「発酵」の基礎知識 #2 ~酵素の働きが生み出す、和食の甘味と旨味~

「発酵」の基礎知識 #2 ~酵素の働きが生み出す、和食の甘味と旨味~

味噌や納豆、日本酒など昔から私たちの食卓に欠かせない発酵食品。
特に、日本料理「和食」は2013年にユネスコの世界無形文化遺産に登録されるなど、近年日本の発酵食品が注目されています。発酵が日本の食文化とどのように密接に関係しているのか、また発酵にはどんな魅力があるのでしょうか。
今回は、「発酵のメカニズム」や「日本生まれの発酵食品」に関する情報をまとめてみました。

発酵のメカニズム

発酵食品は、微生物が作り出す「酵素」によって分解されます。
そもそも酵素とは、触媒として化学反応を促すタンパク質のことで、微生物も人間も酵素を使いながら生きています。よく生き物と勘違いされますが、酵素自体が変化したり生きたり死んだりすることはありません。ここでは発酵における酵素の働きについて紹介します。

例えば、米麹を作る時には、蒸した米に麹菌を付けて繁殖させます。その過程で麹菌は酵素を作り出します。酵素には、デンプンを繋いでいる分子をハサミのようにチョキチョキと切る機能があります。栄養を細かく切ることで、食べた時に美味しいと感じ、消化吸収もしやすくなるのです。

2大酵素「アミラーゼ」と「プロテアーゼ」

麹菌は酵素の生産力が強く、300種類以上の酵素を作る力を持っています。その中でも麹菌から作られる代表的な2大酵素「アミラーゼ」と「プロテアーゼ」についてご紹介します。
【アミラーゼ】
デンプンをブドウ糖に分解する酵素です。お米などのデンプンを分解し、ブドウ糖という糖分に変化させることで、素材の甘味を引き出します。
【プロテアーゼ】
タンパク質をアミノ酸に分解する酵素です。お肉・魚・大豆などのタンパク質を分解してアミノ酸に変えることで旨味が増えるとともに、素材を柔らかくします。

2大酵素「アミラーゼ」と「プロテアーゼ」

麹菌から始まる微生物のバトンリレー

ここでは、味噌を例に発酵のメカニズムを見ていきましょう。
味噌の原料は大豆・塩・麹です。蒸したお米に麹菌を育て、麹を作ることが発酵の始まりです。麹にはブドウ糖と酵素がたっぷり含まれています。蒸した大豆、麹、塩を混ぜ合わせると、麹の酵素が大豆のタンパク質を分解して旨味や甘味を作り出します。
次に、分解してできた糖分を乳酸菌が食べ、pH値が下がり酸性になると、今度は酵母が出てきて奥深い香り(香気成分)やコクをつけます。
このように、味噌は「麹菌」→「乳酸菌」→「酵母菌」の3つの微生物がバトンリレーをし、旨味・甘味・酸味・香り・コクを加えることで味わい深くなるのです。

日本の代表的な麹を使った発酵調味料、食品

【味噌】
原料は大豆・麹・塩の3種類。日本全国で造られる味噌の種類は麹の種類によって異なります。米麹を使えば米味噌、豆麹であれば豆味噌、麦麹なら麦味噌。2種類以上混ぜ合わせた味噌は調合味噌となります。
日本全国で造られ、気候や風土原料や製法によって種類も様々です。全国で生産される8割は米味噌ですが、東海地方は米味噌や豆味噌、四国・九州地方は麦味噌が主流です。

【味噌】

【醤油】
原料は大豆・小麦・麹菌・塩。主に蒸した大豆と炒った小麦から麹を作ります。原料や製法の違いにより、「濃口」「薄口」「たまり」「再仕込み」「白」の大きく5つに分類されます。全国で生産される醤油の8割は「濃口」醤油です。
関西では色が薄く素材を活かす「薄口」醤油が主流です。中部地方は伊勢うどんなどに使うトロっとした「たまり」醤油があります。山口県を中心とした山陰や九州地方では二度熟成した色・味・香りが濃い「再仕込み」醤油が作られています。愛知県三河地方では「薄口」よりさらに色の薄い「白」醤油が生産されています。このように、地域によってそれぞれに特徴があります。

