2024/11/01

【国立公園を味わう#3】富士宮の自然派カフェが発信する「オーガニック」という食の選択肢(Seed Cafe)

weeeat!編集部
【国立公園を味わう#3】富士宮の自然派カフェが発信する「オーガニック」という食の選択肢(Seed Cafe)

国立公園には、自然と人と食の繋がりがあり、独自の食文化があります。この連載では、国立公園の「自然と人と食の繋がり」を紐解くことで、環境と共生するサステナブルな食、未来の日本の食文化の在り方を考えていきます。
静岡県富士宮市は、有機農業を営んでいる農家が多いことから、「有機の里」と呼ばれています。そんな自然溢れる富士宮市で、有機農家が毎日届けてくれる採れたての野菜や、オーガニック食材を使用した自然派カフェがあります。それが「Seed Cafe」。店内併設のファーマーズマーケットで販売している食材をそのまま使ったメニューや、生産者と触れ合えるイベントを開催するなど、気づきの“たね”を見つけるきっかけを提供しています。今回は同カフェを運営する岩野雄介さんに、カフェオープンの経緯を伺いながら、オーガニック食材へのこだわりと想いについて話を聞きました。

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インドで知った「食」の大切さ

weeeat!編集部
今日は「Seed Cafe」の店舗にお邪魔しています。美味しそうな野菜がたくさん置いてありますね!

―岩野さん
これは、今日採れたての新鮮な野菜です。カフェで提供しているメニューは全てここに置いてある食材だけで作れちゃうんですよ。レシピもご希望があれば教えています。

weeeat!編集部
フレッシュな野菜をその場で購入できて、お店のメニューが再現できちゃうなんてうれしい! 今日は、カフェのコンセプトやオーガニック食材へのこだわりなど色々教えてください。よろしくお願いいたします。

―岩野さん
ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします。

weeeat!編集部
岩野さんは、過去にインドに行かれて食との向き合い方を考えるようになったとお聞きしました。なぜインドに行かれたのでしょうか?

―岩野さん
ヨガを本格的に学ぶために、発祥の地であるインドを訪れました。
元々格闘技をやりながら整骨院を経営していました。患者さんの健康を第一に治療を行っていましたが、「楽になった」「良くなった」という声を聞く一方で、治療後に同じ症状で戻ってくる患者さんが多かったんです。本当の意味で患者さんの力になれないことに思い悩み、「整骨院を卒業してもらう」ことをコンセプトにしたコンディショニングジムを立ち上げました。
やはり、整骨院を訪れる方はどこかを痛めているため、そこから「運動」に移行するのが難しかったのだと思います。もっとラクに運動できるものはないかと探していたところ、ヨガにたどり着きました。
自分なりに調べてみたところ、さまざまな運動のルーツをたどるとヨガにあることを知ったんです。インドで生活したことで、100kgくらいあった体重が1か月で16kg痩せた時は驚きましたね。

weeeat!編集部
16kgも! その理由はヨガにあるのでしょうか?

―岩野さん
そうですね。いろんな原因があると思いますが、私は「食」が大きかったと考えています。私は格闘技をやっていたので、減量を経験したことがあります。ただ、減量するとヘロヘロで力が出なくなります。インドに行ったときは食生活を変えただけで16kgも痩せました。しかも身体が軽くて一番動きやすかったんです。現地では全部オーガニックの食材でベジタリアン生活を送っていました。スパイスを使った料理が自分に合っていましたね。もちろん毎食カレーです(笑)。そこで、食の大切さに気づくとともに、食を抜きにして健康は語れないと痛感しました。

帰国後に感じた日本のオーガニックの課題

weeeat!編集部
日本に帰ってからも、そのような食生活を継続したのですか?

