無印良品の開発担当に聞く!#3 ~隠れた人気商品「素材を生かしたアイス ジャージー牛乳」に込めた生産者への想い~
国内に597店舗、海外に654店舗、世界で合計1,251店舗(2023年8月末時点)を展開する無印良品。「これがいい」ではなく「これでいい」を目指すものづくりにはファンが多く、私たち編集部も大好きなブランドです。
無印良品の魅力に迫る企画の第三弾は「素材を生かしたアイス ジャージー牛乳」をご紹介します。放牧で育てた希少なジャージー牛乳をふんだんに使ったアイスは、知る人ぞ知る逸品として多くのファンに愛されています。今回は、無印良品のこだわりが詰まったアイスの開発秘話について、株式会社良品計画食品部の中村功二さんと日向桃子さんに話を聞きました。
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放牧酪農のジャージー牛乳との出会い
―weeeat!編集部
私たちも「素材を生かしたアイス ジャージー牛乳」をいただきましたが、ソフトクリームを食べているような味わいに感動しました! ミルクが濃厚なのに後味がさっぱりしていますよね。このアイスを作ろうと思ったきっかけについて教えてください。
―日向さん
ありがとうございます。最初は、うちの社員から栃木県・那須町にある「森林ノ牧場」を紹介されたことがきっかけです。森林ノ牧場は、国内でも珍しいジャージー種という牛を飼育しており、一般的なホルスタイン種の牛乳と比べて濃厚でコク深い味わいが特徴です。
―weeeat!編集部
以前weeeat! で紹介したお菓子も、森林ノ牧場の牛乳を使っていました。放牧酪農をされている牧場でしたね。
―日向さん
この牧場が放牧酪農に取り組んでいるのは、森を守るためなんです。日本の国土の7割は森林です。ただ、林業就業者の高齢化や、国内林業の採算悪化などにより、適切な手入れが行われずに荒れてしまう人工林も増えています。森林を守るためには、手を入れ続けなければなりません。
そこで、森林ノ牧場では牛を1年中放牧し、牛に森林の草を食べてもらうことで間伐などの作業をしやすくしました。また、牛からとれる美味しい牛乳を販売することで、その売上で森林を整備するという、森と人と牛の循環を大切にしている牧場です。
―weeeat!編集部
代表の方の想いがたくさん詰まった牧場ですね!
―日向さん
実際に2010年に森林ノ牧場が出店しているマルシェに足を運びました。ジャージー牛乳で作ったソフトクリームを食べてみたところ、あまりの美味しさに感動しました。
味はもちろんですが、「牧場でとれた牛乳やアイスクリームの美味しさを、都会の人に味わっていただくことで、牧場に足を運ぶようになってほしい」という牧場の考えに共感したことが大きかったです。
―weeeat!編集部
森林ノ牧場との出会いがきっかけとなって、アイスの開発につながっていくのですね!
―日向さん
そうです。当時私は外食分野の商品開発に携わっていたため、カフェの店舗でソフトクリームを販売することから始めました。ただ、外食だと店舗の数が限られるため、お客様に食べていただける機会も限られます。私がソフトクリームを通して味わった感動を、より多くの方に届けたい。商品化のアイディアを温めながら、冷凍食品を担当するようになって、2021年に冷凍アイスを発売しました。
規格外!生乳をたっぷり使ったリッチで濃厚な味わい
―weeeat!編集部
ジャージー牛乳の美味しさの特徴はなんですか?
―日向さん
ジャージー牛乳は乳脂肪成分やカルシウム、ビタミンなどの栄養素が高く、濃厚な風味とコクのある味わいが特徴です。また、季節によって放牧地の草の成分も変わります。春は草にカロテンが多く含まれるため、少し黄色みがかった牛乳になります。暑い夏になると、牛は水分を多くとるのでサラッとした牛乳になります。秋は草に繊維分が増えるので、濃厚感のある牛乳になります。冬はサイレージや乾草などの保存飼料を食べることで牛乳が白くなります。このように、季節ごとに牛乳の風味が変わるんです。
―weeeat!編集部
季節によって牛乳の成分や風味が変わるのは、面白い! 同じ商品でも季節ごとに楽しめますね。
―日向さん
はい。さらに「素材を生かしたアイス ジャージー牛乳」は、リッチさにこだわり、生乳をたっぷり使用しています。そのため、食べた時に濃厚な乳味が口の中に広がりますが、後味はさっぱりとした味わいに仕上がっています。
―weeeat!編集部
そうなんですね。私たちもいただきましたが、濃厚でとっても美味しかったです。
―日向さん
ありがとうございます!
