自由が丘の「T'sレストラン」が世界を幸せにする理由【前編】|人気ヴィーガンレストランが誕生するまでの不思議なストーリー
お肉や魚介類、卵・乳製品などを一切使用せずに、新鮮な野菜と大豆ミート、豆乳といった植物性の食材だけで、美味しさにこだわった料理を提供する、東京・自由が丘の人気店「T’s(ティーズ)レストラン」。食の嗜好や制限に関係なくみんなが同じテーブルを囲んで「美味しいね」と笑い合えるスマイルベジを世界に発信しています。
オーナーの下川祠左都さんが「食を通して健康の大切さを伝えたい」という想いからスタートしたこのお店は、海外からも注目されるレストランに成長。監修した「VEGAN NOODLES(ヴィーガン ヌードル)」がANA国際線プレミアムエコノミーの機内食として採用されたことや、JR東日本の駅ナカに展開する「T’sたんたん」も話題です。
前編の今回は、下川さんに「T’sレストラン」誕生の経緯を伺いながら、健康と美味しさへの想いについてお話を伺いました。
友人の病気からヴィーガン生活と出会う
―weeeat!編集部
下川さんは「T’sレストラン」を始める前は専業主婦だったと聞きました。もともとヴィーガンの食事を家庭で取り入れたところから始めたそうですが、ヴィーガン生活を始められたきっかけについて教えてください。
―下川さん
私はもともとお肉もお魚も大好きな人間。お寿司だったら大トロ、お肉ならサーロインステーキの脂身が大好きで、家族が残したものをもらって食べるほど(笑)。生クリームやチーズなどの乳製品も大好物で食べていましたし、今とは真逆の生活をしていました。
そんな私の転機となったのは、友人の病気です。退院する際に、お医者さんから動物性の食材を控えるようアドバイスされたそうです。その話を聞いた時に、病気になってから食生活を変えるのではなく、日常から意識すること、予防の大切さに気づきました。
そこで、朝食と昼食は自由に食べることにして、夕食だけでも動物性食材を使わない料理に挑戦してみることにしたんです。
―weeeat!編集部
まずはできることから始めたわけですね。ご家族の反応はいかがでしたか?
―下川さん
思いつくままに作ってみたのですが、毎日同じようなものが食卓に並んだり、色もキレイでなかったり。それまで使っていた、かつおだしやチキンエキスも使えないので、味気ない料理になってしまいました。家族からも「物足りない」と言われていましたね。
―weeeat!編集部
もともと使っていた、料理のキーとなるものが使えなくなると難しいですよね。
―下川さん
そうですね。でもめげずに挑戦しました。
ある時高野豆腐をフードプロセッサーに入れて、ひき肉のようにして作ったミートソースパスタを食卓に並べてみたところ、家族は「今日はお肉入っているの?」と驚きの反応を見せながら喜んで食べてくれたんです。家族が驚いたり喜んだりする様子を見るのは私自身も楽しくて。他にも輪切りにしたエリンギをホタテのように見立てて、ペペロンチーノも作りました。
ヴィーガンメニューを出すお店が少なかった
そして、このような食生活を送るようになってから、体の調子が良くなりました。朝起きた時の体がスッキリと軽いんです。それからは、外食する際もサラダや豆腐、煮物といった野菜のメニューを選ぶようになりました。ただ、今度は外食できるお店やメニューが少ないという壁にぶつかって。「グラタンやハンバーグ、カレーとか、何でも頼めるお店があったらいいのに……」と考えるようになりました。
―weeeat!編集部
植物性中心の食生活が体に合っていたんですね。当時はヴィーガン・ベジタリアン向けのレストランやメニューは少なかったですもんね。
―下川さん
そうです。その頃、私はちょうど子育てを終えたタイミングだったので、これから何を人生のライフワークにして生きていこうかと考えていました。
何をするのも、目的をしっかり考えることが大切!私のライフワークの目的は何だろう……と思う中、「そうだ!食を通して健康の大切さを伝えていこう」という考えにたどり着きました。
2009年の5月22日のことです。
―weeeat!編集部
2009年といえば、まさに「T’sレストラン」をオープンした年ですよね。この時点では、レストランの開業を考えていなかったのでしょうか?
