旭川から世界へ。家具メーカーが開発した北海道の森の香り漂う燻製コーヒー
家具をつくる過程で出てしまう端材が、香り高いコーヒーへと姿を変える——。
北海道・旭川の木製家具メーカー:カンディハウスが手がける「北海道燻製珈琲」は、6種のウッドチップで燻製することで木の個性が香りに生かされた、独特の風味を楽しむことができるコーヒー。「家具」と「食」という一見かけ離れた世界をつなぐこの試みは、資源を有効活用するサステナブルな取り組みとして注目されています。
ほかにも燻製干し芋やテーブルスモーカー、アートと融合した「初音ミク アートチェア」など、家具メーカーという枠を超えて挑戦を続けるカンディハウスの井島さん(新規事業開発本部長)とノエルさん(国際事業本部)に、同社の燻製事業や今後の展望についてお話を伺いました。
北海道の木の価値を高め、世界へ届けたい
―weeeat!編集部
本日はよろしくお願いいたします。まずはカンディハウスについてご紹介いただけますか?
私は家具メーカーとしてカンディハウスのことは知っていたのですが、今回まったく分野の違うコーヒーの企画販売を始められたことに驚いていています!

―ノエルさん
よろしくお願いいたします。
カンディハウスは1968年、家具職人でありデザイナーでもあった長原 實(ながはら みのる)によって創業されました。15歳で家具職人の道に入った長原は、1963年に渡欧し、当時デザイン大国と呼ばれたドイツでおよそ3年半にわたり修行を積みました。その際、オランダの港で北海道産の丸太が積み上げられ、それが高級家具に加工され世界中に輸出されている姿を目の当たりにしたことが大きな転機になったといいます。地元材を活用し、デザインにこだわった家具で世界に発信したい。そんな想いから帰国後にインテリアセンター(現カンディハウス)を設立し、国内外のデザイナーと妥協のない製品づくりを重ねてきました。そうして現在も北海道の自然と日本の文化に育まれた美意識をデザインに生かし、長く愛される家具をつくり続けています。
―weeeat!編集部
カンディハウスの創業当初から今に至るまでの歩みについても教えてください。
―ノエルさん
最初は社員わずか12人の小さな工房からスタートしましたが、時代の先駆けとなるデザイン性の高い脚物家具製造により、今では300人近い規模にまで成長し、ホームユースといわれる家庭用家具からオフィスや公共施設などの家具も総合的に手掛け、国内7店舗、世界28カ国地域に発信しています。地元材の活用を目指し家具づくりを始めた当社ですが、一方で家具に使えるような太い広葉樹は減り、長い間輸入木材に頼ったものづくりを行っていました。転機となったのは2014年に旭川家具工業協同組合全体で始まった、地元材を活用する取り組み「ここの木の家具・北海道プロジェクト」です。地元の林業や製材業とも強く連携し、当社の道産材使用率は当時の8%から、10年で約80%にまで高まりました。2024年からはさらに地元材の活用を推進するために、使用樹種にニレ、セン、サクラを加えた6種類を採用しています。これは輸送に伴うCO₂削減効果もあり、北海道の森林資源を循環させる仕組みづくりにもつながっています。
―weeeat!編集部
ドイツでの経験が、長原さんにとって大きな転機になり、現在のカンディハウスの発展にもつながっているんですね!

―井島さん
当時のことを正確に語れる人は少ないのですが、私はこう考えています。
北海道には資源が豊富にあるのに、そのまま原料として外に出してしまえば、利益や付加価値は他の地域に移ってしまう。資源を持っているだけでは地域は豊かにならない。だからこそ「自分たちの手で付加価値を生み出し、それを世界へ届けることで、地域を豊かにしたい」という思いを抱いたのではないかと。その精神は今も受け継がれていますし、私自身も「北海道のために頑張る」という気持ちを強く持ち続けています。
6種のウッドチップで森の香りを味わう「北海道燻製珈琲」
―weeeat!編集部
その想いが「北海道燻製珈琲」の開発にも繋がっていくのですね。
実際に飲ませていただきましたが、木の種類によって味と香りがこんなに違うんだと驚きました。改めて、燻製珈琲とはどんな商品なのか教えていただけますか?

