【国立公園を味わう#2】農家で猟師で醸造家。材料から作る富士宮産クラフトビール(フジヤマハンターズビール)
国立公園には、自然と人と食の繋がりがあり、独自の食文化があります。この連載では、国立公園の「自然と人と食の繋がり」を紐解くことで、環境と共生するサステナブルな食、未来の日本の食文化の在り方を考えていきます。
富士山をはじめ、広大な森林や高原、湧き水などの豊かな自然に囲まれた静岡県富士宮市。ここには、富士箱根伊豆国立公園の自然の恵みに育まれた様々な食材があります。
今回ご紹介するのは「フジヤマハンターズビール」。富士山と棚田の里として知られる静岡県富士宮市・柚野。田園風景が広がる自然豊かな地区に、農家兼猟師が始めたクラフトビールの醸造所があります。富士山から湧き出た天然の伏流水と、無農薬で栽培した大麦・ホップなどをビールの原料として作ったクラフトビールは、自由かつ大胆なテイストで、多くのファンに愛されています。今回は同社が運営する醸造所を訪れ、代表の深澤道男さんの経歴や、手がけるクラフトビールの特徴について話を伺いました。
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「子どもの口に入る食べ物くらいは自分で作りたい」
―weeeat!編集部
今日は、醸造所にお邪魔しています。目の前ににわとりが歩いている!可愛いですね(笑)。
―深澤さん
奥にヤギや二ホンミツバチもいますよ(笑)。あとでご案内しますね。
―weeeat!編集部
自然がたくさんあって癒されます。今日は深澤さんのことや、クラフトビールのこだわりなど色々教えてください! よろしくお願いいたします。
―深澤さん
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
―weeeat!編集部
深澤さんは生まれも育ちも富士宮市(旧・芝川町)柚野出身ということですが、もともとどんな職業に就かれていたのですか?
―深澤さん
はい。18〜19歳の頃からLPガス関連の事業を営んでいました。ただ、実家が農家でお米だけは栽培していたんです。
その後、祖父母が亡くなって農地が荒れてしまったのですが、子どもができたことをきっかけに、改めて農業と向き合うようになりました。「せっかく田んぼや畑があるなら、子どもの口に入る食べ物くらいは自分で作りたい」。そんな想いから米作りをスタートしました。その後、畑を開拓して野菜なども生産・販売するようになりました。
―weeeat!編集部
農業は米作りから始まったのですね! 今はビールの原料をメインで育てているのですか?
―深澤さん
基本的にはビールの原料である大麦やホップ、他にも米や野菜を栽培しています。畑で収穫した野菜は、浅間大社付近のビアバー「タップルーム」で提供したり、各地で開催される音楽フェス・キャンプフェス等のアウトドア・イベントで調理販売したりしています。
―weeeat!編集部
タップルームの他にも色々な場所で販売されているのですね。どんなメニューを提供されているのでしょうか?
―深澤さん
タップルームでは常時7種類のクラフトビールと、旬のジビエや畑で採れた野菜を使った料理を提供しています。また、ここ醸造所に併設されたテイスティングルームでは、ビールの有料試飲や量り売り、ボトル販売を行っています。
フェスやイベントでは、ご当地グルメの代表である「富士宮やきそば」をアレンジして、猪肉を使ったジビエ焼きそばや、新たに開発したジビエバーガーを販売しています。フジロックフェスティバルや朝霧JAMにも出店してますよ。
獣害を目の当たりにして狩猟を始める
―weeeat!編集部
ジビエ料理も! 深澤さんは猟師としても活動しているそうですが、ご自分で獲ったイノシシやシカを提供されているのですか?
―深澤さん
はい。現在も狩猟期には柚野の里山へ入り、獲った野生のイノシシやシカを精肉販売。ベーコンやジャーキにも加工して販売しています。
―weeeat!編集部
農家をしながら猟をするようになったのはなぜですか?
