役目を終えた窓ガラスが、暮らしを彩る器に—madoが映す再生の物語

廃車となった車の窓ガラスが、ガラス職人の手で美しい器に生まれ変わる——。琉球ガラスという伝統文化と現代の環境問題が交差するなかで生まれたガラス食器シリーズが「mado」です。廃車の窓ガラスを再利用し、琉球ガラス職人の手仕事によって新たな製品へと生まれ変わらせるという取り組みは、資源の有効活用と伝統技術の継承、そして日常生活における持続可能な選択肢の提案にもつながっています。今回は、開発に携わった琉球ガラス村を運営するRGC株式会社・川上さんと、流通・販売を担うショールームJapan creation space monova・杉原さんのお二人に、その背景と想いを伺いました。
琉球ガラスと都市をつなぐ、共創のきっかけ
―weeeat!編集部
まずはお二人の自己紹介と、現在のお仕事について教えてください。

―川上さん
沖縄本島の最南部、糸満市にある県内最大の手作りガラス工房・琉球ガラス村を運営するRGC株式会社の川上です。琉球ガラス村はもともと6つの工房が集まって40年前に設立された組合組織で、これまでに現代の名工4名、沖縄県工芸士17数名を輩出する手作りガラスの製造・販売会社です。また、グラスづくり体験やマルシェなどの地域交流事業も展開しています。

―杉原さん
私は東京・新宿パークタワーのリビングデザインセンターOZONE内で、「Japan creation space monova」というショールームを運営しています。monovaは全国各地の工芸品を集め、都市部の消費者に届けることを目的とした施設で、2011年にスタートしました。monovaをオープンする前から地域工芸のプロモーションに携わり、琉球ガラスをはじめとした産地とのつながりを大切にしてきました。
―weeeat!編集部
ありがとうございます。
お二人はどんなきっかけで琉球ガラスに携わるようになったのでしょうか?

―川上さん
私自身は広島県出身で、大学は大阪、社会人になってからは東京で通信業界に勤めていましたが、20代後半に沖縄のプロジェクトに派遣されたことをきっかけに、琉球ガラスに出会い、その美しさと職人の姿勢に惹かれて転職・移住しました。
―杉原さん
私は、琉球ガラス村を訪れたことがきっかけですね。その時に川上さんとも知り合いました。
以来、情報交換や商品企画のアドバイスをしたりしていますね。
―weeeat!編集部
その出会いを経て、ショールームでmadoシリーズを扱うことになるのですね!
―杉原さん
そうですね。以前から琉球ガラスについては興味がありましたが、3年ほど前にmadoシリーズが立ち上がったのをきっかけに、ショールームで取り扱うようになりました。それまで直接的な取引はなかったのですが、コロナ禍を経て琉球ガラス村が変革を進めるなかで、madoの取り扱いをきっかけに再びご縁がつながったという感じです。
廃車のガラスに新しい命を吹き込んだmadoシリーズ
―weeeat!編集部
madoというプロダクトは、どのような背景や課題から生まれたのでしょうか?
―川上さん
沖縄県は鉄道が「ゆいレール」のみで、日本有数の車社会です。そのため、月に数千台単位で廃車が発生しており、その処理にかかる費用も莫大なものとなっていました。車両の大半は再利用されていますが、窓ガラスやエアバックはリサイクルすることができません。このような背景のもと、ビジネスマッチングを通じて、沖縄県うるま市で総合リサイクル業を営む拓南商事さんより、「窓ガラスを活用できないか」とお声がけいただき、mado開発に至りました。
―weeeat!編集部
その話があったときに、どのような思いを抱きましたか?
―川上さん
もともと琉球ガラスは「再生」にルーツを持った伝統工芸品です。今から115年ほど前に本土からガラスづくりが伝わりましたが、第二次世界大戦の激しい戦火で、それまでの工房や技術の多くが消失してしまいました。モノが少ない戦後のなか、職人たちは廃棄されていたコーラやビールの空き瓶を見て、「このガラスを使ってもう一度ものづくりをしよう」と考えたのが琉球ガラスの再出発でした。
当時は原料を調合する資金も乏しかったので、廃瓶を溶かしてガラスに再生する“アップサイクル”という発想が自然に生まれたのです。今もなお廃瓶などで琉球ガラスを製作している工房は残っているものの、近年は珪砂(けいしゃ)と呼ばれる砂とソーダ灰や石灰などを調合する製法が主となっています。当時の職人の技術を若手の職人に継承しなければならないという危機感を覚えるとともに、この技術を継承する機会にしたいと考えました。
職人の技術をつなぎ、サステナブルな未来へ
―weeeat!編集部
車のガラスの再生には難しさがあると思うのですが、実際の製造工程ではどんな苦労がありましたか?

