「起業したのはヴィーガンの仲間が暮らしやすい世界を作るため」~ブイクック工藤柊さんに聞く~

健康意識・動物愛護・環境保全などの観点からヴィーガン生活を始める方が増えています。その一方で、ヴィーガン対応の商品やメニューを販売するスーパー・カフェの数は決して多くなく、ヴィーガン生活を始める・続けることにハードルの高さを感じている人も多いものです。
「”Hello Vegan!”な社会をつくる」をミッションに掲げ、誰もが気軽にヴィーガンを選択でき、ヴィーガン生活に困らないインフラ構築を目指すのが株式会社ブイクック。同社が手がけるネットスーパー、冷凍弁当の定期宅配サービス、ヴィーガンレシピ投稿サイトなどのサービスは、ヴィーガン業界を牽引する存在として期待されています。
今回は代表取締役・工藤 柊さんにインタビューを行い、起業の経緯や同社の展開する事業について伺いました。
起業の理由は「ヴィーガンを始める・続ける環境を整えたい」
―weeeat!編集部
高校3年生からヴィーガン生活を始められたということですが、その経緯について教えてください。
―工藤さん
はい。学校の授業で地球温暖化について学んだことがきっかけで、環境問題に興味を持つようになりました。自分なりに色々と調べていくと、環境問題の多くは先進国の経済活動によって引き起こされること、またそのしわ寄せが地球温暖化などの形で途上国に影響を与えていることを知りました。
また、犬猫の殺処分に対して問題意識を持っており、年間7万匹(当時)もの犬猫が命を落としていることがわかりました。その一方で、豚や牛が食用としてと殺されている数は年間約1,800万頭。1日約5万頭もの豚が命を奪われていることを知って、ヴィーガン生活を開始しました。
―weeeat!編集部
それからヴィーガンを実践するようになるのですね。
―工藤さん
そうです。それまで何も考えずに牛や豚を口にしていましたが、人間が食べるために殺される構造がある以上は、肉・魚・卵・牛乳を口にしないと宣言しました。
―weeeat!編集部
高校生でヴィーガン生活を始めて、食べるものなどに苦労はしませんでしたか。
―工藤さん
はい。当時はヴィーガンに関する知識がなかったので、何を食べていいのかわかりませんでした。2、3週間はおにぎり、水炊きなどを食べていたと思います。
急にヴィーガン生活を始めたので、家族もどういう料理を作ったらいいのかわからないという状態でしたね。友人と外食した時も、自分だけ野菜やご飯を食べていましたね。
―weeeat!編集部
何を食べればいいのか、何を作ればいいのか、どこに食べに行けばいいのかわからないという課題がブイクックの立ち上げにつながるのでしょうか。
―工藤さん
そうですね。SNSを介して情報発信したり、イベントに参加したりして、少しずつヴィーガンやベジタリアンの仲間が増えました。話を聞いてみると、ヴィーガン食品を買える場所がない、外に食べに行ける場所がない、周りの人に理解してもらえない……。中には、ヴィーガンに興味はあるけど始められない、始めたけど結局続けられなかったという人も。
せっかく動物のことや地球環境のことを思って行動したにもかかわらず、外部環境が原因でヴィーガンを選択できないという現実を目の当たりにしました。
ヴィーガンを始めたい人やヴィーガン生活で困っている人の力になりたいという想いから、現在の「”Hello Vegan!”な社会をつくる」をミッションに掲げて、大学生の時にブイクックを立ち上げました。
3つの壁「買い物・食事・調理」にアプローチするサービス
―weeeat!編集部
「”Hello Vegan!”な社会をつくる」というミッションはわかりやすくて、素敵ですね!ヴィーガン生活を始めた当初は「Go Vegan!」というメッセージのもと、ヴィーガン実践者を増やすための取り組みをされていたと伺いましたが、なぜ「”Hello Vegan!”」にシフトされたのでしょうか。
―工藤さん
