境問題に関心を持っていたのでしょうか。

―町田さん
幼少期をオランダで過ごし、小さい頃から環境問題に興味を持っていました。オランダはエコやサステナビリティに関する取り組みが進んでいます。小学校では地球温暖化について発表する授業があるなど、自然と地球環境について考えるようになる環境でした。

―weeeat!編集部
小さな頃の環境が背景にあるんですね。東京大学生産技術研究所では、環境に関連した研究をされていたのですか?

―町田さん
はい。コンクリートの研究を専門とする研究室に在籍していました。コンクリートは製造の段階で多くの二酸化炭素を排出し、その量は世界の二酸化炭素排出の8%を占めると言われています。この環境負荷の高いコンクリートを代替する建材の開発を目指していました。

コンクリートをリサイクルする技術の一つに、粉砕したコンクリートのがれきを圧縮成形するというものがあります。酒井雄也先生の研修室では、コンクリートのがれきに木材を組み合わせて圧縮し、接着剤の働きをさせることで成形する技術がありました。当時から酒井先生は「食べられるコンクリートがあったら面白い」という発想をお持ちで、木材を茶葉に変えたコンクリート作りにも成功していました。「では、廃棄食材だけで作ることができるのでは」という発想に至り、身の回りの食品廃棄物のみで新素材を作る研究をスタートします。

コンクリートの研究
fabula Inc.

白菜で作った素材はコンクリートの約4倍の曲げ強度

―weeeat!編集部
食品廃棄物のみでどのように素材を製造するのでしょうか。

―町田さん
まずは原材料となる食品廃棄物を集めます。それを乾燥させて粉末状にします。最後に熱圧縮して成形するという3段階で製造します。工程自体は非常にシンプルです。素材の乾燥方法や粉末の粒度、加える熱の温度等の製造条件を調整することで、ほとんどの食材を成形することができます。

―weeeat!編集部
どんな食材でも成形できるのはすごいですね! これまでにどのような食材を使っているのでしょうか。

―町田さん
みかんの皮やコーヒーの抽出カスでも成形できますし、人参・トマト・白菜といった身近な食材を使った製品もあります。例えば、白菜で作った素材はコンクリートの約4倍の曲げ強度を誇り、暑さ5mmで30kgの荷重にも耐えられます。カボチャの廃棄物で作った素材の強度は高くないのですが、白菜を混ぜることで強度が高まります。このように、複数の材料を混ぜ合わせることも可能です。また、素材を粉末にして再成型し、作り直すこともできます。

―weeeat!編集部
食材によって強度が異なるんですね。お皿などの製品は、色や風合いが素敵ですね。

―町田さん
ありがとうございます。100%天然素材なので、一つとして同じものはありません。一点ずつ異なる風合いを楽しめます。また原材料に柑橘やハーブなどを使うことで、材料由来の色や香りを楽しむことも。将来的には「食べる」ことを視野に入れた研究を進めているので、味も楽しめるようになるかもしれません。

―weeeat!編集部
食品ロスの問題だけでなく、食糧危機の解決にも一役買ってくれそうですね。

野菜でできた建材
fabula Inc.

企業とのコラボレーションで進む実用化

―weeeat!編集部
インスタグラムに掲載されていた、白菜で作ったタイルを犬が舐めている動画が印象的でした。

―町田さん
ご覧になったんですね。実は私の愛犬なんです。動画を観た方から「犬用の歯固めおもちゃに活用したい」という問い合わせをいただいています。犬用のおもちゃにはゴム製や樹脂製のものが多く、顎の力が強いとすぐにボロボロになってしまいます。安全面を気にされる方も多いですね。でも、白菜だけで作ったタイルならば口にしてもあまり問題はないかもしれません。

―weeeat!編集部
fabulaで製造している新素材は、どの程度実用化が進んでいるのでしょうか。

―町田さん
コースター・お椀・タイルなどの雑貨類はすでに実用化できています。また、企業とのコラボレーションにも挑戦しています。株式会社 明治様との事例では、チョコレートの製造途中で取り除かれるカカオ豆の種皮「カカオハスク」を活用したコースターやお椀などの製品を作りました。堀口珈琲狛江店様との事例では、廃棄されるコーヒー豆を活用してトイレサインを製造しました。
将来的には建材を目指していますが、まずは認知度を高めていくために、素材ならではの香りや色をうまく引き出したプロダクト開発に取り組んでいきたいです。

fabula新素材
fabula Inc.

