2024/03/13

粉末技術で廃棄野菜を救え! グリーンエースの粉末野菜「Vegemin」が広げる食と農の可能性

weeeat!編集部
粉末技術で廃棄野菜を救え! グリーンエースの粉末野菜「Vegemin」が広げる食と農の可能性

日本では、年間200万トンもの野菜が規格外や価格調整のために廃棄されていると言われています。こうした廃棄野菜はフードロスにつながるとされ、企業や自治体の間で、積極的に活用しようとする動きが広がっています。普段の料理や飲み物に混ぜるだけで、手軽に野菜を摂取できる野菜粉末「Vegemin(ベジミン)」もそのひとつです。同商品を展開するのは、「農産物の力で生活をもっと豊かに」をビジョンに掲げ、農産物アップサイクル事業を展開する株式会社グリーンエース。同社は大学発のスタートアップ企業として、野菜の色・香り・栄養成分を保持したまま粉末化する技術の研究に取り組んできました。今回は代表取締役の中村慎之祐さんに、現在の取り組みや商品の魅力について話を聞きました。

研究を始めたのは「地元の農業を発展させたいから」

―weeeat!編集部
グリーンエースは大学発のスタートアップ企業と伺いました。どのような経緯から事業を立ち上げたのでしょうか。

―中村さん
大学ではバイオテック、いわゆる遺伝子やたんぱく質の研究を行っていました。この時から野菜廃棄の問題に心を痛めていましたが、この問題をより深刻に考えたのは大学院生の時でした。山形県酒田市の高校を卒業してから大学院を修了するまでの9年間で、私の母校である幼稚園・小学校・中学校が統廃合によって閉校になったのです。

自分の育ってきた場所が失われる寂しさとともに、地元のために何かできることはないかと考えました。そこで着目したのが農業です。山形県の基幹産業のひとつである農業を発展させることで、地域の活性化に貢献できると考え、大学内のビジネスプランコンテストで野菜を粉末化するアイディアを発表。実用化に向けて粉末化技術の研究を始めました。

―weeeat!編集部
地方において、野菜の廃棄問題というのは深刻化しているのでしょうか。

―中村さん
生産者の方からすれば、これまでも規格外や価格調整のために廃棄していたので、農業をやっている以上は仕方ないと割り切っている部分もあるとは思います。近年では、捨てられてしまう農産物を有効活用しようという動きが広がっており、規格外の農産物を購入できるサービスも登場しています。

しかしながら、規格外の農産物だからといって安く販売してしまうと、通常の野菜の価値が下がってしまうという難しい問題もあります。私たちは廃棄される農産物に価値をつけたいという想いから、野菜そのものを販売するのではなく、野菜を粉末化させることに着目しました。

―weeeat!編集部
廃棄される野菜を粉末に加工してアップサイクルさせることで、農産物自体の価値を保っているということですね。

―中村さん
そうですね。「Vegemin」を購入したからといって、普段購入する野菜の量が減るわけではありません。通常の野菜の出荷に加えて、これまで廃棄していたものを商品にすることで、生産者の方の利益確保、ひいては地域の農業の発展に貢献することを目指しています。

山形県酒田市の田園風景
山形県酒田市の田園風景

たったの5秒で粉末に! 色・香り・栄養を保持する独自技術

―weeeat!編集部
スーパーなどで野菜パウダーを見かける機会も増えましたが、「Vegemin」には独自の粉末化技術が用いられているそうですね。

―中村さん
はい。野菜パウダーの多くは、野菜を乾燥させてから粉末状に加工していきますが、加熱処理に12〜48時間以上もかかることもあり、その過程で野菜の色がくすんでしまったり、香りや栄養が損なわれたりするといった課題がありました。

いかに熱を加えずに、短時間で乾燥粉末にするか。その問題を解決するために、熱風を当てながら瞬時に農産物を乾燥させて、粉砕するという技術を活用しています。

野菜

イメージとしては、表面を乾燥させた農産物同士を衝突させて小さくし、小さくなった農産物をまた乾燥させて衝突させていくというようなものです。例えば、カボチャをオーブンで乾燥させようとすると膨大な時間を要しますが、この技術を用いると、カボチャを入れて粉末状になるまで5秒程度で済みます。

