老舗蕎麦店と不二製油が挑んだ“鰹節を使わない”江戸前の味|GOODNOONの「おいしい」未来【後編】
創業以来、植物性素材を中心に研究開発を続ける不二製油株式会社(以下不二製油)が展開するブランド「GOODNOON(グッドヌーン)」。今回は、そのラインナップの1つである「やさしいつゆ」をご紹介します。
不二製油とグループ会社のフジフレッシュフーズ株式会社(以下フジフレッシュフーズ)、老舗蕎麦屋・総本家 更科堀井(以下更科堀井)の3社が共同開発した「やさしいつゆ」は鰹節を使わずに本格的な江戸前の味わいを再現。食の課題に応える新しい食の選択肢として期待されています。
商品開発に携わった更科堀井・堀井さん、不二製油・齋藤さん、フジフレッシュフーズ・森川さん、にインタビューし、商品開発の背景やこだわり、今後の展望についてお話を伺いました。
「満足感」を生み出すカギは油脂とたんぱくにあり
―weeeat!編集部
本日はよろしくお願いいたします。まずは、不二製油の事業についてご紹介いただけますか。
―齋藤さん
当社は1950年以降、植物性油脂と植物性たん白の研究を続けてきた素材メーカーです。食品メーカーなどBtoBのお客様がメインのため、一般の方には馴染みが薄いかもしれませんが、食品業界の黒子として業界を支えてきました。
我々はグループのビジョンとして「植物性素材でおいしさと健康を追求し、サステナブルな食の未来を共創します。」と掲げており、これまで驚きのある美味しいプラントベースフードの開発に注力してきました。「プラントベース」というと、「美味しいけど、何かもの足りない」と感じたことのある人も多いと思います。それもそのはず、実際に「満足感」がある動物性の食品のほとんどに、油脂とたんぱくが含まれています。
この植物性食品のもの足りなさを克服し、動物性食品に特有の「満足感」を作り出すために生まれた技術が、当社の「MIRACORE®」です。この技術を使った植物性だしが「MIRA-Dashi®」シリーズで、清湯やブイヨンに使える「チキンタイプ」、フォンに使える「ビーフタイプ」、また「カツオタイプ」や「白湯タイプ」を展開しています。
―weeeat!編集部
日本ではお肉や魚などのだしをふんだんに使う料理が多いので、ヴィーガンやベジタリアンの方でも安心して日本食を楽しむことができますね。「やさしいつゆ」は、更科堀井と共同で開発されたそうですが、どのような経緯があったのでしょうか。
―齋藤さん
おっしゃる通り、「MIRA-Dashi®」は洋食・和食・中華などあらゆる料理の味づくりの土台としてお使いいただけます。植物性なので、お店の味をそのままに様々なメニューへの展開が可能です。
この「MIRA-Dashi®」をより多くの方に広めていくために、ある大学の先生に相談したところ、堀井さんをはじめ様々な方をご紹介いただきました。そんなご縁から2023年3月に開催された全日本・食サミットでは堀井さんに「MIRACORE®」を使ったメニューの開発をお願いしました。2023年10月からは更科堀井で「カツオタイプ」を活用したメニューを月替わりで提供いただいています。そこからずっと一緒に取り組ませていただき、今回の商品開発につながりました。
鰹だしには醤油を「手なづける」役割がある
―weeeat!編集部
更科堀井でMIRA-Dashi®の「カツオタイプ」を導入してから、「やさしいつゆ」の開発につながったということですね。
―堀井さん
更科堀井は1789年に創業し、東京都港区元麻布に本店を構える手打ち蕎麦の老舗です。土地柄インバウンドのお客様も多いですし、過去にアメリカやイタリアで蕎麦を打ったこともあるため、海外の方から目を向けていただく機会も増えています。海外のお客様から「ヴィーガンのだしはないのか」「グルテンフリーの蕎麦はないのか」とお問い合わせいただくことも多かったので、10年ほど前に一度ヴィーガン蕎麦を試作したことがあるんです。
―weeeat!編集部
10年前というと、まだヴィーガンやプラントベースフードが注目される前ですね。
―堀井さん
はい。当時は野菜を使った「ベジブロス」で蕎麦つゆを作ってみたのですが、醤油の味に負けて味のバランスをとるのが難しく実現しませんでした。というのも、野菜だしにはうま味を感じさせる成分「イノシン酸」が含まれていないため、どうしても頼りない味になってしまうのです。
江戸前の蕎麦つゆは、蕎麦に絡ませて食べる「せいろ」を前提にしているため、かなり濃いつゆでなければいけません。つゆは、グルタミン酸が豊富に含まれる濃口醤油と、イノシン酸が含まれる鰹節を煮詰めて作ります。鰹だしには醤油を「手なづける」という重要な役割があり、鰹のうま味と相まって初めて美味しい蕎麦つゆができるのです。
―weeeat!編集部
MIRA-Dashi®の「カツオタイプ」を初めて使った感想はいかがでしたか?
