『小雪と発酵おばあちゃん』書籍化の舞台裏。 編集者が残したかった、おばあちゃんの生き様とは?
「丁寧な暮らし」という言葉に、多くの人が憧れを抱く現代。中でも、季節の恵みを受け、時間をかけて育む「発酵食」は、その象徴かもしれません。
NHKのEテレで放送され、大きな反響を呼んでいる番組『小雪と発酵おばあちゃん』。俳優の小雪さんが日本各地を訪ね、土地に根付く発酵文化と、それを守るおばあちゃんたちの知恵に触れる旅の記録が、2025年、一冊の本になりました。
なぜ、この番組は書籍に形を変え、私たちの元に届けられたのでしょうか。そこには、一人の編集者の情熱と、不思議なご縁がありました。今回は、書籍『小雪と発酵おばあちゃん』を手がけた産業編集センターの松本さんに、制作の舞台裏を詳しくお伺いしました。
数々の偶然が繋いだ、書籍化への道のり
―weeeat!編集部
先日の『小雪と発酵おばあちゃん』の出版記念イベントは小雪さんも登壇され、大盛況でしたね。あらためて、番組が書籍化されるに至った経緯を教えてください。
▼小雪と発行おばあちゃん出版記念イベントレポートはこちら
俳優・小雪さん登壇!大人気NHK番組『小雪と発酵おばあちゃん』出版記念イベントの全貌をレポート【前編】
俳優・小雪さんに独占インタビュー!『小雪と発酵おばあちゃん』に込めた「食は人をつなぐ」想いとは?【後編】
―松本さん
番組プロデューサーの方と小雪さんが「これは後世に残すために書籍化すべきだ」と話していたのが始まりだそうです。映像も大切ですが、紙媒体は記録として長く残りますからね。
料理研究家の土井善晴さんも、「これは絶対に本にするべきだ」と強く勧めてくれました。それが後押しとなり、出版先を探されることになったと聞いています。

―weeeat!編集部
松本さんが担当されることになったのは、どのようなご縁だったのですか?
―松本さん
実は、不思議なご縁の連続だったんです。まず、産業編集センターは「旅と暮らし」をテーマにした本を多く作っています。私も、旅が大好きで、暮らしの「衣食住」の中では特に「食」に目がない食いしん坊なものですから、これまでも多くの食に関する本を作ってきました。
そんな中、以前私が担当した本の取材を通じて、番組プロデューサーの方と知り合い、SNSで繋がりました。
ある時、私が個人的に企画したドキュメンタリー映画の自主上映会に、そのプロデューサーさんが真っ先に応募してくださって。そこで「松本さんのいる出版社で書籍化できないか」と声をかけてくださいました。
さらに幸運だったのは、企画会議で企画案を提出した時、私の上長が「番組、本にすればいいのにと思っていたのよ」と言ってくれたこと。おかげで、スムーズに企画が通りました。
―weeeat!編集部
本当にドラマみたいですね!
―松本さん
そうなんです。大きな後押しになったのは、以前私が担当した『おばあちゃんとおやつ』という本の存在でした。小雪さん側にその本をお見せしたところ、「まさにこれの発酵食バージョンですね!」と、目指すべきイメージを共有することができたんです。
この会社に入って30年近くになりますが、番組の書籍化は初めての経験でした。本当に、全ての出来事がこの一冊に繋がっていたんだなと感じます。

映像の“熱”を本に。カメラマンと二人三脚のロケ
―weeeat!編集部
テレビ映像を本にするプロセスで、苦労された点はありましたか?
―松本さん
撮影ですね。テレビ番組の映像は、印刷に耐えられる解像度ではないため、書籍用の写真を撮り下ろす必要がありました。書籍化が決まった年のロケから、毎回カメラマンと二人で現場に同行させていただいたんです。
最初は緊張しましたが、NHKの制作スタッフの方々が次第に「仲間」として受け入れてくださいました。「媒体は違えど、発酵文化の魅力を伝えたい想いは同じだ」と共感し合えたことが、何よりうれしかったですね!
―weeeat!編集部
現場で間近に見た小雪さんは、どのようなご様子でしたか?
―松本さん
本当に自然体な方です。冷蔵庫にあるものでパパッと美味しいものを作ってくれたり、何よりおばあちゃんたちとすぐに打ち解けて、まるで本当の家族のようになるんです。あの温かな空気感があったからこそ、おばあちゃんたちも心を開いて、色んな深いお話をしてくださったのだと思います。
―weeeat!編集部
素敵な方ですね。先日の出版記念イベントでも、気さくに話しかけてくださりうれしかったです。