―weeeat!編集部
たったの5秒とは驚きです。一瞬で粉末状になってしまうのですね! 栄養成分はどのくらい保持できるのでしょうか。

―中村さん
例えばほうれん草を従来の技術で乾燥させると、大半の栄養素は失われてしまいますが、当社の技術を用いると、栄養素にほとんど変わりはありません。

栄養価比較表

―weeeat!編集部
トマトや大根といった水分が多い野菜でも粉末化できるのでしょうか。

―中村さん
はい。トマトも大根もほとんどが水分ですが、問題なく粉末にすることができます。また、熟れてしまったトマトや小さくて形の悪いさつまいも、ほうれん草の根元などにも対応しており、粉末にすることで2年間の長期保存が可能です。

―weeeat!編集部
災害時のための保存食としても活用できそうですね! この粉末化技術を実用化する上で、苦労した点があれば教えてください。

―中村さん
そうですね。当初から野菜粉末の可能性は感じていたものの、どのように粉にしていくかということから研究を始めましたし、粉砕機を導入してからも、その使い方から学ぶという感じでした。そもそも野菜を自動で切る機械があるなんて考えたこともなかったので、はじめはほうれん草50キロを手で切ったこともありました(笑)。

―weeeat!編集部
腱鞘炎になってしまいそうですね……!

―中村さん
そうですね(笑)。ただ自分の手で切った経験があったことで、粉になりやすい切り方がわかったこともあり、結果的に研究にも生かすことができました。

また、中でも色・香り・栄養素を残しながら粉末にするのは想像以上に大変で、実験を重ねて知識とノウハウを蓄積し、プロダクトの改善に努めてきました。そして、多くの方に支えられて、ようやく商品化できるレベルまで技術を高めることができました。

Vegemin研究開発の様子
Vegemin研究開発の様子

―weeeat!編集部
開発の段階からJA全農さんと共同で研究に取り組まれたと伺いました。どのような関わり方だったのでしょうか。

―中村さん
はい。実用化に向けてJA全農さんの知見やアイディアを借りながら、ディスカッションを通して野菜粉末の可能性を模索し続けてきました。明確な役割分担があったというよりも、共に悩み、解決策を考えて、開発してきた技術だと考えています。

先ほど廃棄野菜の有効活用が難しいという話をしましたが、そもそも廃棄野菜を集めることも簡単ではありません。というのも、通常の野菜と異なるルートで卸すとなると、生産者の方の負担になってしまうからです。そこでJA全農さんと連携しながら、既存の流通システムを活用して野菜を受け入れるという取り組みも始めています。

廃棄野菜といっても生産者の方にとっては通常の野菜と同じように手間をかけて育てた野菜なので、通常の野菜と同じようにお金を受け取っていただける仕組みづくりも検討しています。

「野菜をなかなか食べない子どもが食べてくれた」

―weeeat!編集部
「Vegemin」のコンセプトやラインアップについて教えていただけますでしょうか。

―中村さん
「いつものご飯・おやつ・飲み物を野菜の力でちょっと健康に」というコンセプトを掲げています。野菜の栄養価をそのまま粉末加工し、パウダー・ビスケット・ドレッシング・パンという子どもから大人まで美味しく食べられる商品を展開しています。すべての商品に野菜の粉末が入っており、栄養だけでなく、野菜由来の色や香りをお楽しみいただけます。