―堀井さん
その「濃さ」に驚きました。まるで、1時間煮詰めた鰹だしと同じ濃度とうま味。これなら江戸前の味をヴィーガンで再現できると。それからMIRA-Dashi®を使ったメニュー開発に取り組む中で、新たに万能つゆのような商品を開発できないかと不二製油に提案し、「やさしいつゆ」の開発に至りました。
和食の核となる鰹だしを未来につなぐために
―weeeat!編集部
江戸前の味を「MIRA-Dashi®」で実現したわけですね! 「やさしいつゆ」のホームページを見ると、「鰹節の生産量が年々減少している中で、鰹だしが決め手の江戸前の味を未来につなぎたい」というメッセージが掲載されていましたが、このような想いから商品開発されたんですね。
―森川さん
そうですね。地球温暖化は、海面上昇や海洋資源の枯渇など海の環境を脅かす深刻な問題を引き起こしています。その一方で世界の人口は増加しており、食料供給に対するプレッシャーは年々高まっています。人が生きていくためにはたんぱく質を摂らないといけません。
そのため、食料が不足すれば鰹そのものを食べるのが普通の発想です。そうなると、加工品である鰹節は後回しになってしまい、文化そのものが消滅してしまうのではないかという危機感は常に感じています。
―堀井さん
和食に鰹は欠かせない存在ですからね。和食のうま味成分というのはイノシン酸とグルタミン酸の相乗効果によって成り立つもの。その最たる食材が鰹です。鰹が獲れなくなると、和食の文化が途絶えてしまうかもしれません。
蕎麦屋でも蕎麦つゆを作るのに大量の鰹節を使用するため、鰹が獲れなくなった時の影響は計り知れないです。その意味では不二製油の「MIRA-Dashi®」や、この「やさしいつゆ」があれば、和食も生き残っていけるのではないかと期待しています。
―齋藤さん
ありがとうございます。豚骨の場合、「だし」というのは、メインの食材というよりも残った部分を炊き出すことが多いですよね。でも、鰹の場合は身も使ってだしを取るので、食材としての使い方とのすみ分けが必要になります。
鰹を使わなくても植物性の食材、例えば昆布とキノコでもだしはとれると思う方もいるかもしれませんが、動物性食品に特有の満足感が得られません。動物性の特徴でもある「油脂とたんぱくが満足感のカギになる」という考え方が商品開発においてポイントになりました。
「味がしつこくない」と選ばれるお客様も
―weeeat!編集部
今回の商品のターゲットについてお伺いできればと思います。
やはりインバウンドのお客様がメインのターゲットですか?
