2024/05/08

京セラ発の食物アレルギー対応サービス「matoil」が叶える アレルギーっ子の笑顔

weeeat!編集部
京セラ発の食物アレルギー対応サービス「matoil」が叶える アレルギーっ子の笑顔

食物アレルギーのある子どもがいると、使用できる食材が限られたり、外食先や旅行先での食事に困ったりすることも。そんな食物アレルギーのある子どもの「食べたい」と、親の「食べさせたい」という想いに応えるのが、食物アレルギー対応サービス「matoil(マトイル)」。食物アレルギーや嗜好に合わせてオーダーメイドで提案するごちそうキットや、参加者全員のアレルギーに対応した料理教室・イベントなどを通じて、より良い食体験を提案しています。今回は同サービスの開発を手がけた代表の谷美那子さんと、アドバイザーとしてサービスに参画するNPO法人アレルギーっこパパの会・今村慎太郎さんに、matoilを立ち上げたきっかけや活動内容について話を聞きました。

自分の食物アレルギーと向き合い生まれた新規事業

―weeeat!編集部
谷さんは京セラ株式会社(以下、京セラ)の社員だと伺いました。企業の中で一社員として働く谷さんが、matoilを立ち上げた経緯について教えてください。

―谷さん
matoilは、2018年から始まった京セラ発の新規事業アイデアスタートアッププログラム制度から生まれたプロジェクトです。

私はもともと食物アレルギーがあります。今でこそ食べるものに苦労することはほとんどありませんが、子どもの頃はインターネットもなく、正しい情報や正しい治療法にたどり着くまでにとても苦労をしました。私と同じような想いを持っている方のために何か新しいサービスを作りたいと思い、このプログラムに参加しました。

「matoil」という名前は、子どもの「食べたい」と親の「食べさせたい」という気持ちへ的確に応えたいという想いから、「的を射る」という言葉にインスピレーションを得て、命名しました。

―weeeat!編集部
素敵なお名前です!ご自身の経験から生まれたアイデアなんですね。
「食物アレルギー」があると、具体的にどういったことに苦労するのでしょうか。

―谷さん
はい。これは全員に当てはまることではないですが、例えば食物アレルギーの症状が重度な場合にレストランの入店を断られたり、友達の誕生日会に自分の子どもだけ呼ばれなかったり、お祭りの屋台で食べられるものがなかったりと、食物アレルギーによって行動や選択が制限されてしまうことがあります。

食物アレルギーがあっても食事の機会や料理の時間を楽しめるものにしたい、食物アレルギーがあるからこそ出会える料理や食体験を提供したいという想いから、matoilを考案しました。

―weeeat!編集部
そこからmatoilが始まったんですね。
matoilにはアドバイザーの今村さんをはじめ、シェフの方やパティシエの方が参画されていますね。どのような出会いがあったのでしょうか。

―谷さん
matoilを立ち上げるにあたり、食物アレルギーの現状や、食物アレルギーに関する調査データなどをお伺いするために今村さんにメールを送りました。そこからシェフの方、パティシエの方をご紹介いただいたという流れです。

生まれつき複数の食物アレルギーと付き合ってきたものの、自分の事業構想には全くと言っていいほど自信がありませんでした。そのなかで、シェフの方やパティシエの方といった料理を提供する側の方々とお話しすることで、食物アレルギーに対応する現場が抱える課題や、料理の持つ可能性を肌で感じることができました。ここでの出会いや経験は、matoilの立ち上げにとって大きかったです。

matoilを立ち上げた谷さん(左から3番目)とアドバイザーの今村さん(左から2番目)
matoilを立ち上げた谷さん(左から3番目)とアドバイザーの今村さん(左から2番目)