生産者にとってみれば、牛乳が安定的に、かつたっぷり使われるというのはうれしいことです。私たちが森林ノ牧場でとれたジャージー牛乳を使うことで、牧場経営に貢献することができ、最終的に森林の保全につながる。そういう意味でも存在価値のある商品だと考えています。
―weeeat!編集部
商品の裏側にあるストーリーが素敵です!
―日向さん
ただ、そうは言っても商品自体が美味しくなければ、お客様のリピートにはつながりません。皆さんには、商品を通してジャージー牛乳の美味しさを実感いただければと思います。
大切なのは「無印良品で販売する意味があるか」
―weeeat!編集部
カレーの場合、インドやタイに足を運んでいましたが、アイスの場合は牧場に行くんですか?
―日向さん
もちろんです。外食担当のころは、毎年春に、店長やスタッフと一緒に牧場の手伝いに行っていました。朝早くから搾乳をしたり、子牛にお乳をやったり、牛が食べない草を刈ったり……。
ジャージー牛は個体差があって、牛ごとにキャラクターが違います。牛1頭1頭に名前がつけられているので、自然と愛着が湧きます。
スタッフの中には、牧場での仕事にハマって、森林ノ牧場に転職した人もいるんですよ。
―weeeat!編集部
転職まで! 牛の世話をしていたら愛着が湧きそうですね。
―日向さん
はい。牛乳を生産できなくなったり、お産ができなくなったりした牛は、乳牛としての役目を終えて、最終的にはお肉や革製品になります。命をつないでいきたいという生産者の想いをお客様に伝えることも、私たちの役割だと考えています。
―weeeat!編集部
みなさん、自分の目で見たもの、感じたことを起点にしていますね。また、生産者の想いや愛情、社会的な意義、無印良品で販売する理由を大切にしているような気がしました。
市場調査の結果を見ながら商品開発をしていないですよね。
―中村さん
その通りです。必要最低限の調査は行うものの、ビジネスとしてチャンスがあるから開発するという発想はありません。むしろ、生産者や産地にとってプラスに働くか、無印良品の店舗で販売する意味があるのか、何よりお客様に喜んでいただけるか。担当者の想いこそが、商品開発を進める力の源泉ですね。
―weeeat!編集部
まさに「自分マーケティング」ですね!
予想を超える売れ行きを達成
―weeeat!編集部
「素材を生かしたアイス ジャージー牛乳」発売後、どのような反響がありましたか?
―日向さん
無印良品の国内店舗は約600店舗あり、その中で冷凍食品の取り扱いがあるのは約300店舗です。売り場が限られていましたが、予想を超える売れ行きを達成し、品切れになる時期もありました。SNSで取り上げていただいたり、リピートしてくださったりするお客様が多く、とてもうれしかったです。
―weeeat!編集部
コアなファンの方だけではなく、もっと多くの人に食べてもらいたいですね。
本日お話しを聞いて思ったのは、カレーもアイスクリームも、それぞれの商品にストーリーがあり、私たちはそれを知らずに食べていたことです。本当にもったいないですよ!(笑)
―中村さん
そうなんです。言ってないんです(笑)。これからはSNS等の発信にも力を入れて、商品に込めた想いやストーリーを伝えていきたいと思っています。
―weeeat!編集部
お願いします! 本日お話しを伺って、もともと好きだった無印良品のことがもっと好きになりました。今後、どんな無印良品らしさが詰まった商品が展開されていくか楽しみです。
本日はありがとうございました。
―日向さん・中村さん
そんなうれしい誉め言葉はありません! ありがとうございました。
企業情報
企業名:株式会社良品計画
無印良品の商品は店舗または公式通販サイトにて購入できます。
公式通販サイト:https://www.muji.com/jp/ja/store
Instagram:https://www.instagram.com/muji_global/