―川上さん
おっしゃる通り、車のガラスには課題があります。特にフロントガラスは2層構造になっており、間に樹脂の皮膜が入っているため、燃焼時に有害なガスが出てしまいます。また、リアガラスには熱線が入っているため、除去する必要もあります。現在は、サイドガラスを使用しつつ、拓南商事さんと一緒にフロントガラスの樹脂を気化する技術を研究したり、リアガラスの熱線を着色剤として利用したりする技術についても研究しています。
また、再生ガラスは通常の調合ガラスに比べて固まりやすく、職人の手際の良さが問われます。ベテランの技を若手が間近で見て学べる環境を整え、ものづくりの現場で技術をつなげることを重視しています。madoの製品には、その試行錯誤と継承のプロセスが込められているんです。
―weeeat!編集部
素敵な取り組みですね。杉原さんは、こうした取り組みをどう受け止めていらっしゃいますか?

―杉原さん
madoのコンセプトは、まさに今の時代に必要とされていると感じました。琉球ガラスの原点である再生の精神を、車のガラスという現代の廃材で表現している点が素晴らしいですし、色味も非常に洗練されていて、日常使いにも最適。琉球ガラスと聞くとカラフルなイメージを持つ方も多いですが、madoはグレーがかった落ち着いたトーンで、日常の器としてとても優れています。その背景にあるストーリーも含めて、生活者にとって共感しやすいプロダクトだと思いました。
食卓に沖縄の彩りを運ぶ、madoのある暮らし
―weeeat!編集部
私自身、madoを手に取ったとき、すっと暮らしに馴染む印象を受けましたが、お二人のお気に入りのアイテムはありますか?

―杉原さん
私はプレートですね。ガラスのお皿って意外と持っている方が少ないと思うんですが、madoのプレートは料理が映えると思います。特に夏場には、冷たい前菜やフルーツなどとの相性がとても良くて、見た目にも涼しげな印象を与えてくれます。
また、光を通したときに浮かび上がる模様や、テーブルに揺らぐ影がまるで沖縄の海の波のように感じられることもあります。そういったちょっとした視覚的な驚きや喜びが、日常の食卓に小さな感動を与えてくれると思っています。ダイヤカットのデザインは特にその効果が顕著で、使うたびに「やっぱりいいな」と感じさせてくれるアイテムです。
―川上さん
私もプレートを推したいです。開発当初、福岡の一つ星シェフがイベントでmadoに寿司を盛ってくれたんですが、「まるで海の上を泳いでいるよう」とおっしゃっていたのがとても印象に残っています。料理との相性の良さは、実際に使ってこそ感じてもらえる部分です。
―weeeat!編集部
色合いも素敵ですが、デザインや見た目もシンプルで使いやすそうですね。デザイン面でこだわった点はありますか?