単なるレシピ本ではない。おばあちゃんの“生き様”を伝える物語
―weeeat!編集部
取材で出会ったおばあちゃんたちの暮らしで、特に印象に残っているエピソードを教えてください。
―松本さん
たくさんありますが……、宮城県のホヤの切り込み(※1)の回ですね。おばあちゃんの人柄やご主人との素敵な関係性はもちろんですが、震災を乗り越えてきたお話に心を打たれました。「津波にあっても海は嫌いになれない」と語る姿に感動しましたね。

また、鳥取県のらっきょうの本漬け(※2)の回は、娘さんも一緒に出演されていて、親子の愛情に惹かれました。
―weeeat!編集部
お話を聞いているだけで、情景が浮かんできます……。
―松本さん
この本は単なる「レシピ本」ではなく、おばあちゃんが大切にしてきた文化や物語を継承しているんです。作り方の手順だけでなく、その背景にある物語もできるだけ文字として残したいという想いで作りました。
(※1)ホヤの切り込み: ホヤを発酵させた塩辛。発酵によって独特の苦味が消え、強い旨みが引き出される。
(※2)らっきょうの本漬け: 鳥取砂丘の「らくだらっきょう」を使用。一度乳酸発酵させてから本漬けにする伝統製法で、1年以上保存が可能。
600ページを280ページに。断腸の思いで向き合った編集作業
―weeeat!編集部
全放送回の魅力を1冊の本に凝縮するのは、大変な編集作業だったのではないでしょうか?
―松本さん
それが一番の難所でした。当初は180ページほどに収める予定でしたが、文字起こしをしてみると500〜600ページもの量になってしまって。削る作業が本当に大変でした。断腸の思いでしたね。最終的に280ページを超えるボリュームになりました。
―weeeat!編集部
まさに涙をのんでの編集作業だったんですね。
―松本さん
泣く泣くカットした部分も多いですが、それでも「ここは残したい」という思いが強く、少し厚い本にさせていただきました。ただ、単に情報を詰め込むのではなく、読んだときのリズム感を大切にしながら、文章をリライトする作業も丁寧に行いました。
本が繋ぐ、作り手と読者の想い
―weeeat!編集部
この本は、どのような方に届いてほしいと考えて作られましたか?
―松本さん
一番は、地域の食や風土、そして先人の知恵に興味がある方に届けたいです。
同時に、若い世代の方々にもぜひ手に取っていただきたくて、ロゴやイラストを随所に取り入れ、少しポップで柔らかい雰囲気に仕上げています。
―weeeat!編集部
確かに、本格的な内容でありながら、可愛らしいデザインで手に取りやすいですよね。
―松本さん
ありがとうございます。そう感じていただけるとうれしいです。 デザインだけでなく中身も工夫していて、伝統的な製法はもちろん、小雪さんが提案してくれた「煎じきゅうりサンド」(※3)のような現代風のアレンジレシピも掲載しています。

(※3)煎じきゅうり: 山形県鶴岡市の伝統的な漬物。漬け汁を何度も替えながら漬け込む。古漬けのような深みがありつつ、酸味は控えめ。
―weeeat!編集部
実際に発売された後、読者からはどのような反響が届いていますか?
―松本さん
読者はがきでの感想が多く届いています。「目には見えない自然の恵みが、私たちの心と体を整えてくれると感じた」「おばあちゃんの知恵を次の世代へ繋ごうとする思いに感動した」といったあたたかい言葉ばかりです。やはり番組を見ていたファンの方が多い印象ですね。
―weeeat!編集部
手書きのはがきだと、より一層その想いの深さが伝わりますね。
―松本さん
本当にうれしいです。読者の方々の声を聞くたび、私たちの想いが届いていると実感します。この本が、誰かの暮らしを少しでも豊かにするきっかけになってくれたら、編集者としてそれ以上の喜びはありません。
―weeeat!編集部
松本さんの情熱、そしておばあちゃんたちの深い知恵。今日はその制作の舞台裏という、特別なお話を聞けて本当によかったです。
私も帰宅してから改めてゆっくりと読み返して、掲載されているレシピを作ってみたいと思います。
本日は素敵なお話をありがとうございました!

食べること、発酵、そして「おばあちゃん」の知恵に深い愛情を注ぐ編集者。昔の思い出話にこそ宝物があると考え、本書では発酵食を通して、作り手の人生や、その土地で受け継がれる営みを大切に描いている。
書籍情報

【書籍名】小雪と発酵おばあちゃん
【著者】小雪/語り手、NHK「小雪と発酵おばあちゃん」制作班/監修
【判型】A5判
【ページ数】280ページ
【定価】本体2,200円+税
【発売日】2025年11月13日
【ISBN】978-4-86311-465-4
▶詳細はこちら