2024/04/24

未利用魚とジビエを味わう“おでんとタコス” 〜石巻「Reborn-Art STAND」が見つめ直す地元食材の新たな価値〜

weeeat!編集部
未利用魚とジビエを味わう“おでんとタコス” 〜石巻「Reborn-Art STAND」が見つめ直す地元食材の新たな価値〜
photo by Mayumi Yamada

宮城県石巻市を舞台とした「アート・音楽・食」の総合芸術祭であるReborn-Art Festival(リボーンアート・フェスティバル)。初開催となった2017年以来、国内外の現代アーティストが地域と触れ合いながら作品を生み出したり、日本各地のシェフが地元の食材を使ってここでしか味わえない食を提供したりと、たくさんの「出会い」を創造しています。2023年には、同団体が目指す持続的な循環の創造や地域資源の掘り起こしの一環として、未利用魚や鹿肉といった地元石巻の食材を活かしたおでんとタコスを楽しめる飲食店「Reborn-Art STAND」をオープンしました。今回はReborn-Art Festivalの事務局長・松村豪太さんに、同店舗をオープンした経緯や今後の展望について伺いました。

被災地を継続的に支援する「地方型芸術祭」というアイデア

―weeeat!編集部
昨年オープンした「Reborn-Art STAND」は、一般社団法人Reborn-Art Festivalが運営していると伺いました。まず、Reborn-Art Festivalが始まった経緯について教えてください。

―松村さん
宮城県石巻市と牡鹿半島は東日本大震災の被災地です。震災の直後、Reborn-Art Festivalの母体である一般社団法人APバンク(以下、ap bank)が石巻専修大学に設けられたボランティアのベースキャンプを通じて支援活動を行っていたこともあり、石巻市を中心に始まりました。ap bankは小林武史氏と櫻井和寿氏(Mr.Children)、坂本龍一氏の3名が設立し、「サステナブル」をテーマに自然エネルギーや環境保全活動を行う方々への融資・野外音楽イベントの開催・復興支援活動といった様々なプロジェクトを推進しています。

代表の小林武史氏は、震災直後から現地に足を運んで被災者支援を行なっていましたが、一時的な支援では、過疎化が進む被災地にとって十分なアクションにならないと考えていたようです。より継続的な支援のあり方を模索するなかで、新潟県の「大地の芸術祭」を視察した際にその可能性に気づき、生まれたのが「地方型芸術祭」というアイデア。

「被災地を元に戻す」という考え方ではなく、地域に新しいつながりや出会い、循環を創出し、オープンかつクリエイティブなローカルモデルを作ることで、地域の内側からの復興を支えたい。地元の方々の想いを受け止めながら、2015年に石巻市とap bankが発起人となり、Reborn-Art Festival 実行委員会が発足しました。2017年に本祭が始まり、2019年、2021-22年(前期・後期)の計3回の開催で、のべ92万人の方に来場いただきました。

河原
photo by Taichi Saito

―weeeat!編集部
Reborn-Art Festivalでは、「アート・音楽・食」を柱に様々なイベントを開催しているそうですが、中でも「食」においてはどのようなテーマで行っているのでしょうか。

―松村さん
年ごとにテーマは異なりますが、軸に置いているのは石巻の「食の魅力」を発信すること。石巻では200種を超える豊富な種類の魚が水揚げされますし、米どころである宮城県内はササニシキの最大産地でもあります。近年はジビエ食材として鹿肉にも注目が集まるなど、豊かな漁場と肥沃な土壌が広がる石巻はまさに食材の宝庫。食材の魅力をそのまま活かすだけでなく、日本各地のシェフたちが地元の料理人や食材と出会い、ここでしか味わえない食を提供しています。

船 人 海
photo by Takehiro Goto

日常的に触れ合える“おでんとタコス”のお店

―weeeat!編集部
2023年11月11日には、未利用魚や鹿肉など石巻・牡鹿半島の味を楽しめる飲食店「Reborn-Art STAND」をJR石巻駅構内にオープンされています。そのきっかけについて教えてください。

―松村さん
Reborn-Art Festivalは初開催となった2017年以降、およそ2年に一度のペースで開催しており、国内外から多くの方が訪れるイベントになっています。とはいえ、Reborn-Art Festivalが大切にしているのは、定常的な循環を作ること。そのために、鹿肉の解体処理場や自然の中で暮らしの知恵を学ぶ宿泊・研修施設などを作ってきましたが、日常としてReborn-Artと触れ合える接点を作れていないことに課題を感じていました。

―weeeat!編集部
それが「Reborn-Art STAND」のオープンにつながるわけですね!