ありがとうございます。はじめはSNSを通じて、地球温暖化や畜産の現状といった課題を発信していました。課題に共感してくれる方が多く、実際にヴィーガンを始める方もいました。しかし実践してみると、食べるものや行くお店の選択肢が限られてしまうことで、孤独や生きづらさを感じたりする人もいて……。
他者を思いやって行動できる優しい人たちがつらい思いをせず、報われる環境を整えることが大切だと考え、「”Hello Vegan!”な社会をつくる」をミッションに掲げました。
―weeeat!編集部
ブイクックが展開する事業はその課題にアプローチされているんですね。
―工藤さん
そうなんです。大きく3つの事業があります。一つ目がヴィーガン商品専門のネットスーパー「ブイクックスーパー」です。代替肉・冷凍惣菜・パン・スイーツなど300以上のヴィーガン商品を取り扱い、日本全国へ配送しています。
近年、日本でもヴィーガン商品は増えていますが、取り扱っている小売店は限られています。ただ、各ブランドのECサイトで購入するとそれぞれに送料が掛かり、割高になってしまいます。「ブイクックスーパー」であればヴィーガン商品をまとめて買うことができるので、ヴィーガン商品を生活に取り入れやすくなります。
二つ目がヴィーガン冷凍弁当の定期宅配サービス「ブイクックデリ」です。
仕事や子育てで料理する時間が取れない方のためのサービスで、レンジ5分で栄養士監修のバランスの良いご飯(主菜1つ、副菜2つ)が食べられるというものです。大豆ミートのしぐれ煮、黒酢豚、肉団子と野菜の甘酢あん、エビチリなど全10種類のメニューを用意しており、メニューや配送頻度はお好みで選ぶことができます。
三つ目が日本初のヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」です。
5,000以上のヴィーガンレシピが世界中から投稿され、月間ユーザー数20万人、Instagramフォロワー合計15万人と、業界最大級のヴィーガンレシピプラットフォームです。これらのサービスを通じて、ヴィーガンの方が抱える「買い物」「食事」「調理」の課題を解決しています。
―weeeat!編集部
「ブイクックデリ」で販売されている肉団子と野菜の甘酢あんをいただきましたが、とても美味しかったです! レンチンで食べられるのはすごく便利ですね。
―工藤さん
ありがとうございます。毎朝「ブイクックデリ」のメニューを食べていますが、朝起きてレンジに入れて、顔を洗ったり歯を磨いたりしているうちに完成しているので、忙しい朝にピッタリです。
―weeeat!編集部
職場に持っていってお昼に食べるのもよさそうです。ランチは時間の勝負みたいなところがあるので(笑)。これらの事業を展開する上で、苦労されたことがあれば教えてください。
―工藤さん
そうですね。「ブイクックスーパー」のリニューアルでしょうか。元々はオンラインモール「ブイクックモール」というプラットフォームを運営していました。これはショッピングモールのように、複数の店舗がオンライン上に出店・出品をするというもので、お客様から注文を受けて各メーカー・ブランドさんが梱包・発送するという流れをとっていました。
例えばお客様が代替肉とスイーツを購入する場合、各ブランドのECサイトで購入するため必然的に送料が割高になってしまうという課題がありました。そこで、私たちはヴィーガン商品に特化したネットスーパーを立ち上げて、直接お客さまにヴィーガン商品を販売する新たな流通システムを構築しました。
―weeeat!編集部
ネットスーパー型のほうがお得なので購入する側のハードルも下がりますね!
―工藤さん
はい。お客様にとっては送料の負担を抑えながら、欲しい物をまとめて購入できるので、一度に購入いただく商品数も劇的に増えました。ただ、ネットスーパーにリニューアルしたことで実際の商品を扱うようになり、商品の管理や発送などのオペレーションを組むのが大変でしたね。
利用者と運営者が垣根を越えて作る「ヴィーガン生活を続ける環境」
―weeeat!編集部
ブイクックで働く社員の方もヴィーガンを実践していると伺いました。社員は何名いらっしゃるんですか?