記念日にみんなと同じものを食べる喜び

―weeeat!編集部
食物アレルギーに対応した食事の機会を提供しているとのことですが、matoilで展開しているサービスについて教えてください。

―谷さん
近年、アレルギー対応の飲食店や食品が増えていますが、ひと言で「アレルギー対応」といっても、決められた基準のようなものはありません。曖昧になっているアレルギー対応の定義がどうあるべきかを考え続けながら、現在は大きく3つの考え方でサービスを提供しています。

1つ目がお誕生日やクリスマスといった記念日などにお届けする「anniversary meal kit」です。これは、食べてみたい料理や苦手な食材などをヒアリングした上で、シェフがオーダーメイドでコース料理をご用意。食物アレルギーへの対応はもちろん、お子さまが好きなものを詰め込んだ料理をお届けします。

アレルギーのあるお子さまを持つご家庭の中には、食事が理由で行動が制限されている方も多いため、家族旅行先や修学旅行先にお届けするなど、さまざまなケースに対応したメニューをご用意しています。

また、お子さまが食べられるか不安という方には、少量をお送りして反応を見ていただく「ひとくちトライアル」という試みも行っています。これまでに数多くの方に本サービスを利用いただいておりますが、普段はお肉を食べないお子さまがハンバーグを完食する姿を見て、親御さんが驚いたこともありました。ヒアリングや「ひとくちトライアル」を行うことで、いつもと違うメニューを安心して思い切り食べていただけます。

anniversary meal kit

2つ目が、東京都世田谷区上北沢にある工房一体型スタジオ「マトイルファクトリー」。レストランスペースでは、1日1組限定で、シェフと一緒に食べたいものを考える“メニューのない”完全予約制レストランを運営しています。

イベントスタジオでは、参加者全員のアレルギーに対応した料理教室やmatoilの料理やスイーツが楽しめる体験型ワークショップ「オープンファクトリー」を開催しています。クリスマスには、米粉を使ったケーキやミートローフをシェフと一緒に作ったり、夏祭りではみんなで流しそうめんをするなど、作ってたのしい、食べておいしい。そんな時間を味わえる食のイベントです。

セミナー

マトイルファクトリーのスタジオマップ
マトイルファクトリーのスタジオマップ

3つ目が、オンラインショップでの仕様の決まったパッケージ商品販売です。すべて卵・乳・小麦不使用でお作りしておりまして、パンやピザ、スープやおやつなど、日々の食卓に並べていただけるお料理を100種類ご用意しています。毎日のお弁当づくりで使いやすいおかずを取り揃えた「給食代替商品」、ちょっとしたお出かけにも便利な「マトイルのお弁当」などがあります。

マトイルのお弁当

―weeeat!編集部
自分のアレルギーや「食べたい」に合わせた選択ができるんですね!

「n=1」に応える商品開発と「ひとくちトライアル」

―weeeat!編集部
さまざまなサービスを展開されていますが、これまでに苦労された点があれば教えてください。

―今村さん
そうですね。食物アレルギーは一人ひとり異なり、これまでに対応したことのないアレルギーのある子どもと出会うことも。新しいアレルゲンが増えるだけでオペレーションも変わるため、毎日新しいことに挑戦し続けなければならないという大変さはありますね。

ただ、一度新しいアレルギーに対応すると、その後に同じようなシーンがあっても対応できる幅が広がります。まさに、お客さまとの出会いによって、日々新しい料理が生まれているといった感じです。そういった意味では、楽しさも感じています。

matoilは「食べたいものを教えて」から始まるコミュニケーションにより、「n=1」に応える商品開発にこだわっています。

―weeeat!編集部
どんなアレルギーを抱えていても、安心して食べられるサービスですね! 小さい子どもの場合、アレルギーに対応していても好き嫌いで「食べたくない」ということもありそうですね。

―今村さん
そうですね。食べられるには食べられるけど、ちょっと嫌いみたいな……。ただ、ヒアリングする際はお子さまのアレルギーだけでなく、ご家族の好き嫌いも聞いた上でメニューをご提案しています。オープンファクトリーで周りの子どもが美味しそうに食べているのを見て、新しい食材に挑戦しているお子さまも見られます。