子どもたちへ伝える食品ロスと環境問題

―weeeat!編集部
様々な可能性がありそうです! fabulaでは製造を体験できるワークショップを開催されていますね。

―町田さん
はい。企業や団体などからお声掛けいただき、月に一回程度ワークショップを行っています。参加者の多くは子どもやその親御さんです。親御さんには食品廃棄物の問題やコンクリートの環境負荷をお伝えします。子どもたちは食品廃棄物からタイルなどの製品を作ったり、製品に加工を施したりするような体験をします。

―weeeat!編集部
参加された方の反応などはいかがでしょうか。

―町田さん
子どもたちの反応を見ていると、食べ物の香りをシンプルに楽しんでいる様子が見受けられます。セロリ・生姜・ゆずなどの身近な食材がタイルに生まれ変わる過程を、目の前で見ることができます。言葉で伝える以上に、食品ロスの問題点や食材の大切さが伝わればうれしいですね。

ワークショップの様子
fabula Inc.

「お菓子の家」が実現する未来

―weeeat!編集部
楽しみながら学んだことは忘れないですね。それでは、fabulaの今後の展望について教えてください。例えば、食べられる建材が実現すると、防災食や非常食としての展開もあるように思います。

―町田さん
そうですね。「食べられるコンクリート」というアイデアから始まったこともあり、紛争地や被災地、陸路が寸断された離島などで非常食として活用される可能性は十分あると思います。
また、遠い未来に宇宙で野菜を育てるということになってくると、その食品廃棄物をリユースして作るということも考えられます。宇宙空間でのアップサイクルです。
あと、宇宙に食料を送るには膨大な輸送費が掛かりますよね。例えば、調味料などの粉末のものを圧縮することで体積が小さくなり、輸送の効率を上げることができます。環境負荷を低減するという意味でも、大きな可能性があると考えています。

そして、新しい食材としての可能性もあります。粉末を固めて作るので味が凝縮されます。調味料を混ぜると味が良くなるので、今までにない食材が作れるかもしれません。このように、「食の価値を高める」という観点もあると思います。

―weeeat!編集部
一つの技術や素材が様々な価値を生むんですね。では、建材としての可能性について教えてください。

―町田さん
はい。当社としては、建材としての実用化を大きな柱と捉えています。建材として普及するには、耐水性や不燃性能、製造コストなどのハードルをクリアする必要があります。近年、大手建設会社やデベロッパーが環境にやさしい木造の高層ビル建築に取り組んでいますが、背景には何十年という研究の積み重ねがあってこそ。
もしかしたら、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家みたいに、食べ物で作ったお家に住む未来も遠くないかもしれません。建材としての実用化に向けて、これからも試行錯誤を重ねていきたいです。

―weeeat!編集部
お菓子の家! 夢がありますね。

ジョイント
ジョイント:パスタ
写真:Yuta Sawamura
設計者:藤貴彰、稲毛洋也、Kang De Yuan(三菱地所設計)

「ゴミの地産地消」という考え方

―町田さん
もう一つ、大切にしている考え方があります。「食品廃棄物を価値あるものに変える」という考え方です。「リサイクル」や「アップサイクル」などの言葉を耳にしますが、それらはあくまで手段であって目的ではありません。環境に配慮した取り組みを通して生まれた製品そのものに価値があってこそ、消費者を惹きつけるのだと思っています。ですので、私たちは「食品廃棄物をリサイクルする」ことが目的ではなく、技術を通じて「食品廃棄物を価値化する」ことを目的にしています。

―weeeat!編集部
確かに、トレンドで終わらせないためには、物自体に価値がないといけませんね。

―町田さん
そして、食品廃棄物を循環させていくためには、「小さいスケールでどう回していくか」ということがポイントになります。「ゴミの地産地消」のように、家で出た食品廃棄物を家で使うのが一番健全ですよね。工場で出たものを工場の備品に変える。地域で出たものを地域でプロダクトに変えて売る。このように小さいスケールでの循環を実現すること、それをやり続けることが大切だと思います。

―weeeat!編集部
食品廃棄物を「ゴミ」として捨てるのではなく、「原材料」として使い、暮らしに役立つ素材として価値を生み出す。そのようなプロダクトが暮らしの中で増えていけば、様々な社会問題を解決できますね。本日はありがとうございました!

fabula(ファーブラ)株式会社の方々
fabula Inc.
代表取締役CEO・町田紘太氏(中央)

店舗情報・商品入手先

店舗名 fabula(ファーブラ)株式会社
住所 〒144-0045 東京都大田区南六郷3-10-16号六郷BASE

fabulaの商品は公式オンラインショップより購入できます。

通販サイト:https://store.fabulajp.shop
Instagram:https://www.instagram.com/fabula_inc/

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