―岩野さん
帰国後数週間は頑張りました。しかし、東京で新鮮でオーガニックな素材を手に入れるのはとてもハードルが高いことに直面しました。今でこそオーガニック食材を取り扱うスーパーも増えていますが、決して多くはないですよね。
耕地面積に対する有機農業が占める割合は0.5%程度しかありません。そこで、「オーガニック食材が流通するような社会にしていかなければならない」「未来を担う子どもたちのためにも、食を選択できるようにしなければならない」と思うに至ったんです。数店舗あった整骨院をたたみ、農業を始めることにしました。

weeeat!編集部
なぜ富士宮で農業を始められたのでしょうか?

―岩野さん
富士宮は水が豊富で土壌の多くは火山灰を含む黒ボク土です。土の団粒構造が発達しやすく、保水性があるのに透水性もあるという相反する作用があります。そのため、作物が根からしっかり養分や水分を吸収することができ、丈夫な根を張ることができます。

weeeat!編集部
土に特徴があるんですね!

―岩野さん
肥料を使わず栽培するには、根の成長が大切です。自分で水分や肥料を探しに行く根を育てなくてはなりません。このような農法(自然栽培)を行うには適している場所だと思っています。
そしてしっかりとした根が張ると、その野菜の個性を際立たせることができ、美味しい野菜を育てることができます。

情報発信基地を目指してカフェをオープン

weeeat!編集部
しっかり根を張る。人間も同じかもしれませんね(笑)。農業をしながら、なぜカフェをオープンしたんですか?

―岩野さん
食の選択肢を広げるための情報発信基地を作りたいと思ったからです。近年、アメリカでは、健康や環境へ配慮したオーガニックやヴィーガンフードが増えています。しかし、日本ではあまり広まっていません。
「なぜ、日本だけが遅れているのか」と、当時農業を学んでいた先生に話を聞いてみると、欧米ではオーガニックカフェやレストラン、パブなどを介して、食材に関する情報発信が頻繁に行われていることを知りました。

weeeat!編集部
どういった情報発信が行われているのでしょうか?

―岩野さん
例えば、お店で食べたトマトが美味しかったとします。「このトマト美味しい」と店員に声をかけると、「このトマトは◯◯農園で作ったもの。今度の◯曜日にファーマーズマーケットをやっているから、行ってごらん」という返答があります。お客さまからすれば情報をキャッチするチャンスがいっぱいあるんです。

weeeat!編集部
確かに、日本はそのような情報が少なく感じますね。

―岩野さん
当時、東京にあるオーガニックのお店をいくつか回りましたが、そういった情報発信はほとんどありません。やはり、「食の選択肢を広げるには情報を発信することが大切」と考えるようになりました。

とはいえ、ただ情報を発信するだけだと、人の感情に訴えることはできません。「美味しいからオーガニックっていいよね」「おしゃれだからいいよね」というように、感情に訴える体験を提供することで行動を変えたいという想いから、情報発信基地としてのカフェをオープンしました。

weeeat!編集部
Seed Cafe」でも地元の有機農家の写真を掲載したり、レシピを紹介したりしているのは、そういった理由があったんですね。改めて、「Seed Cafe」の特徴やコンセプトを教えてください。

―岩野さん
Seed Cafe」は、「有機の里」として知られる富士山麓の自然溢れる環境で育った有機野菜やオーガニック食材を使用した自然派カフェです。「カフェ」ではあるものの、ただ美味しさだけを追求しているのではありません。店名にあるように、さまざまな情報を発信することで、お客さまに気づきの“たね”を見つけてもらうことをコンセプトにしています。

岩野雄介さん
静岡県富士宮市で、自然栽培(無肥料無農薬)の「こだま農園」と、オーガニックカフェ&マーケットの「Seed Cafe」を経営

ファーマーズマーケットやイベントで情報を発信

weeeat!編集部
具体的にはどのような取り組みをしているんですか?

