―weeeat!編集部
井口さんは大学卒業と同時にベンナーズを設立されたと伺いました。どのような経緯で会社を立ち上げたのでしょうか。

―井口さん
アメリカにあるボストン大学でアントレプレナーシップを専攻していたこともあって、いつか自分も事を成したいと考えていました。大学卒業後は地元の福岡に戻り、スタートアップ企業を支援する福岡市の施設「福岡グロースネクスト」のサポートを受けて2018年に会社を立ち上げます。「日本と食と漁業を守る」を経営理念に掲げて起業したのがベンナーズです。

―weeeat!編集部
学生の頃から、水産業で起業したいという想いがあったのでしょうか。

―井口さん
いえ、そこまで絞れていたわけではなく、はじめは教育分野での起業を考えるなど、ギリギリまで決まっていなかったというのが正直なところです。最終的に水産業を選んだ理由は、私の祖父・父が水産関係の仕事をしていたので、会社は違っても3代目として水産業に携わりたいと考えたからです。

―weeeat!編集部
子どもの頃から水産業に馴染みがあったのですね。

―井口さん
そうですね。大学3年の2学期に「プラットフォーム戦略」という授業を受け、プラットフォーム型のビジネスモデルは、情報の不均衡が起きている業界にこそ生きてくるモデルだということを学びました。
水産業は流通経路が複雑なため、情報の不均衡が生じます。そこで、プラットフォーム型のビジネスモデルを活用することで改革できるのではないかと考えました。

―weeeat!編集部
そこから、フィシュルの立ち上げにつながっていくわけですね。

―井口さん
はい。まずは流通構造を改革するために、産地と外食をつなげるBtoBのプラットフォーム事業から始めました。消費者の「魚離れ」が進む中で、魚の需要自体を作っていけるようなサービスをしたいと考えたのです。

大きな転機となったのは新型コロナウイルスの感染拡大です。外食産業の多くが大きなダメージを受け、当社としても新しいビジネスをせざるを得ない状況に直面しました。そこで始めたのが、BtoC向けの魚のサブスクサービス「フィシュル!」です。

―weeeat!編集部
フィシュルでは未利用魚を積極的に活用していますね。そもそも未利用魚とはどんな魚なのか教えてください。

―井口さん
未利用魚とは、加工の手間や漁獲量の多さ・少なさ、知名度、傷、形の悪さなど、様々な理由で市場に出回らない魚のことです。総水揚げ量の30～40％が未利用魚として廃棄されているとも言われています。

外食産業における魚の需要が落ち込む中で、この未利用魚を有効活用して、誰もが魚料理を家庭で簡単に作れるようなサービスを立ち上げたいと考えました。そうすれば、未利用魚の問題と、魚離れの問題を同時に解決できるのではないかと思ったわけです。

―weeeat!編集部
食べられるのに廃棄されてしまうのはもったいないですね。

―井口さん
はい。フードロス削減だけではなく、環境的な付加価値もあります。東京大学大学院の学生が実習でカーボンフットプリントを試算したところ、「スーパーで魚を買うのに比べて、毎月1パックフィシュルを消費すると、年間13kgのCO2削減につながる」という結果が出ました。これは杉の木1本の年間CO2吸収量と同等の値だそうです。

▶調査結果の詳細はこちら

―weeeat!編集部
環境貢献にもつながるんですか！ フィシュルのインスタグラムを拝見しましたが、お茶漬けやカルパッチョなどの料理が紹介されていて、どれも美味しそうですね。

―井口さん
ありがとうございます。フィシュルでは、九州をはじめとして全国から水揚げされた天然鮮魚を獲れたその日に加工・瞬間凍結し、ミールキットとして皆さまの食卓へお届けしています。

「魚料理」というと、「下処理に手間がかかる」「調理方法が難しそう」という印象をお持ちの方も多いと思いますが、フィシュルは味噌漬けや醤油漬け、カルパッチョなどの味付けをしているので、のせる・焼く・茹でるだけで美味しい魚料理をお楽しみいただけます。

今では和洋中の40種類以上の豊富なラインナップがあり、お魚の種類に合わせて味付けをしています。着色料や保存料は一切使用してないので、安心してお召し上がりいただけます。