―下川さん
考えていませんでしたね。むしろ、「レストランをやるなんて大変そう。私にできるわけがない」と思っていました。ライフワークといっても、趣味の延長のような軽い感じで「創作料理をまとめたレシピ本を作れたらいいな」と考えていた程度です。
夢物語が現実に!“運命的な5日間”
―weeeat!編集部
そこから「T’sレストラン」の開業までにどんな経緯があったんですか?
―下川さん
私たちは、レストラン誕生に至るまでのストーリーを「T’sストーリー」と呼んでいます。
物語は2009年5月25日から始まります。レシピ本のことが頭にあった私は、いつか料理の写真が必要になると考えていたので、その1週間前に知り合ったばかりのカメラマンの方に、「料理の写真って撮ったりしますか?」と聞いたんです。すると、素敵なお皿に乗ったフルーツの写真を見せていただきました。思わず「素敵なお皿ですね!」と伝えたところ、そのお皿を作ったデザイナーの方をご紹介いただくことになったのが5月25日。
そのカメラマンの方とデザイナーの方とお会いして「食を通して健康の大切さを伝えていきたいこと」を目的に、「今後はレシピ本を作っていきたいこと」を話したり、夢のような会話を楽しんでいる際に、私がお世話になっているトールペイントの先生の作品が載っている本を見せたんです。そこには世界各地のスプーンが載っていました。そのスプーンを見た2人は、「山小屋風のレストランを作って、スプーンを飾って、そこにみんなが気軽に集まって……」とイメージし始めたのです。まだ会って間もないのにすっかり打ち解けて、夢物語について語り合う、とても心地よくワクワクするような数時間でした。

―weeeat!編集部
素敵な時間ですね。聞いている私もワクワクします!
―下川さん
翌日、自由が丘駅周辺を歩いていると、完成間近の8階建てのビルが目に入りました。「このビルにはどんなお店が入るのかな」とふと気になったのです。普段なら気になるだけで終わるのですが、前日に夢が膨らんでいたこともあって、そこに書かれていた電話番号に電話をかけて、どんなお店が入るのかを聞いてみました。
すると、「お店の関係者の方ですか? どのようなお店をなさる予定ですか?」と逆に質問が。何も考えずに「菜食系のナチュラルレストランです」と答えたところ、1区画だけ空いていて、「2時間後に見に来てください!」と。私としては、ただお店の情報を知りたかっただけなのに、信じられないような展開に驚きながらもワクワクした気持ちになりました。

―weeeat!編集部
え! 展開が早過ぎです!
―下川さん
その話をデザイナーの方に伝えてみたんです。そうしたら、こちらからお願いしたわけではないのに、すでに内装・設計を担当する方に連絡を取っていただいていたんですよ! そして、2日後の5月28日にはデザイナーの方、営業担当の方、設計担当の方と現地を見学。翌日の5月29日にはオーナー企業の方とお会いしてComing Soonという形を提案されました。
「今が一番大事」と考えているからこそ
―weeeat!編集部
カメラマンの方とデザイナーの方とお話をしてから、わずか5日間のことですよね! すごいスピード感です。
―下川さん
今考えてもあり得ない話だと思います。普通なら、まずレシピを考えたり、エリアの調査をしたり、気になる物件を見に行ったり。物件を見に行っても、どこかに問題があってダメになることが多いものです。
内装や設計に関しても、普通なら複数の会社から見積もりを取り寄せるでしょ? でも、「今が一番大事」と考えているからこそ、このチャンスを逃したくないという想いで行動して、プラスを選びながら決めていきました。
そして6月にはデザイナーと設計の方の海外でのリサーチを経て、ショップデザインが決定。6月25日にはロゴマークが決定。工事を経て8月25日に引き渡しを行い、9月25日にオープンすることができました。
―weeeat!編集部
あれ? 不思議なことに重要な出来事はすべて25日にありますね!
―下川さん
そうなんです! 25日に合わせたわけではありませんが、25という数字に不思議な縁を感じています。なので、2025年も思いがけないことがあるのかなと楽しみにしているんです。
―weeeat!編集部
私も楽しみです! 今回はお店のオープンまでのストーリーをお伺いしました。途中からは展開が早過ぎて、まるでドラマを観ているようでワクワクしました。