野菜の栄養を濃縮してつくった野菜粉末「Vegemin」
野菜の栄養を濃縮してつくった野菜粉末「Vegemin」

―weeeat!編集部
中でも人気の商品について教えてください。

―中村さん
どれも人気ですが、今一番力を入れているのがパンです。野菜の色や香り、栄養成分をギュッと濃縮したパンで、トマト・ほうれん草・カボチャのバリエーションをご用意しています。山形の実店舗のほかにECサイトでも取り扱っていますが、ご好評をいただいています。2023年にNEWoMan新宿のポップアップストアで販売したところ、2日連続でご来店されたお客さまもいらっしゃいました。

egeminを使ったパン「GREEN BREAD」
Vegeminを使ったパン「GREEN BREAD」

―weeeat!編集部
それはうれしいですね! お客さまからはどのような反応がありましたか。

―中村さん
そうですね。「ちゃんと野菜だ!」と、いい意味で驚かれるお客さまが多いですね。野菜の味や香りは私たちがこだわってきた部分。パンに加工しても、それがお客さまに伝わってうれしく思います。また、「野菜をなかなか食べない子どもが食べてくれた」「子どもが『Vegemin』をきっかけに野菜に慣れてきた」という反応もありました。

―weeeat!編集部
パウダー状になっていたり、パンに姿を変えていると、野菜が苦手なお子さんでも気づかずに食べてくれますね。はじめはパウダーのみの販売だったと思いますが、パンやビスケットを販売するようになった経緯はどういった流れだったのでしょうか。

Vegeminを使ったドレッシング「SALAD ON SALAD」
Vegeminを使ったドレッシング「SALAD ON SALAD」

―中村さん
私たちの目的は地域の活性化です。地域で店舗を持ち直接貢献ができないかと考えたときに、パウダーを販売するだけでは足りないと思っていました。パウダーを手に取ったお客さまから、「どのように使ったらいいのかわからない」という声も多くいただいていたため、より気軽に野菜を摂れるパンやビスケットを販売するようになりました。子どもに野菜を食べさせたい、一人暮らしで野菜が足りていない、年齢とともに食が細くなってきたなど、様々なニーズにお応えしています。

中村さんの故郷・山形県酒田市にある実店舗「GREEN BAKERY」
中村さんの故郷・山形県酒田市にある実店舗「GREEN BAKERY」

「Vegemin」で日常食べるものをちょっと健康なものへ

―weeeat!編集部
現在はどのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょうか。

―中村さん
ありがたいことに、様々な企業さんからオファーをいただいており、野菜以外の粉末化の研究にも取り組んでいます。より多くの方に手に取っていただけるよう、皆さんにも身近なお店に並ぶような商品も販売予定です。これからも研究機関や食品企業などとの連携を強化し、野菜粉末の更なる可能性を追求していきます。

―weeeat!編集部
ますます「Vegemin」が身近になりますね! 最後に今後の展望についてお聞かせください。

―中村さん
前提としてあるのは、「Vegemin」をより美味しく、もっと手軽に野菜が摂れる、そんなブランドに育てていきたいと考えています。美味しさについては、パンやドレッシングの味を追求するとともに、より高品質な野菜粉末を生産するための研究開発を続けています。

手軽さについては、パウダー・ビスケット・ドレッシング・パン以外にも、ふりかけやポタージュ、麺といった私たちに身近な食品への展開も検討しています。日常食べるものをちょっと健康なものに変えていく、その選択肢をこれからも広げていきたいと考えています。

この美味しさと手軽さを追求することで、規格外や価格調整のために廃棄される野菜を少しでも多くの方々に届けていきます。もったいない野菜を捨てるのではなく、新たな価値を持つ商品として生まれ変わらせ、皆さんに豊かな食生活をお届けする。「Vegemin」を通じて、そんな食のシステムを作っていきたいです。

中村さん

店舗情報・商品入手先

店舗名 株式会社グリーンエース(グリーンベーカリー)

住所 〒998-0842 山形県酒田市亀ヶ崎4-1-42
電話 0234-28-8780
「Vegemin」は店舗または公式通販サイトで購入できます。

通販サイト:https://vegemin.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/vegemin_official/

weeeat!編集部
weeeat!編集部は、私たちの大切な「食」を中心に、人と地球にやさしい情報を発信していきます。 “地球にやさしい取り組み”を共感・実践する仲間とともに、サステナブルな社会と文化を目指します。

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