―weeeat!編集部
サイトを拝見すると、シイラやアイゴなど、普段スーパーなどで見かけない魚が紹介されています。おすすめの魚があれば教えてください。

―井口さん
「オジサン」という魚はその名前と風貌から敬遠されがちですが、上品な甘みもあって美味しいです。それなりのサイズだと脂も乗っていておすすめですよ。

―weeeat!編集部
 ユニークな名前ですね！ 珍しい魚との出会いが楽しそう。私たちもぜひ試してみたいです。

―weeeat!編集部
最近の水産業の変化について教えてください。

―井口さん
水産業の流通構造については、良くも悪くもコロナ禍を経て電子商取引が活発化したと考えています。

これまでは産地で水揚げされた魚は一度漁協に集められて、市場に出荷し、そこから仲卸を通じて小売店やスーパーに出回るというのが普通でした。コロナの影響でオンラインの直売所のようなサービスが増えたため、食べものをオンラインで購入して自宅で食べるということが当たり前になりました。

―weeeat!編集部
確かに、今となっては違和感なくオンラインで購入していますね。魚離れの問題はいかがでしょうか。

―井口さん
回転寿司のマーケットが拡大傾向にあることを考えると、決して魚が嫌いになっているわけではないんです。「魚を料理することから離れている」と受け止めています。理由は様々あると思いますが、「食」のライフスタイルの変化に水産業の対応が遅れてしまったということが一番の理由ではないでしょうか。

―weeeat!編集部
その点、フィシュルは小骨や下処理などをした魚を届けてくれるので、手軽に魚料理を楽しむことができますね。

―weeeat!編集部
現在、フィシュルの会員は何人くらいいるのでしょうか。

―井口さん
多くの方にご利用いただき、累計会員数は27,000人を突破しました。「味付けが美味しい」「鮮度が抜群」「未利用魚を食べて社会貢献できる」など、たくさんの声をいただけてうれしいです。

昔は商店街に必ずと言っていいほど鮮魚店がありましたが、閉店するお店も多く、現在はスーパーで魚を購入する方がほとんどです。
「スーパーでは見かけない新鮮な魚が購入できるようになった」
「魚料理はレパートリーが限られるので、外食する時しか魚を食べなかったけど、フィシュルと出会えて魚が身近になった」
というありがたい声も届いています。

より多くの方にご利用いただけるよう、今年は福岡市のふるさと納税にも出店します。
また、現在ミールキットのフレーバーは40種類以上ですが、毎月新フレーバーを出すことを目標に商品開発しています。日本には、まだまだ知られていない調味料や原材料がたくさんあります。そういった地域に眠っているものを積極的に活用していきたいです。

―weeeat!編集部
ますます魚料理が身近になりますね。最後に今後の展望についてお聞かせください。

―井口さん
フィシュルは未利用魚をはじめ、これまでに取り扱った魚の重さが累計131tに到達しました。また使用した魚の種類も50種を突破するなど、たくさんの人に「魚との出会い」を提供してきました。
ただ、フィシュル自体はまだ決して知名度が高くないため、これまで以上に多くの方に使っていただけるように、ブランドの知名度を高めていきたいです。

また、当社は「日本の食と漁業を守る」というビジョンの下、「水産業界に関わる、全ての人を豊かにする」というミッションを掲げています。現在は拠点を福岡に構えており、全国の港でとれた魚を扱えているわけではないため、フィシュルの仕組みを全国各地の港に転用していくことで、日本の水産業が抱える未利用魚の問題を解決に導きたいと考えています。

更にはフィシュルを海外に展開し、世界中の未利用魚を「利用魚」に変えていきたいです。

―weeeat!編集部
日本人の食生活が豊かにする素敵な事業ですね。ありがとうございました！ 

会社名：株式会社ベンナーズ

住所　〒813-0018　福岡県福岡市東区香椎浜ふ頭2丁目3−1 羽野水産福岡香椎冷蔵庫5F
通販サイト：https://fishlle.com/
Instagram：https://www.instagram.com/fishlle.official/