―ノエルさん
ありがとうございます。「北海道燻製珈琲」は、家具づくりの過程で出る端材をウッドチップにして、焙煎後の豆をじっくり燻製したコーヒーで、札幌のカフェ「COFFEE PICTURES」と共同開発しました。北海道産のナラ、サクラ、タモ、カバ、ニレ、センという6種類の木材を使い、それぞれの個性が香りとして立ち上がります。サクラは香り高く飲みやすい、センはチョコレートのように濃厚で深みがある、といった具合に、樹種ごとに表情が変わるのが魅力です。まさに“北海道の森を味わうコーヒー”だと思っています。

―weeeat!編集部
コーヒーを飲んでいる時に「何の家具からできた端材なんだろう?」と想像していました。
私はセン材が印象的だったのですが、ノエルさんはどの木が一番おすすめですか?
―ノエルさん
私はナラですね。燻製らしい香ばしさとコーヒーの苦味が調和して、しっかりとした飲みごたえがあります。コーヒーが苦手な人でも飲みやすいバランスですし、実際にお客様からも人気があります!
―weeeat!編集部
私たちは今回ブラックでいただいたのですが、おすすめの飲み方はありますか?
―ノエルさん
もちろんブラックで香りをダイレクトに味わっていただくのもいいのですが、牛乳を入れてカフェオレにすると木の個性がより引き立つんです。コーヒーインフルエンサーの方からも「カフェオレにすると違う魅力が出てくる」と評価をいただきました。
お好みに合わせて飲み方を変えることで、長く楽しんでいただけると思います。
―weeeat!編集部
贈り物やお土産としても喜ばれそうですね!

―井島さん
そうですね。北海道には壺屋総本店(旭川)さんという百年以上続くお菓子屋さんがつくっている「き花」というお菓子があります。私自身も子どもの頃からよく食べていて、ちょっとお客様が来たときや、今日はいいことがあったから、というような場面で食べる“ちょっとしたおもてなしのお菓子”でした。最初からお土産用に作られたわけではありませんが、今では旭川を代表するお土産のひとつとして知られるようになっています。
私が言いたいのは、こうした「なぜその商品を贈りたいのか」というストーリーが、お土産や贈り物においてはとても重要だということです。「北海道燻製珈琲」も同じで、家具にはならなかった端材が最後に活躍する物語を添えてお届けできることに、大きな意味があると考えています。
―weeeat!編集部
素敵なストーリーですね!「北海道燻製珈琲」はどこで購入できるのでしょうか?
―ノエルさん
現在はカンディハウスの旭川ショップ、札幌のCOFFEE PICTURES、旭川デザインセンター、星野リゾートOMO7旭川、壺屋「き花の杜」(旭川)、昭和木材のショールーム(東京・名古屋・旭川)でご購入いただけます。
また、最近では松屋銀座でのノベルティやロンドンでのイベントにも展開されました。
旭川で生まれた商品が世界に広がっていくことは、社員にとっても大きな誇りであり、家具端材の新しい価値を実感できる瞬間だと感じています。
端材を「余り材」ではなく価値ある「資源」として捉える
―weeeat!編集部
そもそもカンディハウスは家具メーカーなのに、なぜコーヒーに挑戦しようと思われたのですか? 苦労も多かったと思うのですが……。
―井島さん
端材の活用は、当社では長年課題としており、繋げて使ったり、小物づくりに活用するなど工夫をこらしていました。ただその使い方では限界があり、もっと別の発想で考える必要生を感じていました。一方で私は10年以上海外営業に携わってきましたが、知名度の低いカンディハウスに少しでも興味を持ってもらえるような、何かフックとなるものを開発したいと思っていました。そんなとき、工場の木くずを見てウッドチップとしての活用、すなわち燻製事業を思いつき、最初は北海道ならではのチーズの燻製なども考えたのですが、輸入規制が厳しく難しい……。そこで「乾き物ならいける」と思った際に、燻製珈琲というというアイデアが浮かびました。
最初は私自身で端材を削ったり、ウッドチッパーで端材を粉砕したりと、試作を重ねるところからスタートしました。正直、社内では「家具メーカーなのにコーヒー?」と戸惑う声もあったのですが、少しずつ協力してくれる社員や職人の仲間が増えて、応援してもらえるようになったんです。

―ノエルさん
燻製コーヒーというのは日本でもほとんど見かけないもので、コンセプトを説明するのも大変でしたし、ウッドチップの大きさによってはすぐ燃え尽きてしまうこともあり、実際にコーヒー豆を燻製するための微調整には、かなり苦労しました。
―weeeat!編集部
自然に感謝し、木材の一本一本を最後まで生かすという発想が、まさにサスティナブルな取り組みで、家具メーカーであるカンディハウスらしい挑戦ですね!
―井島さん
私たちは端材を「余り材」としてではなく、価値ある「資源」として活用していきたいと考えています。燻製珈琲は、家具にはならなかった端材が最後にもう一度役割を持ち、暮らしの中で新しい形で生かされる商品です。
家具と食という異なる分野をつなぐことで、木の命を最後まで活かす取り組みを推進していきたいと思っています。
▶「北海道燻製珈琲」の詳細はこちら
干し芋からスモーカーまで、端材が生み出す多様な循環