―weeeat!編集部
親御さんに好き嫌いがあると、そもそも食卓に並ばなくなったりしますが、そういった場所で他の人が食べているのを見ると美味しそうに見えたりすることってありますよね。

―今村さん
ヒアリングの際に、初めて親御さんがお子さまの好き嫌いに気づくケースもあります。いつも食べているのに実は嫌いだった、食べたことがないと思っていたけど実は食べたことがあった……など。食べられるものに制限のあるアレルギーっ子は食が偏ってしまったり、新しい食への関心がなくなってしまったりすることもあります。

matoilは、ただ安全なものを食べてもらうだけでなく、食べたことのない食材や料理もどんどん提案することで、食の幅を広げていただくことを大切にしています。

―weeeat!編集部
親御さんとしては、食べさせたことがないから不安でも、「ひとくちトライアル」を利用することで、これなら食べられそう、やっぱり苦手だったというように確認できるので安心ですね。

ひとくちトライアル

企業のサポートを通じてお客さまの行動範囲を広げたい

―weeeat!編集部
matoilはオンラインショップも展開されていますが、人気の商品などがあれば教えてください。

―谷さん
ピッツァは人気ですね。matoilのピッツァ生地は、一つひとつ手で伸ばしてお作りしています。なかでも「ピッツァ・サルサポモドーロ」は28品目不使用なので、卵・乳・小麦に加えて大豆アレルギーがあるお子さんでも安心して食べていただけます。他にも卵・乳・小麦不使用の「ピッツァ・マルゲリータ」、スイーツですと「米粉と野菜のカラフルミニドーナツ」も人気です。

matoilのピッツァ

―weeeat!編集部
美味しそうな商品ばかりですね。ドーナツ食べてみたいです!
では最後に、matoilのこれまでの取り組みを通して、今後の展望を教えてください。

―谷さん
ありがとうございます。matoilは現在、事業化を目指して活動しています。

日々の食事の中で、食物アレルギーのある方が不安や負担、不便を感じるシーンをなくしていきたいという想いで、「anniversary meal kit」からmatoilをスタートさせました。現在はオンラインショップを通じて日々の食事を購入いただいているお客さまもいますし、お誕生日や七五三といったハレの日、母の日や父の日のサプライズ、旅行先や修学旅行先での食事に利用いただいているお客さまもいます。

今後もさまざまな食にまつわるシーンで、食物アレルギーがあっても大丈夫!と思える場面を増やしていくことで、困ったことがあったら、まずmatoilに相談しようと思ってもらえるような存在を目指しています。

―weeeat!編集部
誰もが、食べたいものをみんなと同じ場所・同じタイミングで食べられる場を作るというのはとても大変なことですが、素敵な取り組みですね。

―谷さん
ありがとうございます。先日、アジア最大級の食品・飲料展示会「FOODEX JAPAN 2024」に出展したこともあり、事業者様からお問い合わせをいただく機会が増えています。お客さまのアレルギー対応に悩んでいる飲食店様やホテル様も多く、その意味では食物アレルギー対応商品の提供はもちろん、連携方法やサービス面でのサポートなど、matoilがサポートすることで事業者様もアレルギー対応をしやすくなりますし、結果的にお客さまの行動範囲も広がります。今後は事業者様からのご相談にもお応えしていきたいと考えています。

matoil

店舗情報・商品入手先

店舗名 matoil(マトイル)
住所 〒156-0057 世田谷区上北沢4-15-12
営業時間 ※レストランは完全ご予約制です。

matoilの商品は公式通販サイトで購入できます。
オンラインショップ:https://online.matoil.jp
Instagram:https://www.instagram.com/matoil_insta/

weeeat!編集部
weeeat!編集部は、私たちの大切な「食」を中心に、人と地球にやさしい情報を発信していきます。 “地球にやさしい取り組み”を共感・実践する仲間とともに、サステナブルな社会と文化を目指します。

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