―川上さん
ありがとうございます。デザインはモール柄とダイヤ柄を採用しています。モール柄は、戦後の沖縄で物資が不足していた時代に、入手しやすかったスプリングを型として使っていた背景があり、その歴史をオマージュとして取り入れています。また、ダイヤ柄はmadoの原料提供をしてくださっている拓南商事さんが取り扱う鉄筋の模様をモチーフにしています。鉄筋の力強く規則的な線が、ガラスの中に模様として刻まれることで、再生というテーマと企業連携の象徴にもなっているんです。
アップサイクルの先に広がる、madoの可能性
―weeeat!編集部
madoシリーズの反響はいかがですか?
―川上さん
おかげさまで、沖縄の産業まつりを皮切りに、リゾートホテルのロゴ入りグラスや飲食店用の器、また自動車関連企業のノベルティなど、幅広い展開が進んでいます。
最近では、沖縄県内に薬局を展開する企業での周年記念品や、建材としての利用、さらにはUVカット機能を活かした新しい用途も開発中です。
―杉原さん
monovaでは、はじめは色合いについて興味を持たれる方が多いです。その後、琉球ガラスの歴史やアップサイクルのストーリーに納得されて、ご自宅用としてご購入いただいたり、ギフトに選んでいただいたりしています。デザイン性・実用性とアップサイクル製品であるという点が両立していることが、購買の後押しになっていると思います。
―weeeat!編集部
これからのmado、そしてお二人の展望についても教えてください。
―杉原さん
madoを通じて、工芸や地域のものづくりに興味を持っていただけたらうれしいです。琉球ガラス村にも実際に足を運んで、ガラスづくりの現場を体感してほしい。東京でmadoを手に取った方が「現地にも行ってみたい」と思ってくださるような、そんな橋渡しができればと思っています。
―川上さん
今後は、太陽光パネルや家電など新しい素材に
も取り組んでいく予定です。すでに廃棄済の太陽光パネルのガラスを使った器の試作も始めています。ガラスの発色には、海外から輸入されるレアアースなどの鉱物が必要ですが、近年はその調達が不安定になってきています。今後、従来の原材料に頼らない、より持続可能なガラスづくりが重要になってくると思います。
有限な資源をどう活用するかという社会的な課題と、職人の技術継承という文化的な課題。その両方に向き合いながら、割れてしまった器も回収し、再びガラス製品として再生できるような循環の仕組みを構築していきたいです。また、器に限らず、アートやインテリアといった新しい分野にも挑戦しながら、杉原さんのように都市の声を届けてくれるパートナーとともに、次の時代の器を生み出していけたらと思います。
―weeeat!編集部
私も現地でガラス作り体験をしてみたくなりました!monvaのショールームでもmadoシリーズをはじめとした琉球ガラス村の商品が発信されるのを楽しみにしています。本日はありがとうございました!
【付記】madoシリーズ×weeeat!レシピのご紹介
本ページに掲載している写真には、madoシリーズの食器にweeeat!編集部おすすめのレシピを盛り付けたものがあることにお気づきでしょうか?
▶桃とフルーツトマトの冷製パスタ
https://weeeat.tokyogas-com.co.jp/recipe/00225.html
▶塩昆布で決まる! 厚揚げとゴーヤのチャンプルー
https://weeeat.tokyogas-com.co.jp/recipe/00130.html
▶ホールスパイスで作る自家製クラフトコーラ
https://weeeat.tokyogas-com.co.jp/recipe/00138.html
夏の涼し気な食卓が演出できる食器と料理を、ご家庭でも楽しんでみませんか?
東京では、今回取材にご協力いただいたJapan creation space monovaのショールームで、madoシリーズの実物をご覧いただくことができます!
環境にもやさしく美しい、そんなストーリーを持つサスティナブルな食器を、ぜひお手に取ってみてくださいね。
企業情報
企業名:RGC株式会社(琉球ガラス村)
公式サイト:https://www.ryukyu-glass.co.jp/
住所:〒901-0345 沖縄県糸満市字福地169番地
営業時間:9:30~17:30 年中無休
お問い合わせ:TEL:098-997-4784 / FAX:098-997-4944 E-mail: info@ryukyu-glass.co.jp
企業名:Japan creation space monova
公式サイト:https://www.monova-web.jp/
住所:〒160-0023東京都新宿区西新宿3-7-1 新宿パークタワー内(リビングデザインセンターOZONE 5階)
営業時間:10:30~18:30
休館日:水曜日(祝日除く)、年末年始、夏期休館あり
電話番号:03-6279-0688