―深澤さん
植林をするようになったのがきっかけです。柚野の山々に生えている木のほとんどがスギやヒノキの人工林で、間伐などを行わなければなりません。大規模に伐採されて何もなくなっている場所も多い。我々は森林を守るために、地域の仲間や子どもたちと一緒に桜や紅葉樹を植林しました。
ところが、次の年にその場所に行ってみると、植えたはずの木々がシカに食べられていたのです。こうした獣害を防ぐために、自分でシカを捕まえようとして猟を始めました。
―weeeat!編集部
柚野の森林を守るために猟師もされているんですね。
「どうせなら」無農薬で麦芽やホップを栽培
―weeeat!編集部
子どもの食育のために米作りから始めて、現在はビールを作ったり、ジビエ料理を提供したりと、幅広く手掛けていますね。ビールを作るようになったきっかけは何だったのでしょうか?
―深澤さん
米や野菜はもちろん、猟もしているから肉もありますし、漁師の仲間もいるから魚もあります。また、木こりの仲間が木を提供してくれるし、燃料も賄えます。大工がいるから空間も作れる。おまけにミュージシャンの仲間が音楽を奏でてくれる。あと足りないものってなんだろう……? お酒でしょ!って(笑)。そんな時に、ビールの麦芽や発酵用の容器が入ったビールづくりキットというものがあることを知りました。麦芽やホップがあれば自分の手でビールを作り出せるって面白いですよね。
日本には酒税法があるため、自家醸造する場合は薄めてアルコール度数を1%未満にしなければなりません。実際のビールは作っちゃいけないんですけど、とりあえず醸造してみたくて(笑)。
―weeeat!編集部
それで自分で作ってみたのですね!
―深澤さん
どうせやるなら原料から自分で作ってみようと思い立ち、無農薬で麦芽やホップを栽培し始めました。その後、県内の地ビールの製造所にに自作の麦芽を納品したのがはじまりで、自前の麦芽や柚子を使ったビールをあちこちのブルワリーに原料提供やOEMで作ってもらうことになりました。キッチンカーでイベントを回って、作ってもらったビールを販売したところ、予想以上の反響に手応えを感じました。
―weeeat!編集部
すごい! そこから本格的にビールを作るようになったのですね。
―深澤さん
はい。ビールづくりの面白さに気づき、自分でやってみたいと思いました。ただ、ビールの製造免許を取得するハードルは高く、取得の見通しがつかない状況だったんです。そんな時に酒税法改正の動きがあり、「2018年3月までに免許を取得しないと、法律上定められたビールを作ることができなくなる」という情報が入ってきて。
―weeeat!編集部
その後すぐにフジヤマハンターズビールを立ち上げたのですか?
―深澤さん
はい。会社を設立し、醸造所を作るとなると設備投資も大きくなるので、たくさん悩みましたね。しかし、知り合いや農家の仲間、地域の皆さんが後押しがあり、決心しました。
柚野という自然豊かな里山からいただく、自然の恵みをみんなで分かち合える。そんなビールを作ろうと。
富士山の湧き水が引き出す原料の味
―weeeat!編集部
改めて、「フジヤマハンターズビール」で提供しているビールの特徴について教えてください。
―深澤さん
ビールの仕込み水は、富士山から長い年月をかけて湧き出た天然の伏流水を使っています。この地域の水は非常に滑らかな軟水です。そのため、ストレートに原料や副原料の良さを引き出すことができます。
―weeeat!編集部
まさに、柚野の恵みがたっぷり詰まったビールですね。
―深澤さん
ありがとうございます。あとは、ビールに使う副原料も里山で採れた柚子や桃などの果物、山椒やクロモジといった山の素材を使用しています。香りづけのために、間伐したヒノキのチップを加えることもありますよ。
―weeeat!編集部
副原料に使う素材も大胆! どんな味のビールなのか想像もつきません。
―深澤さん
そうかもしれません。旬の素材を自由な発想で使うので、同じレシピでも毎回同じ味にはなりません。季節や気候、副原料の使う量や使い方によって、違った味わいを楽しめるのもビールの面白さですね。
―weeeat!編集部
これまでに何種類くらいのビールを作られたのでしょうか? 人気のビールや思い入れのあるビールがあれば教えてください。
―深澤さん
毎年作っている定番の銘柄もあるので一概には言えませんが、100種類は超えているかもしれません。人気の銘柄としては、自分たちで栽培した米を使用したIPA(インディアン・ペール・エール)「NENGU」や、地元のヒノキの間伐材を副原料に加えたラガービール「YOKI」ですね。
また、うちで育てているニホンミツバチのハチミツと地元で収穫した本柚子を使用したハニーラガー「YUNOMURA」もおすすめです。自社栽培の麦芽、ホップはもちろ里山の花々から集めたハチミツを使用しているので、里山の力を感じてもらえる味わいになっています。
―weeeat!編集部
どれも美味しそう! このパッケージのデザインもかわいいですね。このモミの木のようなマークは何をモチーフにしているんですか?