―岩野さん
例えば、カフェ店内にファーマーズマーケットを併設しています。地元・富士宮市で有機農業を営んでいる農家さんが毎日届けてくれる安心安全な野菜を販売しています。野菜だけでなく、旬の野菜を活用したピクルスや乾燥野菜、添加物・白砂糖不使用のジャムやお茶、農薬・化学肥料不使用の自家製小麦を使ったうどん、味噌などの発酵食品も取り揃えています。

weeeat!編集部
商品の販売を通じて、情報発信をしているんですね。他にはどのような取り組みをしていますか?

―岩野さん
農園見学や有機農家を招いた座談会、音楽ライブなどの各種イベントを開催しています。
生産者とのつながりは大切にしており、月に一度「オーガニックコミュニティ会」を開催し、生産の現場や地域創生に携わっている方々と参加者を結ぶ機会を提供しています。
その会では、その人の実体験を参加者に共有することで、より良い農業のあり方やまちづくりについて考えるきっかけを作っています。
さらに、富士山麓有機農家推進協議会が始めたシードバンクとコラボレーションし、固定種や在来種を自家採種して次世代へとつなげる活動にも取り組んでいます。

weeeat!編集部
「たね」という観点でいうと、「Seed Cafe」とシードバンクで共通している部分はありそうですね。

―岩野さん
そうですね。「Seed Cafe」は、次の世代に少しでも多くの食の選択肢を与えることで、未来に“たね”を蒔くことをコンセプトにしています。そのため、直接的に「種」を意識したわけではありません。ただ、農業に携わる中で、種の大切さは実感しています。
今や市場に流通する野菜の9割が海外で採取された種で育てられています。またそのほとんどが交配種と呼ばれるもので、次の世代には形質も成長も不揃いになるものばかりです。
元来、日本人は種を大切にし、種からできる作物によって命をつないできた民族です。それが、いつの間にか食料だけでなく、種さえも海外から輸入しているという現実に、私たちは直面しているのです。地域の種を未来につなげるために、シードバンクとともに活動を続けています。

「ヴィーガンが正しい」だけでは分断を生んでしまう

weeeat!編集部
日本の食料自給率の低さは課題ですが、種まで輸入しているとは知りませんでした。こうした情報に触れることで、いろんな気づきが生まれそうですね! 続いて「Seed Cafe」で提供しているメニューについて教えてください。

―岩野さん
Seed Cafe」のメニューは、ファーマーズマーケットで販売している有機野菜をそのまま使用しています。中でも、旬の野菜をふんだんに使ったランチプレートが人気です。他にもお子様に対応したキッズプレートもご用意しています。

weeeat!編集部
どれも美味しそう! メニューを拝見すると、豚肉を使った料理もありますね。

―岩野さん
はい。カフェをオープンした当初は、ヴィーガン&オーガニックに振り切っていましたが、今は富士宮で育てられたニジマスや卵、豚肉などを使ったメニューもあります。
これは、情報を発信していく上で、「ヴィーガンが正しい」というような発信をしてしまうと、分断を生み兼ねないと考えたからです。そこで、動物性食材を扱う以上は、アニマルウェルフェアの観点から、動物のストレスや健康被害を減らす飼育方法で育てられている食材を扱うようにしています。

weeeat!編集部
「ヴィーガン&オーガニック」というと、ハードルが高く感じられて、お店に入りにくいというお客様もいそうですね。

―岩野さん
そうですね。お肉を扱うようになったことで、男性のお客様が増えました。ヴィーガンの女性の方が、そうではないパートナーと一緒にいらっしゃいます。そうすると、ヴィーガンではないお客様も、お肉以外の野菜の美味しさに気づいてくれたりしますね。
そんなお客様が、野菜中心の食生活に変わったり、オーガニック食材を選ぶようになったり、少しずつ変わってくれたらうれしいです。

地元のコミュニティから生まれた「オーガニックサミット」

weeeat!編集部
確かに、そのように垣根を下げると、越える人が増えますね。
岩野さんは「オーガニックサミット」の開催にも携わっていると聞きました。こちらについても教えてください。