―松村さん
はい。たくさんの人が行き交うJR石巻駅構内に「Reborn-Art STAND」をオープンすることで、県外から訪れる人だけでなく、地元の方も定常的にReborn-Artに触れることができます。また、全国の才能あふれるシェフや地元の料理人が見出した、石巻の新たな食体験やアイデアをアウトプットする場としても活用できるのではないかと考えました。

Reborn-Art STAND
photo by Mayumi Yamada

―weeeat!編集部
駅構内にあると、帰り道に思わず寄ってしまいそうです(笑)。
メニューには、未利用魚や鹿肉をはじめとした地元石巻の食材を活用しているそうですね。

―松村さん
「Reborn-Art STAND」をオープンさせる前から、未利用資源を活用したいという想いはありました。持続的な循環の創出や地域資源の掘り起こしの一環として、未利用魚を「インディーズフィッシュ」と名付けて利用拡大を図ったり、それまで害獣として駆除対象となっていた鹿をジビエ鹿肉として活用したり。そうした食材を工夫して美味しくいただきながら、地域と食をつなぐ問題を見つめ、海や山の恵みを循環させることを大切にしています。

Reborn-Art Festivalが制作した「インディーズフィッシュ」のポスター
Reborn-Art Festivalが制作した「インディーズフィッシュ」のポスター

インディーズフィッシュを味わう「おでん」

―weeeat!編集部
サイトを拝見したところ、店舗では「おでん」と「タコス」を提供されているんですね! この2つに着目した理由などはあったのでしょうか。

―松村さん
石巻は海、山、川などの豊かな自然に囲まれた街です。この多様性に富んだ石巻をアピールできるメニューを作りたいと考えるなかで、ひとつの出汁を通して海と山の恵みを同時に味わえるおでんと、具材やソースの組み合わせ次第で何通りもの味を楽しむことができるタコスは、まさに個性豊かな石巻を味わえる料理。和と洋という異なる視点で、石巻の味を感じてほしいという思いから、おでんとタコスを提供しています。

―weeeat!編集部
おでんの出汁には、「イシガニ」が使われているそうですね。正直、私にはあまり馴染みがありませんでした。

―松村さん
イシガニもインディーズフィッシュのひとつで、スーパーなどで見かける機会はほとんどないと思います。イシガニは殻が硬くて食べにくく、また激しく暴れて網を破ったり、他の魚を傷つけてしまったりするため、漁師にとって嫌われ者です。ですが、イシガニからは良い出汁が出るため、汁物には最適。牡鹿半島の桃浦産のイシガニを贅沢に丸ごと使用して、地元で収穫した野菜と一緒に丁寧に煮出すことで美味しいスープに仕立てています。夏には、プレオープンの際に好評だったジュレを乗せた夏野菜や、冷やしおでんの提供も検討しています。

おでん 魚料理
photo by Mayumi Yamada

―weeeat!編集部
生産者へメッセージを送れる『いしのまき 食の郵便屋さん』というポストを設置しているのもユニークな取り組みですね!

―松村さん
ありがとうございます。食材を提供する生産者と食事を口にするお客さまの接点を作るためのコミュニケーションツールとして、ポストを設置しています。石巻や周辺地域から仕入れる食材には、地域に根差し、風土ともに歩む生産者の方々の愛情とエネルギーが込められています。ポストを通じてそういった生産者の想いに触れることもできますし、反対に食事を通して思い浮かんだ言葉や想いがあれば、ポストカードに記入して投函することで、生産者へメッセージを届けることも可能です。

そのほかにも、アーティストの方とコラボした作品展示やワークショップを開催するなど、さまざまな出会いを通じて、食の魅力を発信する拠点としての役割を担っています。

いしのまき 食の郵便屋さん
photo by Mayumi Yamada

人口減少が深刻な地方において、大切にすべきはクリエイティブの視点

―weeeat!編集部
最後に今後の展望についてお聞かせください。

―松村さん
はい。私は生まれも育ちもここ石巻です。日本全体の人口が減少するなかで、地方に目を向けると状況はさらに深刻です。地方人口の減少に歯止めをかけるために、政府・自治体は関係人口の創出や地方移住に向けた支援を行っていますが、それで人を取り合ったとしても本当の意味での振興にはつながらないと考えています。

今こそ地方は、「クリエイティブ」を大切にしなければなりません。クリエイティブといっても、モノを作ったり絵を描いたりするということだけではありません。新たな視点で地方の本質的な価値を見つめ直したり、人や地域のつながりをつくったりすることもクリエイティブです。

Reborn-Art Festivalもあらゆるプロジェクトにおいて、クリエイティブの視点を大切にしてきましたし、それは今後も変わることはありません。「Reborn-Art STAND」としては、これまで料理人・生産者の皆さんと取り組んできたことを続けながらも、「食べること」を通じて食材が持つストーリーやその背景にある風土を感じながら、石巻の味を楽しめる包括的な食の発信拠点を目指していきます。

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店舗情報・商品入手先

店舗名 Reborn-Art STAND(リボーンアート・スタンド)

住所 〒986-0826 宮城県石巻市鋳銭場9-1(JR東日本石巻駅構内 NewDays石巻店隣)
営業時間 月曜〜土曜・祝日11:00〜21:00 日曜 11:00〜15:00

Instagram:https://www.instagram.com/reborn_art_stand/

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