―堀井さん
ターゲットは、外国の方だけではないと考えています。というのも、「MIRA-Dashi®」を使ったメニューを提供していると、それを楽しみにご来店される日本のお客様も多いからです。健康に気をつけている方、動物性食材を使わない料理を求めている方……いろんな方に楽しんでいただける可能性を秘めていると思います。
―森川さん
欧米諸国と比べて、日本はそれほどヴィーガンが浸透していませんが、ヴィーガンの方向けの商品を扱った専用サイトなども登場しており、環境に配慮した食品を選びたいという方は確実に増えてきているのではないかと思っています。
―堀井さん
もちろん、環境に配慮している方にも使っていただきたいのですが、お客様のなかには「味がしつこくない」「なんか軽くて良い」と言ってくれる方もいます。「あのだしで作った盛り蕎麦がクセになる」と、リピートしてくださる方もいるので、こちらが想定していないターゲットの方にもご満足いただけるのではないかと考えています。例えば、「やさしいつゆ」を使うようになってから体が軽くなった、カツオは好物だと思っていたけど実は体に合わなかったなど、商品をきっかけに、何かの「気づき」を与えられたら嬉しいですね。
人間の「感覚」から逆算して味を近づける
―weeeat!編集部
誰にとってもおいしいつゆであれば、どんな食スタイルをお持ちの方でも一緒に食卓を囲むことができますね!
商品開発する上で、こだわった点について教えてください。
―齋藤さん
動物性食品に特有の満足感を作り出すためのアプローチとして、「人の感覚」に寄り添っていることが特徴です。商品開発においては、例えば鰹のだしを様々な角度から分析し、含まれる成分を分解して組み立てていくというアプローチが一般的ですが、そのアプローチでは鰹節の香りなどを再現するのは難しいです。
当社では、「人間が鰹をどのように捉えているか」というところからアプローチします。磯の香り、燻製の香り、土の香り……味と香りをもとに素材を集めています。そういった風味に加えて、油脂とたんぱくの技術をはめ込んでいくというのが技術の骨格です。
「MIRA-Dashi®」の原材料を見ていただくと、鰹のだしとは全く違う要素が並んでいるのですが、味わってみると不思議と鰹のだしと同じように感じます。これが、魚を使っているような本格的な味わいを実現するための工夫です。
―weeeat!編集部
人間の「感覚」から逆算して近づけるというアプローチを取っているわけですね。堀井さんはいかがでしょうか?
―堀井さん
私は、「江戸前の味」にこだわりました。蕎麦屋では「かえし」と呼ばれる蕎麦つゆのベースを作ります。かえしは江戸時代に考案された万能調味料とも言われ、だしで割ることで、蕎麦つゆはもちろん、様々な料理に使うことができます。作りたい料理に合わせて割り方を変えることで、おでんのつゆ、天つゆ、照り焼きのタレにもなります。ご家庭でも「やさしいつゆ」を使って、本格的な江戸前の味を楽しんでほしいと思います。
和食に幅広く使える江戸前つゆの素
―weeeat!編集部
例えば、ご家庭ではどのようなメニューがおすすめですか?
―堀井さん
そうですね。例えばつゆ1:水3で冷たいそばのつけつゆに、つゆ1:水5を煮汁に使うとジューシーな肉じゃがに、つゆ1:水5をベースにカレー粉を加えるとカレーになります。大豆ハンバーグを使った和風ハンバーグのタレに活用するのもおすすめです。
―weeeat!編集部
どれも美味しそうです……更科堀井では「MIRA-Dashi®」を活用した鰹を使わないヴィーガン蕎麦を月替わりで提供されているとのことですが、現在はどのようなメニューを展開されているのでしょうか?
―堀井さん
1~2月は「とろろそば」と「担々麺」を提供しました。ほかにも大豆ミートを使った「ねぎNIKUせいろ」なども提供していました。
―weeeat!編集部
お蕎麦屋さんで「担々麺」とは驚きです! メジャーな料理でヴィーガン蕎麦を提供する意図としては、やはり、ヴィーガン以外の方にも食べてもらいたいというような想いもあったりするのでしょうか?