―岩野さん
富士宮には、未来への希望を持ち、さまざまな分野で活躍している人たちがたくさんいます。そんな熱い想いを持ったメンバーと実行委員会を立ち上げ、年に一度本質的な「オーガニック」を感じられる空間を表現したイベントの実施を計画しました。
「オーガニック」というと、農薬や化学肥料、遺伝子組み換え技術を使っていない有機農産物を思い浮かべる方が多いと思います。しかしながら、オーガニックには「循環」という考え方があり、これは農作物に限ったことではありません。環境、健康、自然との共生、地域との結びつき、健全な社会……。これらの循環を作っていくのが「オーガニックサミット」です。
イベントではオーガニック食材の販売や飲食ブースはもちろん、リラクゼーション、ワークショップ、クラフト、ライブ演奏、講演会や映画鑑賞、また動物のふれあい体験なども行っています。
このような仲間たちとの活動が、富士宮市の「オーガニックビレッジ宣言」へつながってほしいと思っています。

先人たちがつないできた「たね」を次代へ

weeeat!編集部
最後に、今後のやりたいことについて教えてください。

―岩野さん
Seed Cafe」のように情報発信する場が増えていくこと。それこそが未来につながる希望だと考えています。その意味では、「Seed Cafe」の運営で得た知見やノウハウを、より多くの方に共有することが大切です。今考えているのは、「ファーマーズアカデミー」の開校です。

weeeat!編集部
どのようなことが学べるのでしょうか?

―岩野さん
有機農業に興味を持つ人は多いものの、それだけで生計を立てていくには、時間も労力もかかる傾向にあります。就農者が農業を安定的に営んでいくためには、農産物の加工や6次産業化、さらにはブランディングも必要になります。
そこで、カフェの運営の仕方や農産物の加工の仕方、付加価値の高め方などを就農希望者が学べる場の提供を考えています。

weeeat!編集部
カフェの運営やブランディングまで学べるなんて、内容が充実していますね!

―岩野さん
ありがとうございます。他にも、海外進出も検討しています。これは事業拡大が目的ではなく、「海外が注目する日本のカフェ」という構図を作ることで、より多くの方に情報を届けるためです。
私たちも日頃からオーガニックに関する情報を発信していますが、やはり富士宮から情報を発信しても、近隣の方々にとっては当たり前のことだけに、なかなか情報が届かないものです。
ならば、海外から日本の魅力を発信することで、先人たちが大切につないできた「たね」への誇りを、思い起こすことができるのではないかと考えました。

weeeat!編集部
海外が注目しているというだけで話題性がありますね。 私たち『weeeat!』も情報発信をしている立場として勉強になりましたし、一緒に広めていきたいと思いました。今日はありがとうございました。



今回『weeeat!』では、「Seed Cafe」のホーリーバジル・きゅうり・トマトを使用してレシピ開発し、「野菜たっぷり!ヴィーガンガパオライス(卵・肉不使用)」を作りました。

大豆ミートに、タケノコやピーマン・エリンギなど食感の良い野菜と巧みな調味料使いで仕上げました。トッピングにはレモンやキュウリ、トマトをのせてさっぱりと♪ホーリーバジルの爽やかな香りが食欲をそそります。

▶レシピはこちら


店舗情報

店舗名:Seed Cafe
住所 〒418-0051 静岡県富士宮市淀師1121-7
電話 0544-66-6666
営業時間 9:0016:30(定休日/日曜日)

Seed Cafe」の商品は公式通販サイトで購入できます。
通販サイト:https://seedcafe.base.shop
Intagram:https://www.instagram.com/seedcafemarket.miya

weeeat!編集部
weeeat!編集部は、私たちの大切な「食」を中心に、人と地球にやさしい情報を発信していきます。 “地球にやさしい取り組み”を共感・実践する仲間とともに、サステナブルな社会と文化を目指します。

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