―工藤さん
フルタイムで働いているメンバーが役員を含めて7名、他にもフリーランスや副業で関わっているメンバーも在籍しており、合わせると20名で活動しています。「ブイクックデリ」や「ブイクック」のユーザーがエンジニアとして私たちのプロジェクトにジョインすることもありますよ。
―weeeat!編集部
利用者から運営者に!?
―工藤さん
当社ではあまり立場の区分を設けないようにしているんです。というのも、利用者であれ運営者であれ、目的はヴィーガン生活を続けること。私自身、消費活動を通じてヴィーガン生活を送りつつ、ヴィーガンを広める事業活動を行っています。
例えるなら「協同組合」のように組合員がお互いを助け合うイメージです。生協が地元神戸から発祥していることもあり、協同組合への憧れがあるんですよね(笑)。
イベントなどでユーザーの方とお会いする機会も多いのですが、お宅にお邪魔して冷蔵庫の中身や食べている料理について情報交換することもあります。手段は違っても、同じ目的のもとに集まった私たちが協力して取り組んでいくことで、ヴィーガンを取り巻く課題をより早く解決できると考えています。
ホテル探しからパートナー探しまで。よりヴィーガンを選択しやすい社会へ
―weeeat!編集部
ヴィーガンというと、やはり「難しそう」という先入観がハードルになっているような気がしています。ヴィーガン生活を始めること、続けることにハードルを感じている方にアドバイスをいただけますでしょうか。
―工藤さん
ヴィーガン対応の商品やメニューを販売する小売店・飲食店の数が増え、また食品メーカーもプラントベースフードの商品開発に乗り出すなど、以前と比べてヴィーガン生活に対するハードルは下がっていると思います。しかしながら、最寄りのスーパーやコンビニを見てみると、購入できる商品は限られています。ヴィーガン対応のメニューを提供する飲食店もわずかです。
こういった現状を踏まえると、ヴィーガン生活を始められない、続けられないというのは本人の気持ちの問題ではなく、環境の問題だと感じます。こうした課題を解決するために、「ブイクックスーパー」では積極的に新商品を取り上げたり、「ブイクックデリ」ではラインアップを拡大したりしながら環境を整備しています。
急にヴィーガン生活に切り替えるのはハードルが高いので、まずは月に1食からでも始めてほしいです。今まで通りの食生活を続けながらも、肉の代わりに納豆にしてみる。大豆ミートを買ってハンバーガーを作ってみる。1日3食として月に90食のうち1食からでも始めてみる。自分なりに料理の感覚や美味しい食材がわかってくるので、そこから少しずつヴィーガンを選択する回数を増やしていくのが良いと思います。
―weeeat!編集部
最後に、今後の展望についてお聞かせください。ブイクックの事業を通してどういったことを成し遂げたいですか。
―工藤さん
今後も「”Hello Vegan!”な社会をつくる」をミッションに、ヴィーガン生活に関連するあらゆる課題を解決することにフォーカスを当てて事業を展開していきたいです。例えば、ヴィーガンメニューを提供する店舗自体を増やすことはもちろん、その店舗を探しやすくする・見つけやすくすることにも取り組んでいきます。
またヴィーガンに対応したホテル・旅館探し、さらには同じヴィーガンのパートナー探しなど。新たなサービスを通してヴィーガン生活のインフラを構築し、誰もがヴィーガンを選択し、困らずに生活できる社会を実現させたいです。
会社情報・商品入手先
店舗名 株式会社ブイクック
住所 〒651-0086 兵庫県神戸市中央区磯上通4丁目1-14三宮スカイビル7F
ブイクックの各種サービスはこちらから。
ヴィーガン商品専門「ブイクックスーパー」:https://vcooksuper.jp
ヴィーガン冷凍弁当の定期宅配サービス「ブイクックデリ」:https://vcookdeli.jp/
ヴィーガンレシピ投稿サイト「ブイクック」:https://vcook.jp/
Instagram(レシピ紹介):https://www.instagram.com/veganrecipes_vcook/