―堀井さん
それもありますが、新しいことにチャレンジするという当店の企業理念があるので、いろんなメニューにチャレンジしています。レシピの数は30種類を超えましたね。
「やさしいつゆ」のおいしさをもっと多くの人へ届けたい
―weeeat!編集部
最後に今後の展望についてお聞かせください。
―齋藤さん
「魚を使っていないのに、本格的な江戸前の味を再現する」ことを目指して、商品開発に携わりました。蕎麦屋と素材屋の技術の結晶とも言える「やさしいつゆ」を発売したからには、多くの方に認知していただき、味わっていただくことが大事だと考えています。
「ヴィーガン」というと、ヴィーガンの方は手に取られても、一般の方々からすればなかなか手を出しにくいもの。まずは食べていただく機会を様々な形で増やしていければと考えています。一度食べていただければ、ヴィーガンやベジタリアンに関係なく、その美味しさを実感いただけると思います。
―森川さん
2024年11月に「やさしいつゆ」をリリースしましたが、更科堀井さんでも「MIRA-Dashi®」を使っていただくことで、注目される機会は増えていると感じています。また、通販サイトなどに提案すると、その完成度の高さに驚かれます。まずは通販サイトを中心により多くの方にご購入いただき、堀井さんと一緒に、別の味の「やさしいつゆ」を開発できたらと考えています。
―堀井さん
2025年は、再開発が進む虎ノ門のオフィスビルに新店舗をオープンする予定です。メニュー構成については検討が必要ですが、例えば、脂質や糖質を抑えた「眠くならないランチ」など、オフィスビルで働くビジネスマンの味方になるような食事を提供することで、新しい更科堀井にチャレンジしたいと考えています。
その中核を担うのが、ある意味では「MIRACORE®」だったり、プラントベースの食材だったり。不二製油と一緒に、食べる人の食生活に良い影響を与えるような商品開発に挑戦できたら嬉しいです。
プロフィール
堀井 良教(写真中央)
1789年創業の更科そば 9代目社長。大学卒業後、1941年に一度廃業していた総本家 更科堀井を、父親と共に麻布十番の地に復活させる。苦労しながらも昔の味を再現、ふたたび蕎麦の名店へと押し上げる。日本を代表する蕎麦職人として世界でも活躍。生産者との協働や和食のエッセンスの普及を通じ、食の世界の発展に尽力している。令和6年度「現代の名工」(卓越した技能者の表彰)に選ばれる。
齋藤 努(写真右)
1995年不二製油株式会社に入社、中央研究所で大学時代から研究していた大豆たん白を対象に新素材開発に従事。2015年不二製油グループ本社株式会社未来創造研究所の新素材創出グループでグループリーダーを務め、「おいしさ」に関する研究の基盤づくりを主導。研究過程で得られた複数の要素技術がMIRACORE®の母体となった。
2021年技術ブランドとしてMIRACORE®を立ち上げ。2023年、MIRACORE®を活用した新規ビジネスの立ち上げのために発足した風味基材事業開発部で部長を務める。
2024年同 風味基材事業部 部長(現在)。代替食品を超える新たな価値の社会実装を目指し、事業展開に取り組む。
森川 誠司(写真左)
1991年不二製油株式会社に入社。大豆たん白素材開発から始まり、応用開発、蛋白食品小売り開発に従事。2004年からフジフレッシュフーズ株式会社に出向し開発を担当。2015年不二製油株式会社 大豆食品開発室室長。大豆たん白の素材や応用開発、加工食品、小売り向け製品開発と、川上から川下まで関わった。2021年より現職。
店舗・企業情報
店舗名 総本家 更科堀井(麻布十番本店)
本社住所 〒106-0046 東京都港区元麻布3-11-4
電話番号 03-3403-3401
営業時間 平日 11:30〜15:30 17:00〜20:30 土日祝 11:00〜20:30
企業名 不二製油株式会社
本社住所 〒598-8540 大阪府泉佐野市住吉町1番地
「やさしいつゆ」は下記通販サイトで購入できます。
通販サイト:https://soyafarm.com/shop/products/1024-1
Intagram:https://www.instagram.com/fuji_fureko_fff/