―weeeat!編集部
「北海道燻製珈琲」に続いて、ほかの取り組みも進めていらっしゃるそうですね。
―井島さん
はい。例えば「燻製干し芋」です。旭川では近年サツマイモの栽培が盛んになっていて、地元のスタートアップと一緒に商品化しました。私たちは端材をチップとして提供し、農家さんや若い企業と協力しながらマルシェやイベントで販売しています。
市場との接点をつくるという意味でもすごく役に立ち、Win-Winの関係になっていると思います。
▶旭川圏でサツマイモ栽培に取り組む生産者と地域の人々を繋ぐ「スイート・イモベーション・プロジェクト(Instagram)」
―weeeat!編集部
燻製の干し芋!どんな味わいなのか気になります。
そしてもう一つが「テーブルスモーカー」ですね。

―井島さん
はい。最近はカクテルスモーカーと呼ばれる家庭用の燻製器が注目されています。グラスや容器の上に乗せて少量のウッドチップを炙り、発生する煙をグラス内に閉じ込めることで、ウイスキーやカクテル、コーヒー、チーズなどに天然木の香りとスモーキーな風味をプラスできるものです。
それをベースに、煙の落ち方にもこだわって何度も試作を重ねて完成させたのが「テーブルスモーカー」です。チーズやナッツなどのおつまみを燻すと、ちょっとしたお酒の時間がぐっと特別になるんです。
―weeeat!編集部
自分で燻すということが特別な体験になりますね!
アウトドアでスモークを楽しむ道具はいろいろ見かけますが、卓上でこんなにおしゃれにできるのはなかなかないですよね。おうちで気軽に楽しめるのは魅力的です。
―井島さん
日本ハムのハム・ソーセージのギフトや、北海道全域にホテルや温泉旅館を展開する鶴雅グループのお土産などにも展開する予定ですので、これから一般のお客様の目に留まる機会も増えてくると思います。
またのこちらの上蓋は、北海道のアイヌ文様をイメージしてデザインしていますが、
この部分は用途に応じてデザインの変更も可能です。
いずれ家具端材から生まれたこの小さなスモーカーが、食卓の演出や家族・友人との時間を豊かにするきっかけになればうれしいですね!
「北海道から世界へ」。原点を形にし続けるための挑戦
―weeeat!編集部
燻製事業以外にも、ユニークな取り組みをされていると伺いました。

―ノエルさん
はい。そのひとつが「初音ミク アートチェアー」です。北海道発の世界的バーチャルシンガー・初音ミクの現代アート展「ART OF MIKU」とコラボレーションしたもので、カンディハウスの大きな背もたれが特徴のラウンジチェアに、河村康輔さん、SHETAさん、廣瀬祥子さんの3名の現代アーティストが描いた初音ミクのアートをプリントし、座る人をやさしく包み込む“座るアート”として実現しました!8月に開催された『初音ミク「マジカルミライ 2025」』に初出展し、会場の企画展内「MIKU ART CHAIR」ブースでお披露目もしたんです。
▶「MIKU ART CHAIR」の詳細はこちら

―井島さん
また、北海道産材を活用した洋酒用の樽を企画製造販売する新会社「北海道バレル」を設立したのも大きな挑戦です。家具づくりで培った木材加工技術を応用し、地域の林業と連携しながら、北海道の木を洋酒文化の発展に活用していこうとしています。
▶「北海道バレル」の詳細はこちら
燻製珈琲や燻製干し芋、テーブルスモーカー、アートチェア、そして北海道バレル。これらに共通しているのは、「北海道から世界へ」という原点を形にし続けたいという思いです。端材や地域資源を余り材ではなく価値ある資源として活用し、新しい挑戦を積み重ねながら、これからも北海道の魅力を世界へ発信していきたいと考えています。
―weeeat!編集部
家具メーカーという枠に捕らわれない面白い取り組みばかりですね!
それでは最後に、今後の展望について教えてください。
―井島さん
新しい事業を立ち上げていくなかで感じるのは、社員の意識の変化です。例えば今回の「北海道燻製珈琲」やテーブルスモーカーも、何度もトライ&エラーをくり返してようやく形になりました。担当した開発メンバーからは、「これまでの仕事とはまったく違うけれど、すごく楽しかった」と言ってもらえたんです。
「家具」という枠に収まってしまうと発想が広がりにくいのですが、新規事業を通じて、家具とは違う「ものづくりの楽しさ」に出会い、社員自身が前向きに変わっていく——その姿を見られることは大きな財産だと感じています。
―ノエルさん
私自身も海外営業を担当し、今は新規事業にも携わっていますが、確かに忙しい反面、とても楽しく、多くの人や意見と出会えるのが大きな刺激になっています。こうした経験が将来にも役立つと信じていますし、会社としても新しい挑戦に積極的な社員が増えていけば、さらに事業の幅が広がり、人も自然と集まってくるのではないかと思います。
―weeeat!編集部
今日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
新規事業開発の裏側や、普段はなかなか知ることのできない工夫や熱意に触れることができ、とても刺激を受けました。今後も情報をチェックさせていただきます!