【醤油】

【米酢】
原料は蒸した米と米糀。特有の香りと、米由来の甘味と旨味があり、角のないまろやかな酸味が特徴です。和食と相性が良く、加熱すると香りが飛びやすいので、すし飯や酢の物などには生のまま使います。また、酢には殺菌効果があるので、健康面や夏バテ対策にも効果的です。

【米酢】

【本みりん】
蒸したもち米・米糀・焼酎(もしくは醸造アルコール)が原料で、熟成させて作られています。江戸時代に清酒が一般的になる前は、甘みのある高級酒として飲まれていました。上質な本みりんは、まるでリキュールのような上品な味わいです。料理に使うと、食材の煮崩れを防ぎ、照りやツヤを出し、まろやかにする効果があります。本みりんの甘味を活かしたスイーツも人気です。
みりんには他に、水あめの甘みを使ったアルコール度数の低い「みりん風調味料」や、食塩を加えた「発酵調味料(みりんタイプ)」があります。酒税がかからない点で値段は安価ですが、本みりんとは明らかに味わいが異なります。違いを大切にしたい方には、本みりんを試していただきたいものです。

【本みりん】

【日本酒】
米、米こうじ及び水を主な原料として発酵させてこしたものが清酒。どぶろくなどの濁り酒に対して、澄んでいるお酒だから「清酒」と呼びます。清酒のうち、原料の米に日本産米を用い、日本国内で醸造したものだけを「日本酒」と言います。実は、醸造酒としては世界で最もアルコール度数が高いお酒です。10世紀の初めに、日本酒の作り方が記された書物が刊行されています。飲んで楽しむのはもちろん、料理に使うと旨味を引き出してくれるのも周知の通りです。

【日本酒】

【麹甘酒】
麹甘酒は、米麹と水を合わせ、糖化させて作ります。お米のデンプンをブドウ糖に変える「アミラーゼ」という酵素で甘さを引き出した発酵食品です。アルコール発酵する前なので、基本的にノンアルコールドリンク。あえて麹甘酒と呼ぶのは、酒粕甘酒との違いを伝えたいから。酒粕の甘酒は、酒粕に砂糖を加えて、水で溶いて作ります。酒粕にアルコールが入っているので、酒粕の甘酒には微量のアルコールを含みます。
麹甘酒は江戸時代には暑気払いに飲む習慣があり、俳句では夏の季語とされています。疲労回復や美肌に効果のあるビタミンなどの栄養が豊富に含まれているため、近年では「飲む点滴」や「飲む美容液」と呼ばれています。

【麹甘酒】

【塩麹】
米麹と塩と水から作られます。塩麹には「プロテアーゼ」という酵素が含まれており、お肉や魚などのタンパク質を柔らかくする効果があります。塩の代わりにも使用できるので活用の幅が広く、万能調味料として常備している方も多いです。
常温で売られているものは加熱殺菌されているため、酵素が失活しています。塩麹の効果を得たい場合は、熱処理されていない冷蔵商品や手作りの塩麹がおすすめです。

【塩麹】

【本枯節(鰹節)】
鰹節の名称は「かつおいぶし」(鰹を燻して干したという意味)から転じたとされています。保存性を高めるために乾燥させており、世界一硬い食品とも言われます。
江戸時代の中期頃、和歌山県印南の漁民である角屋甚太郎(かどやじんたろう)が煙で燻す工程を付け加えた「燻乾法(くんかんほう)」を考案。2代目がカビ付けして日光に当てる「燻乾法カビ付け法」を開発し、発酵食品の「本枯節」が誕生しました。発酵させることで、カツオ特有の風味を生み出すとともに、長期保存が可能となりました。
「本枯節」は、生産過程の大変さからカビ付けしていない「荒節」より高価な鰹節です。酵素の働きでタンパク質や脂質が分解されているため、雑味の少ない上品な香りのお出汁がとれます。

【本枯節(鰹節)】

いかがでしたか。日本の食卓では、様々な料理で多種多様な発酵食品が活躍しています。和食文化が「発酵」に支えられていることが分かりますね。

▼この連載の続きはこちらから

〈第3回〉発酵食品のうれしい4つの効果

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