―深澤さん
これは黒曜石の矢じりです。この近くに大鹿窪遺跡という縄文時代の遺跡があるんです。それで矢じりにしてみました。
パッケージのデザインは全て同じデザイナーにお願いしています。このデザイナーとは仲間のやってるライブに行った時に出会いました。出会ったその日に意気投合(笑)。そんな縁からビールのデザインをお願いしました。
―weeeat!編集部
仲間たちで作ったビールなんですね! 地元以外でも飲むことができるんですか?
―深澤さん
おかげさまで全国にお客さんが増えています。小規模生産のため、お取り扱い店舗は限られていますが、全国の酒屋・ビアバー・レストランにて販売しています。他にも、地元富士宮のお祭りやローカルイベント、地域の音楽・キャンプフェスなどのアウトドア・イベントで出店しているため、見かけた際はぜひ味わっていただければと思います。
フジヤマハンターズビールが目指すのは「純富士宮産ビール」
―weeeat!編集部
ありがとうございます。最後に今後の夢を教えてください。
―深澤さん
私たちが作っているビールは、主原料から副原料にいたるまで、ほぼ地元富士宮産の素材を使ったビールがメインです。柚野の自然をそのまま味わえるビールを、より多くの人に味わっていただけるよう、これからも自由な発想でたくさんのビールを作っていきたいです。
ゆくゆくは原料だけでなく、発酵に用いる酵母や設備を稼働するエネルギーまで、自前で生産できるようにしたいですね。現在は温度管理のためにガスや電気を使っていますが、薪があればお湯を沸かすことができるし、湧き水があれば冷却設備の代わりになる。全てを自分で生産できるようにして、柚野の里山の恵み100%の富士宮産ビールを追求したいです。
―weeeat!編集部
ここでしか作れない柚野の里山の恵み100%の富士宮産ビール、素敵ですね! ビールが飲みたくなったので、このあとタップルームにいって、全部飲み比べしてきます。今日は、ありがとうございました。
今回「weeeat!」では、「フジヤマハンターズビール」の生ホップを使用してレシピ開発し、「ホップのビールフリット(丸ごと&かき揚げ)」「自家製レモンシロップ~生ホップの香り~」を作りました。
ホップのビールフリット(丸ごと&かき揚げ)
ホップを使った独特の風味と苦い味の大人のフリット。ホップを丸ごと揚げたものと野菜を混ぜた2種類のフリットです。ビールの原料だけあって、ビールがぐいぐい進みますよ! ビール好きの人にぜひ食べて欲しい一品です♡
▶レシピはこちら
自家製レモンシロップ~生ホップの香り~
簡単に作れて保存もできる「自家製レモンシロップ」。水や炭酸で割ってレモネードやレモンスカッシュにしたり、料理やスイーツに加えたりと、とても便利です。ホップを入れるとほろ苦い味と独特の風味が付きます。
▶レシピはこちら
店舗情報
店舗名:フジヤマハンターズビール
住所 〒419-0303 静岡県富士宮市大鹿窪1427(テイスティングルーム・醸造所)
〒418-0067 静岡県富士宮市宮町12-2 いちふくコーポ1F(浅間大社タップルーム)
営業時間 テイスティングルーム・醸造所:13:00〜18:00(土・日)
浅間大社タップルーム:17:00〜23:00(金) / 13:00〜23:00 (土) / 13:00〜20:00(日)
フジヤマハンターズのビールは公式通販サイトで購入できます。
通販サイト:https://fujiyamahunters-beer.stores.jp